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理事長室からの花だより

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理事長室からの花だより

2013.10.11

vol.240  − 遷 (うつる) −

雨に濡れた紫陽花(アジサイ)、まだ地に還らない薄紅(うすくれない)の花が下を向いて土に還る準備をしています。

朝霧の中、道端の曼珠沙華(マンジュシャゲ)、華やかな赤でまだ覚めやらぬ頭に覚醒(かくせい)を迫ってきます。肌を撫でる大気の快(ここちよ)い涼やかさ、これもこの時季の贈り物です。

“夜汽車”での日帰りの往来が多いこの頃、時に、車中での仕事をやめ、月と語っています。
天空低く輝いているときの月は、輪郭が鮮明で、闇を群青(ぐんじょう)に染めています。そうしていると、昔の仕様がないような事ばかりが脳裡に蘇ってきます。

信夫(福島の古名)の里は、四方を山々に囲まれています。その上には、海のように蒼天(そうてん)が拡がっています。山間(やまあい)の小さな町に育った私は、いつもそこに海を観てしまいます。

         秋空は澄みきはまりて翳(かげ)もたず
         見はるかす海にただ一つ舟
                               佐佐木信綱

澄み切った秋空の下、海辺で青い海に浮かぶ一艘(いっそう)の舟をみているこの歌、上空を仰ぎみて、天空を海に見立て、一艘の小舟に自分を重ねてしまいます。

時の移ろいは、切れ目なく連続して動いています。その中に季節が画然と作られています。
そこに連続性はありません。その境目は曖昧としています。しかし、自然は確実に変わっていきます。
   (vol.145  http://www.fmu.ac.jp/univ/cgi/hana_disp.php?seq=178
組織や人もそのような形で変化していければ理想的です。

大河の流れに似た切れ目のない“時の移ろい”から、今の世情に目を転じてみます。
そこに展開されているのは自然のそれとは逆の現象です。デジタル化が益々進み、すべての事象を有りか無しかで処理されています。そこには、連続性はなく、曖昧な境目を許してくれません。

適度な“曖昧さ”や“余白”は、古来、我が国や東洋の人々が持っていた淡い連続性の捉え方で、“生きる知恵”です。

海外の知人達との交流で気付かされたことがあります。
敬愛していた今は亡き先達に、食事の際、ワインを勧めながら、「我が国でもワインの人気が高まっている」と話しました。彼は、「日本にはsake(酒)があるのではないのか。日本のidentity(存在証明)をどう考えているのか」と問い掛けられました。自己、祖国あっての世界ではないのかと。
世界を飛び廻っていた彼の発言だけに、重い問い掛けでした。

亡き恩師からは、度々、日本文化の独自性(伊勢神宮の建築の素晴らしさ、街の清潔さ、日本人の勤勉など)を説かれました。スコットランド人の彼が日本人の私にです!
世界を視野に動くなら、先ず足元を見つめよという忠告でした。

幾人かの米国人から、トモダチ作戦での救援物資受け渡しの時の、彼等にとっては奇跡のような光景を何度も聞かされました。東日本大震災の時、人々は一列に並んで、手渡しで救援物資を後方へ運んでいたそうです。この光景に感動したというのです。

思い出した事があります。それは新聞の文字の正確無比さです。
昔、確かに存在していました。我々の世代の人間には、新聞に誤植があるというのは「小さな事件」でした。新聞を文字や文章の手本にしていた程です。
只、最近は、誤植を見つけることは、以前程には難しい事ではなくなりました。

「自分のことは自分が一番知らない」、は真実かも知れません。
世界規模での競争時代のこんな時だからこそ、遷り行く世情の中、もう一度、自分、地域、自分の組織、祖国の足元を見つめ直さなければと感じています。

今週の花材は、執務室は深まりゆく秋の森、秘書室は秋の典雅さを表現しています。


(福島県立医科大学理事長  菊地臣一)



今週の花


【理事長室】
■ヘリコニア   バショウ科/多年草/《名前の
由来》ギリシャ神話に登場する女神ムーサの住
む山“ヘリコン”より/バナナの葉に似た大きな
葉を持ち、大型種は5〜7mにも育つ。花(苞)
は赤やオレンジなど、熱帯特有の鮮やかで美し
い色彩。花は苞に包まれるように数個ずつ咲く。
■マユミ〔コマユミ〕   ニシキギ科/落葉低木
/《名前の由来》枝が良くしなり、弓の材料として
利用されたことから/花期は5〜6月頃で、黄緑
色の花が咲く。花は葉に隠れあまり目立たない
が、実の美しさが好まれ庭木としても人気。「コマ
ユミ」は葉・花ともにニシキギに似る。
■トルコギキョウ〔アンバーダブルワイン〕   
リンドウ科/多年草/花の大きさや咲き方、色
合いが多岐にわたり、品種がとても豊富。祝花
仏花ともに人気の高い夏の花。「アンバー」シリ
ーズは琥珀を思わせるヨーロピアン調のシックな
色合い。独特の質感の品種で花傷みが少なく長
く楽しめる。「ダブルワイン」はボルドー色の八重
咲。
■ドラセナ〔コーディラインカプチーノ〕   リュウ
ゼツラン科/日本で出回る観葉植物の代表種。
「カプチーノ」は赤黒の葉の縁に白色が入る。
※拡大写真
http://www.fmu.ac.jp/univ/hana/2401.jpg

【秘書室】
■アンスリュウム〔プレビア〕   サトイモ科/常
緑多年草/光沢があり造花と見間違うような花。
花弁のように見える部分は苞で、中央の棒状の
部分が花。「プレビア」は紫色のチューリップ咲き
品種。
■トルコギキョウ〔プラティニブルー〕   
(理事長室と同花材)
「プラティニブルー」は濃紫色の八重咲き。
■タニワタリ〔ラッフル〕   チャセンシダ科/常
緑シダ植物/葉の縁にフリルが入り波打つのが
特徴のグリーン。丸めたりして花止めとしても利用
出来る。
※拡大写真
http://www.fmu.ac.jp/univ/hana/2402.jpg

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