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理事長室からの花だより
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理事長室からの花だより
vol.254 − 感 (かんずる) −
この冬、信夫の里には雪が殆ど降りません。
只、庭の樹木に掛かる雪の重さへの準備は欠かせません。雪吊りや雪囲、庭を冬模様にしています。
寒さが底です。帰宅すると、室内は、冷蔵庫の中が暖かく感じる程です。
暖まらない部屋で書を繙(ひもと)きます。気が付くと闇と沈黙が支配している深夜です。星空を見上げて、就寝です。
水仙や白き障子のとも映り
芭蕉
障子を通った光は、室内を柔らかくしてくれます。障子と水仙、窓辺でも仏壇でも合います。
この時季、暁方、月が冴え渡り、玄関脇の障子が、微かな光で桟(さん)と共に闇に浮かんでいます。
出勤時、一瞬の幻想的な風景です。
寒風吹きすさぶなか、鳶(とんび)が規則的に羽根を伸ばし、河原の上空を旋回しています。餌の少ないこの時季、彼等には厳しい時です。
只、川辺の枯れ芒(ススキ)や篠竹(しのだけ)、大きな樹木で構成されている薮では、早や、小鳥達が賑やかに飛び回っています。
寒くても、冬の寒さを面白がる清少納言の気持ち、あるいは雪見酒(雪国の人々はとてもそんな気分にはなれませんが)、この雅趣、忘れずにいたいものです。
我が国には、四季があります。只、季節の移ろいにははっきりとした境はありません。
(vol.145 http://www.fmu.ac.jp/univ/cgi/hana_disp.php?seq=178)
(vol.240 http://www.fmu.ac.jp/univ/cgi/hana_disp.php?seq=277)
しかし、四季各々(おのおの)が、明らかに異なった様相を持っています。
そして、そこにはそれとは気付かない、漂うように、しかし確実に変わっていく時の移ろいがあります。
「徒然草」は、季節の移ろいを「あはれなれ」と記しています。
この季節の移ろいや巡りが、古来、我々の自然観を作り上げ、磨き上げてくれました。
自然とそこに住む人々との関わりにより、日本人は時の移ろいに儚さを感じ、自然の変化に敏感になり、心の裡(うち)に、「世の中に変わらないものなどない」、無常感や万物流転の人生観を醸成したのです。
花曇り、新緑、野分(のわけ)、時雨(しぐれ)、小春日和、風花(かざはな)、淡雪(あわゆき)など、季節を表現する美しい言葉、枚挙に遑(いとま)がありません。
この季節感の表現は、季節が作り出す自然の表情を人間に引き寄せて、先人達が紡(つむ)ぎ出してきたものです。
高校で学んだ古典、
「方丈記」の「ゆく河の流れは絶えずして、しかももとの水にあらず…」、
「平家物語」での「祇園精舎の鐘の声、諸行無常の響あり…」、
「徒然草」での「閑(しず)かなる山の奥、無常の敵競ひ来らざらんや…」、
「冥途の飛脚」での「水の流れと身の行方、恋に沈みし浮き名のみ難波に…」、
ここにみる詠嘆、自然に対比させての人生の表現は、遥か昔から培われていたのです。
日本画の特徴の一つに、季節を象徴する数々の名画があります。
「雪松図」(円山応挙)もその一つです。年の始めに限って公開されます。雪で反射された光を受けて輝いている黒松と赤松、黒と金で描かれています。精緻な写実だけでない、と言って修飾的な様式でもない、ぎりぎりのところで調和させているように見えます。こちらの心まで新春の光を浴びている心地がします。
我々日本人の美的感覚や人生観を培ってくれた四季の変化、最近の急激な変化は、我が国の文化の根底さえ崩し兼ねないという危惧を持ってしまいます。
(vol.169 http://www.fmu.ac.jp/univ/cgi/hana_disp.php?seq=203)
