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理事長室からの花だより
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理事長室からの花だより
vol.243 − 失 (うしなう) −
明け方、太陽が山の頂(いただき)近くまでくると、朱に染まった空を背景に、尾根の樹々や電波塔が、切り絵のように黒く浮かんできます。西の山肌が夕陽のように赤く染まります。
大気の澄み渡っているこの時季の一瞬の光景です。
霜月、朝夕の冷え込みが段々と厳しくなっています。樹々の彩りも寂しくなってきました。
そして世情は、師走に向かって驀地(まっしぐら)です。只、自らを振り返るのも晩秋に至ったこの時季です。
壮(さか)んなる男の愁い去らんとし
天の露霜は樫群(かしむら)に置く
前田 透
男の愁いは他人には本来、語るべきものではありません。
想いは、天にある露霜(つゆじも)のように孤高です。その姿は樫の木々に象徴されます。
タイタニック号の事故は、今や伝説です。ボートに乗れないことを知りながら、最後まで演奏を続けていた楽団の存在は、人間の勇気や気高さを示すエピソードとして広く知られています。
この時のバイオリンが、競売に掛けられたと世界中で報じられました。
このバイオリン、それ自体は、何の変哲もない楽器の筈です。しかし、人間(ヒト)は、この楽器に物語(伝説、神話)を求め、高い金額を投じます。何故なら、人々がこの楽器に物語を求めるからです。
自分の幼かった頃と今を比べてみると、昔の鮮烈な記憶として残っている大事件が、今は毎日のように報じられています。
日常的に起きている大きな事件や事故、余りに多過ぎて、3ヵ月もすれば人々の脳裡から忘れ去られてしまいます。1年後、その意味を考えて語る人は殆どいません。人々の関心も他に移ってしまっています。
若い頃、聴いていた流行曲(はやりうた)と今のそれとのテンポの違い、旬の期間の短さも、“今”を象徴しています。人々の歌の共有のされ方も昔と今とでは様変わりです。
一連の現象は、“慌ただしく過ぎていく時間”に関係しているような気がします。
今は (vol.229 http://www.fmu.ac.jp/univ/cgi/hana_disp.php?seq=266)
昔と違って、人々に共有されて、心の拠り所になるような物語が創られにくくなっています。熟成する時間が無いからです。ここに“時の速さ”がもたらす現代の“荒涼”の一端の原因があるように思えてなりません。
「カイユボット展」に行ってみました。「床削りの人々」の作者で、金銭的に不自由がなく、印象派の人々を支援した画家というイメージを今まで持っていました。足を運んで、違った印象を持ちました。
展示されている作品の多くが個人蔵です。このことは、美術館で購入する程の価値は、当時は、認められていなかったということでしょう。恐らく、彼の描いた透明感のある大気や風景は、当時の人々にとってはごく普通の存在だったのではないでしょうか。
当たり前のコトを絵にしても、当時の人には、作者が何を訴えようとしているか分かってもらえない…。だからこそ、観る人は、彼の絵からメッセージを受け取るのは難しかったのでは…。
「失って初めて分かる」が、ここでも当て嵌(は)まります。近年、彼の評価が高まったのは、現代が失ってしまったモノを彼の絵に観るからではないのか…。
彼の作品には「失ったモノでしか語れない」懐かしい風景や人の佇まいが描かれています。
10月27日(1859、安政6年)、吉田松陰が刑死しています。享年30歳です。
10月31日(1918、大正7年)、天才と謳(うた)われたエゴン・シーレが28歳で亡くなっています。
シーレは写楽に影響を受けていると言われています。
エリア・カザンは、映画「エデンの東」のジェームズ・ディーンにシーレの面影をみていると…。
シーレ展ふかき悲しき眼もて瞠(みは)られおり われの深処を
木下弘子
