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理事長室からの花だより

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理事長室からの花だより

2013.12.13

vol.249  − 転 (てんずる) −

福島で日没がもっとも早いのが3日から10日です。那須連峰や奥羽山脈の頂(いただき)は雪を纏っています。山の麓(ふもと)は、落葉樹と常緑樹が交わり合って、蝦夷錦(えぞにしき)のようです。
天地はすっかり冬です。

花屋さんには、シクラメンやポインセチアが並べられ、華やかな小世界を作っています。

小春日和、水質日本一の荒川(須川)(vol.70、190)沿いを、散歩してみました。
   (vol.70  http://www.fmu.ac.jp/univ/cgi/hana_disp.php?seq=96
   (vol.190  http://www.fmu.ac.jp/univ/cgi/hana_disp.php?seq=226

心の裡(うち)にまで届く瀬音、瀬音には二つの音があります。
一つは、浅瀬や堰(せき)が作り出す、白波を立てる激流による咆哮(ほうこう)する音です。
もう一つは、段差のある水底(みなそこ)から発せられる、コトコトに近い絹のような柔らかい音です。

上流の中程に、巨大な自然石を多数敷き詰めた堰、横置き版の重森三玲の作庭といえる程の規模と迫力です。支流の淀みには、自然の地形が作った堰、この下流では鴨が泳ぎ廻り、魚影が見て取れます。

田園に目を転ずれば、緑の葉に林檎の紅、葉を落とした柿の橙、遠目には袋掛けと思わしき点描の白、青空を背景にパッチワークのように果樹畑が広がっています。

畑の隅にある柿の木、一つだけの実、意図的です。
子供の頃、聞かされた記憶です。柿は人間にとって最古の甘味で、貴重でした。人間が独り占めせずに鳥に残しておく、自然の恵みに感謝して再生を願う意味があります。昔の慣習が生きていたのです。

林檎(リンゴ)の収穫作業が、休日を利用して行われていました。
収穫の終わった畑の地面(桃か梨か…)には、黄色い落ち葉が敷き重ねられています。北風が吹くと、舞うように散ってその上に折り重なり、絨毯(じゅうたん)が織られていくようです。

堤防の裾に、寄り添った2本の銀杏(イチョウ)の木、一方の葉は全て黄色、他方は緑のままです。
青空を背景にした黄と緑、対照の美です。

堤防の道端に鎮座していた、水天宮と刻まれた石碑、麓に移されて、侘びしげに佇んでいました。「お前の役目は終わった」とでも言い渡されたかのように…。
その側に、もう一つ小さな石の祠(ほこら)も置かれていました。字が刻まれていました。昭和9年と読めました。この河川が“暴れ川”であったことを示しています。
時は、万物に一か所に留まることを許しません。

河岸には伸び放題の薮や林、その中から聞こえてくる鳥たちのさえずり、“穏やか”な景色です。
上流に辿ると吾妻の嶺々が眼前に展開して雄大です。下流を望むと、遠目に福島の市街地です。

市街は何事もなかったように佇んでいます。
遠くの橋では車が往き交っています。サイレント(無声)映画を観ているようです。

この光景、福島が抱えている苦悩、再生の困難さ、口の重さ、沈黙、躊躇(ためら)いに通じます。
受けた衝撃が、表現するには大き過ぎるのです。

戦争の実体験者が口ごもったり、語らないまま亡くなっていくのと同じです。
言葉や文字で表現すると、一つ一つはすべて事実、しかしそれが全てではありません。このもどかしさは、原発事故対応の中で思い知りました。

自然は色々な事を、人間に教えてくれます。人の手の入らない自然は、人間の手には余ること、そして世の中に変わらないことなどない、などです。そんな中、時は移ろい、四季は巡ってきます。

12月8日(1941、昭和16年)日本がハワイ真珠湾を攻撃し、大東亜戦争が勃発しました。
 
         十二月八日さっさと過ぎゆきて中十四日  義士の登場
                                          冷水茂太

日米開戦、忠臣蔵ともに忘却されつつあります。

今週の花材は、両室ともダリアの白と赤に存在感があります。
師走の慌ただしさの中、典雅な佇まいをみせてくれています。


(福島県立医科大学理事長  菊地臣一)



今週の花


【理事長室】
■アメリカヒイラギ〔クリスマスホーリー〕   モチノキ科/
常緑低木/葉にヒイラギに似たトゲがあり、秋に赤い実をつ
ける。“ヒイラギ”の名がつくが、日本のヒイラギはモクセイ科
で別種。欧米ではクリスマスシーズンにホーリーを飾る。
■ダリア〔雪泉(ゆきいずみ)〕   キク科/多年草/花径
が3cm程の極小輪から30cm以上にもなる巨大輪種まで
ある。大きさ、花色ともに豊富で3万種を超す。原産地メキシ
コの国花。「雪泉」は白色。
■OHユリ〔ピコ〕   ユリ科/球根植物/カサブランカと同
じオリエンタルハイブリッド種。大きく優雅な花姿と芳香が特
徴。「ピコ」は赤色。
※拡大写真
http://www.fmu.ac.jp/univ/hana/2491.jpg

【秘書室】
■ダリア〔熱唱〕   (理事長室と同花材)「熱唱」は鮮やかな赤橙色。
■バラ〔アバランチェ〕   バラ科/落葉低木/花色や花型が多岐にわたり、
約2万種を超す。古くから親しまれ、現代でも人気の高い花。「アバランチェ」は
大輪白色。
■アンスリュウム〔ピンクシフォン〕   サトイモ科/常緑多年草/光沢があり
造花と見間違うような花。花弁のように見える苞を鑑賞するため、長期間楽し
める。
■クジャクヒバ   ヒノキ科/常緑低木/ヒノキからつくられた園芸品種。孔
雀の羽のような葉をもつ。寒くなるにつれ、葉先が黄色味を帯びる。リース等
の材料に適す。
■雲竜柳   ヤナギ科/落葉高木/竜が昇って行くような曲線が特徴。
日本でも広く栽培され、庭木や生け花に利用。今回は晒したものを使用。
■珊瑚水木(サンゴミズキ)   ミズキ科/落葉低木/白玉水木の変種。冬
になると枝が珊瑚のような鮮やかな色に染まる。花期は5〜6月頃で、枝先に
白色の小花を多数咲かせる。
※拡大写真
http://www.fmu.ac.jp/univ/hana/2492.jpg

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