(vol.219 http://www.fmu.ac.jp/univ/cgi/hana_disp.php?seq=256)
1月23日(1902、明治35年)、八甲田山、死の雪中行軍と後に言われる訓練が開始した日です。
小説「八甲田山死の彷徨」(新田次郎)で広く知られるようになりました。
同じ日、七里ヶ浜で逗子開成中学のボートが転覆して12人が死亡しました(1910、明治43年)。
この悲劇は「真白き富士の嶺」(作詞:三角錫子(みすみ・すずこ)、作曲:ジェレマイア・インガルス)という名曲により今に伝えられています。
今週の花材は、両室とも、冬に乏しくなる落ち着いた色で、春を待つ雰囲気を醸し出しています。
(福島県立医科大学理事長 菊地臣一)
只、庭の樹木に掛かる雪の重さへの準備は欠かせません。雪吊りや雪囲、庭を冬模様にしています。
寒さが底です。帰宅すると、室内は、冷蔵庫の中が暖かく感じる程です。
暖まらない部屋で書を繙(ひもと)きます。気が付くと闇と沈黙が支配している深夜です。星空を見上げて、就寝です。
水仙や白き障子のとも映り
芭蕉
障子を通った光は、室内を柔らかくしてくれます。障子と水仙、窓辺でも仏壇でも合います。
この時季、暁方、月が冴え渡り、玄関脇の障子が、微かな光で桟(さん)と共に闇に浮かんでいます。
出勤時、一瞬の幻想的な風景です。
寒風吹きすさぶなか、鳶(とんび)が規則的に羽根を伸ばし、河原の上空を旋回しています。餌の少ないこの時季、彼等には厳しい時です。
只、川辺の枯れ芒(ススキ)や篠竹(しのだけ)、大きな樹木で構成されている薮では、早や、小鳥達が賑やかに飛び回っています。
寒くても、冬の寒さを面白がる清少納言の気持ち、あるいは雪見酒(雪国の人々はとてもそんな気分にはなれませんが)、この雅趣、忘れずにいたいものです。
我が国には、四季があります。只、季節の移ろいにははっきりとした境はありません。
(vol.145 http://www.fmu.ac.jp/univ/cgi/hana_disp.php?seq=178)
(vol.240 http://www.fmu.ac.jp/univ/cgi/hana_disp.php?seq=277)
しかし、四季各々(おのおの)が、明らかに異なった様相を持っています。
そして、そこにはそれとは気付かない、漂うように、しかし確実に変わっていく時の移ろいがあります。
「徒然草」は、季節の移ろいを「あはれなれ」と記しています。
この季節の移ろいや巡りが、古来、我々の自然観を作り上げ、磨き上げてくれました。
自然とそこに住む人々との関わりにより、日本人は時の移ろいに儚さを感じ、自然の変化に敏感になり、心の裡(うち)に、「世の中に変わらないものなどない」、無常感や万物流転の人生観を醸成したのです。
花曇り、新緑、野分(のわけ)、時雨(しぐれ)、小春日和、風花(かざはな)、淡雪(あわゆき)など、季節を表現する美しい言葉、枚挙に遑(いとま)がありません。
この季節感の表現は、季節が作り出す自然の表情を人間に引き寄せて、先人達が紡(つむ)ぎ出してきたものです。
高校で学んだ古典、
「方丈記」の「ゆく河の流れは絶えずして、しかももとの水にあらず…」、
「平家物語」での「祇園精舎の鐘の声、諸行無常の響あり…」、
「徒然草」での「閑(しず)かなる山の奥、無常の敵競ひ来らざらんや…」、
「冥途の飛脚」での「水の流れと身の行方、恋に沈みし浮き名のみ難波に…」、
ここにみる詠嘆、自然に対比させての人生の表現は、遥か昔から培われていたのです。
日本画の特徴の一つに、季節を象徴する数々の名画があります。