今週の花材は、執務室、秘書室とも葉を落とした木々の佇まいを思わせます。
木瓜(ボケ)の紅(くれない)が心に沁みます。自分もこのような立ち姿でありたいものです。
(福島県立医科大学理事長 菊地臣一)
大気の澄み渡っているこの時季の一瞬の光景です。
霜月、朝夕の冷え込みが段々と厳しくなっています。樹々の彩りも寂しくなってきました。
そして世情は、師走に向かって驀地(まっしぐら)です。只、自らを振り返るのも晩秋に至ったこの時季です。
壮(さか)んなる男の愁い去らんとし
天の露霜は樫群(かしむら)に置く
前田 透
男の愁いは他人には本来、語るべきものではありません。
想いは、天にある露霜(つゆじも)のように孤高です。その姿は樫の木々に象徴されます。
タイタニック号の事故は、今や伝説です。ボートに乗れないことを知りながら、最後まで演奏を続けていた楽団の存在は、人間の勇気や気高さを示すエピソードとして広く知られています。
この時のバイオリンが、競売に掛けられたと世界中で報じられました。
このバイオリン、それ自体は、何の変哲もない楽器の筈です。しかし、人間(ヒト)は、この楽器に物語(伝説、神話)を求め、高い金額を投じます。何故なら、人々がこの楽器に物語を求めるからです。
自分の幼かった頃と今を比べてみると、昔の鮮烈な記憶として残っている大事件が、今は毎日のように報じられています。
日常的に起きている大きな事件や事故、余りに多過ぎて、3ヵ月もすれば人々の脳裡から忘れ去られてしまいます。1年後、その意味を考えて語る人は殆どいません。人々の関心も他に移ってしまっています。
若い頃、聴いていた流行曲(はやりうた)と今のそれとのテンポの違い、旬の期間の短さも、“今”を象徴しています。人々の歌の共有のされ方も昔と今とでは様変わりです。
一連の現象は、“慌ただしく過ぎていく時間”に関係しているような気がします。
今は (vol.229 http://www.fmu.ac.jp/univ/cgi/hana_disp.php?seq=266)
昔と違って、人々に共有されて、心の拠り所になるような物語が創られにくくなっています。熟成する時間が無いからです。ここに“時の速さ”がもたらす現代の“荒涼”の一端の原因があるように思えてなりません。
「カイユボット展」に行ってみました。「床削りの人々」の作者で、金銭的に不自由がなく、印象派の人々を支援した画家というイメージを今まで持っていました。足を運んで、違った印象を持ちました。
展示されている作品の多くが個人蔵です。このことは、美術館で購入する程の価値は、当時は、認められていなかったということでしょう。恐らく、彼の描いた透明感のある大気や風景は、当時の人々にとってはごく普通の存在だったのではないでしょうか。
当たり前のコトを絵にしても、当時の人には、作者が何を訴えようとしているか分かってもらえない…。だからこそ、観る人は、彼の絵からメッセージを受け取るのは難しかったのでは…。
「失って初めて分かる」が、ここでも当て嵌(は)まります。近年、彼の評価が高まったのは、現代が失ってしまったモノを彼の絵に観るからではないのか…。
彼の作品には「失ったモノでしか語れない」懐かしい風景や人の佇まいが描かれています。
10月27日(1859、安政6年)、吉田松陰が刑死しています。享年30歳です。
10月31日(1918、大正7年)、天才と謳(うた)われたエゴン・シーレが28歳で亡くなっています。
シーレは写楽に影響を受けていると言われています。
エリア・カザンは、映画「エデンの東」のジェームズ・ディーンにシーレの面影をみていると…。
シーレ展ふかき悲しき眼もて瞠(みは)られおり われの深処を
木下弘子
今週の花材は、執務室、秘書室とも葉を落とした木々の佇まいを思わせます。
木瓜(ボケ)の紅(くれない)が心に沁みます。自分もこのような立ち姿でありたいものです。
(福島県立医科大学理事長 菊地臣一)
今週の花
【理事長室】
■木瓜〔舞妓〕 バラ科/落葉低木/《名
前の由来》中国名の木瓜“モッケ”から変化し
