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理事長室からの花だより

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理事長室からの花だより

2013.10.04

vol.239  − 培 (つちかう) −

大学の構内に金木犀(キンモクセイ)の香りが漂っています。
この香りに接すると、もうこういう季節かという思いと共に、規則正しく巡り来る時への安堵感と、時は過ぎ行くという切なさを同時に感じます。

爽やかな日和(ひより)が続きました。休日での仕事、帰路、秋空に流れる雲、あるいは暮れ方(くれがた)の星が、沈んでいる心を和ませてくれます。
秋は、大地には恵みを、人間(ヒト)には省みる機会を与えてくれます。

対処すべき課題が次々と出現してきます。気持ちだけが逸(はや)って、体調を崩してしまいました。時の移ろいに、暫く、目が行っていませんでした。

新幹線沿線の風景、気が付けば、田圃(たんぼ)の稲刈りが始まっており、所々で稲藁(いねわら)を焼いたり、焼き畑の風景が拡がっていました。
以前は、稲藁は貴重な再利用の材料でした。今では、田圃から上る煙が、現代の風物詩です。

         天  将(まさ)に今夜の月ならんとし
         一遍  寰瀛(かんえい)を洗う
         暑(しょ)退きて九霄浄(きゅうしょうきよ)く
         秋澄みて万景清(きよ)し
         星辰(せいしん)  光彩を譲り
         風露  晶英(しょうえい)を発す
         能(よ)く人間(じんかん)の世を変え
         翛然(しゅくぜん)として是れ玉京
                                 劉禹錫(りゅう・うしゃく)

澄み切った月光はこの世でさえ変えてしまう…。この時季の月の美しさは今も変わりません。

悠々と四季を繰り返している時間の流れ、それと比べると一人一人の人生は、あっという間に終わってしまいます。側にいる人々との関わりが、人生だとすると、人間(ヒト)は、限りある時間と限られた空間の中での出会いに“哀歓”を見出して、日々、歩んでいるということになります。

そんな人生で、人間(ヒト)は各々の仕事を持っています。“仕事”というものは、お互いに、相手に敬意と信頼を持って接して、自分に求められている役割を愚直に継続していくことで初めて成り立っています。

医療に従事している人間は、病める人々と出会いと別れを日々繰り返しています。そんな中で、師匠、先輩、同僚、仲間、そして患者さんとの関わりを通じて、職業的使命感を培(つちか)っていきます。

只、それだけでは唯(ただ)のマニュアル人間になってしまいます。
医療に携わる人間は、患者さんの人格に関心を持って、先ず、敬意を払い共感を示します。そして、今までに培ってきた感性と技術、知識で接して、初めてそこに“共感”が生まれます。この日々の繰り返しにより、情感を持った医療人が育成されていきます。
そこまで努力しても信頼が築かれない場合があります。医療とは難しく、困難なものです。

医療は、不確実な要素に満ちています。医療は、将来どんなに発展しても、科学には成り得ないかも知れません。「哲学は科学だけでは成立しない」(ウィトゲンシュタイン)のと同様です。現時点では、科学だけでは捉えきれない何かがそこに存在しているからです。

人々が望んでいるのは、患者さんに耳を傾ける、受け入れる、共感を示す、そして見守りのできる医療人です。患者さんは、既製品の医療ではなく、自分だけの医療(オーダーメイド)を望んでいるのですから。

10月3日(1704)、フランスの医師ジャン=バティスト・デニが亡くなっています。
彼は、動物の血液を人間に輸血するという行為を決行しました。医学がそれまでの考え方からの大転換となった歴史的大事件です。彼も医学の先駆者達と同様に、報われることなく亡くなっています。今日の医学の発展は、多くの犠牲に立って現在に至っています。

今週の花材は、執務室は赤紫で秘めた高貴さを、秘書室は栗と暖かい色彩で、子供の頃の秋の日溜まりを思い出させてくれます。


(福島県立医科大学理事長  菊地臣一)



今週の花


【理事長室】
■赤芽柳   ヤナギ科/落葉高木/猫柳と山猫柳の雑種で、日本の
山野に自生。赤い花芽の皮がとれると、銀白色のモコモコした花穂があ
らわれる。
■トルコギキョウ〔プラティニブルー〕   リンドウ科/多年草/花の大
きさや咲き方、色合いが多岐にわたり、品種がとても豊富。祝花仏花と
もに人気の高い夏の花。
■ホトトギス   ユリ科/多年草/《名前の由来》花びらの斑点模様が
鳥のホトトギスに似ていることから/山野草として人気が高く、約20種
のうち10種が日本固有種。花期は9〜10月で他に色、白、オレンジ等
がある。
■スモークツリー〔ロイヤルパープル〕   ウルシ科/落葉高木/《名
前の由来》煙がモクモクしているような花姿から/「ロイヤルパープル」
はあまり花が咲かない品種で、綺麗な葉色が魅力。
■オハイオブルー   イソマツ科/花持ちが良くドライフラワーにも適す
スターチスの交配種。花茎いっぱいに小花(ガク)を多数つける。
■アンスリュウム〔チョコ〕   サトイモ科/常緑多年草/光沢があり造
花と見間違うような花。花弁のように見える部分は苞で、中央の棒状の
部分が花。
※拡大写真
http://www.fmu.ac.jp/univ/hana/2391.jpg

【秘書室】
■クリ   ブナ科/落葉高木/花期は5〜6
月頃で、黄白っぽい穂状で芳香のある花が咲
く。秋に実が成熟するとイガが裂けて中から栗
があらわれる。材は堅く耐久性があり腐りにく
いので、建築材や家具等に利用される。
■雪柳〔塗り雪柳〕   バラ科/落葉低木/
春に小さな白い花を枝いっぱいに咲かせる。
今回は紅葉したかのように赤く染めたものを使
用。
■アンスリュウム〔グラシオーサ〕
 (理事長室と同花材)
■ピンポン菊   キク科/多年草/ピンポン
玉のように真ん丸に咲く可愛い菊。日持ちの
良い菊の中でも、特に長く楽しめる品種。
■テマリソウ   ナデシコ科/多年草/マリ
モや芝を連想させる個性的な花。ふさふさした
部分は、花・雄しべ・雌しべが変化したもの。
※拡大写真
http://www.fmu.ac.jp/univ/hana/2392.jpg

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