て「ボケ」。ウリのような大きな実をつけること
から/6月頃に5〜6cm大の実をつけ、果実
酒や鎮痛剤の材料になる。丸みをおびた花が
可愛らしく、庭木や盆栽として人気。
■ケイトウ〔ボンベイケイトウ〕 ヒユ科/一
年草/《名前の由来》花序が鶏の鶏冠に似て
いることから「鶏頭」/花期は6〜9月で、赤や
ピンク、オレンジ等の花穂をつける。「ボンベイ
ケイトウ」は花穂が扇形になる品種。今回はケ
イトウでは珍しいダーク系の色を使用。
■スプレー菊〔フロッギー〕 キク科/多年
草/茎が分岐し一本に数輪の花が咲くスプレ
ー咲の菊。大菊・小菊に比べ、花色も豊富で
可愛らしい印象。「フロッギー」はピンポン菊を
小さくしたようなポンポン咲きの緑色。
※拡大写真
http://www.fmu.ac.jp/univ/hana/2431.jpg
■木瓜〔舞妓〕 バラ科/落葉低木/《名
前の由来》中国名の木瓜“モッケ”から変化し
て「ボケ」。ウリのような大きな実をつけること
から/6月頃に5〜6cm大の実をつけ、果実
酒や鎮痛剤の材料になる。丸みをおびた花が
可愛らしく、庭木や盆栽として人気。
■ケイトウ〔ボンベイケイトウ〕 ヒユ科/一
年草/《名前の由来》花序が鶏の鶏冠に似て
いることから「鶏頭」/花期は6〜9月で、赤や
ピンク、オレンジ等の花穂をつける。「ボンベイ
ケイトウ」は花穂が扇形になる品種。今回はケ
イトウでは珍しいダーク系の色を使用。
■スプレー菊〔フロッギー〕 キク科/多年
草/茎が分岐し一本に数輪の花が咲くスプレ
ー咲の菊。大菊・小菊に比べ、花色も豊富で
可愛らしい印象。「フロッギー」はピンポン菊を
小さくしたようなポンポン咲きの緑色。
※拡大写真
http://www.fmu.ac.jp/univ/hana/2431.jpg
【秘書室】
■珊瑚水木(サンゴミズキ) ミズキ科/落葉低木/《名前の由来》冬に
なると枝が珊瑚のような鮮やかな色に染まることから/白玉水木(シラタマミ
ズキ)の変種。初夏に白い小さな花が咲き、秋に白い実をつける。美しい枝色
を楽しむ花材として流通。
■ピンクッション〔ゴールドダスト〕 ヤマモガシ科/常緑低木/針山に待
ち針を刺したような独特の花姿。待ち針のように見える一つ一つが雄しべ。
■ピンポン菊〔ジェニーオレンジ〕 キク科/多年草/ピンポン玉のように
真ん丸に咲く可愛い菊。日持ちの良い菊の中でも、特に長く楽しめる品種。
「ジェニーオレンジ」は落ち着いたオレンジ色。
■オーニソガラム ユリ科/球根植物/《名前の由来》ギリシャ語の鳥“or
nithos”と乳“gala”が語源。開花した花を飛んでいる鳥に例えたことから/
茎頂に麦の穂を大きくしたような花序をつけ、30〜50程の小花を咲かせる。
花は白色で星形に咲き、花序の下方から次々と開花する。
※拡大写真
http://www.fmu.ac.jp/univ/hana/2432.jpg
■珊瑚水木(サンゴミズキ) ミズキ科/落葉低木/《名前の由来》冬に
なると枝が珊瑚のような鮮やかな色に染まることから/白玉水木(シラタマミ
ズキ)の変種。初夏に白い小さな花が咲き、秋に白い実をつける。美しい枝色
を楽しむ花材として流通。
■ピンクッション〔ゴールドダスト〕 ヤマモガシ科/常緑低木/針山に待
ち針を刺したような独特の花姿。待ち針のように見える一つ一つが雄しべ。
■ピンポン菊〔ジェニーオレンジ〕 キク科/多年草/ピンポン玉のように
真ん丸に咲く可愛い菊。日持ちの良い菊の中でも、特に長く楽しめる品種。
「ジェニーオレンジ」は落ち着いたオレンジ色。
■オーニソガラム ユリ科/球根植物/《名前の由来》ギリシャ語の鳥“or
nithos”と乳“gala”が語源。開花した花を飛んでいる鳥に例えたことから/
茎頂に麦の穂を大きくしたような花序をつけ、30〜50程の小花を咲かせる。
花は白色で星形に咲き、花序の下方から次々と開花する。
※拡大写真
http://www.fmu.ac.jp/univ/hana/2432.jpg