「雪松図」(円山応挙)もその一つです。年の始めに限って公開されます。雪で反射された光を受けて輝いている黒松と赤松、黒と金で描かれています。精緻な写実だけでない、と言って修飾的な様式でもない、ぎりぎりのところで調和させているように見えます。こちらの心まで新春の光を浴びている心地がします。
我々日本人の美的感覚や人生観を培ってくれた四季の変化、最近の急激な変化は、我が国の文化の根底さえ崩し兼ねないという危惧を持ってしまいます。
(vol.169 http://www.fmu.ac.jp/univ/cgi/hana_disp.php?seq=203)
(vol.219 http://www.fmu.ac.jp/univ/cgi/hana_disp.php?seq=256)
1月23日(1902、明治35年)、八甲田山、死の雪中行軍と後に言われる訓練が開始した日です。
小説「八甲田山死の彷徨」(新田次郎)で広く知られるようになりました。
同じ日、七里ヶ浜で逗子開成中学のボートが転覆して12人が死亡しました(1910、明治43年)。
この悲劇は「真白き富士の嶺」(作詞:三角錫子(みすみ・すずこ)、作曲:ジェレマイア・インガルス)という名曲により今に伝えられています。
今週の花材は、両室とも、冬に乏しくなる落ち着いた色で、春を待つ雰囲気を醸し出しています。
(福島県立医科大学理事長 菊地臣一)
今週の花
【理事長室】
■ガマズミ スイカズラ科/落葉低木/北
海道から九州にかけ、日当たりの良い山野に
自生。花期は5〜6月頃で、白い小さな花を密
集させ円盤状に開花する。秋に真っ赤に熟す
果実が美しく、鑑賞価値が高い。実は甘酸っ
ぱく、果実酒等にも利用される。
■LAユリ〔カプレット〕 ユリ科/球根植物
/《名前の由来》鉄砲百合(ロンギフローラム)
とスカシユリ(アジアンティック)の掛け合わせ
品種/鉄砲百合の強靭さ、花持ちの良さと、
スカシユリの暖かな花色と上向き咲き、双方
の良いところを持ち合わせた品種。1990年
代初めに登場したまだ新しい分類種。「カプレ
ット」は淡いピンク。
■ユーカリ〔ポポラス〕 フトモモ科/常緑
高木/原産地オーストラリアを中心に約600
種が分布。コアラが食べる木として有名。「ポ
ポラス」は丸く大きな葉が特徴。切り花で流通
するユーカリはコアラの食用種とは別種。
※拡大写真
http://www.fmu.ac.jp/univ/hana/2541.jpg
■ガマズミ スイカズラ科/落葉低木/北
海道から九州にかけ、日当たりの良い山野に
自生。花期は5〜6月頃で、白い小さな花を密
集させ円盤状に開花する。秋に真っ赤に熟す
果実が美しく、鑑賞価値が高い。実は甘酸っ
ぱく、果実酒等にも利用される。
■LAユリ〔カプレット〕 ユリ科/球根植物
/《名前の由来》鉄砲百合(ロンギフローラム)
とスカシユリ(アジアンティック)の掛け合わせ
品種/鉄砲百合の強靭さ、花持ちの良さと、
スカシユリの暖かな花色と上向き咲き、双方
の良いところを持ち合わせた品種。1990年
代初めに登場したまだ新しい分類種。「カプレ
ット」は淡いピンク。
■ユーカリ〔ポポラス〕 フトモモ科/常緑
高木/原産地オーストラリアを中心に約600
種が分布。コアラが食べる木として有名。「ポ
ポラス」は丸く大きな葉が特徴。切り花で流通
するユーカリはコアラの食用種とは別種。
※拡大写真
http://www.fmu.ac.jp/univ/hana/2541.jpg
【秘書室】
■ブルースター ガガイモ科/多年草/
《名前の由来》淡い水色の5枚の花弁が星の
ように咲くことから/ベルベットのような独特な
質感の花弁をもつ。今回は水色のブルースタ
ーと白色のホワイトスターを使用。他にピンク
色のピンクスターもある。
■ラナンキュラス〔エムクリーム〕 キンポウ
ゲ科/球根植物/《名前の由来》ラテン語の
“蛙”(ラナ)に由来。蛙が沢山生息する湿地に
自生することから/幾重にも重なる柔らかい花
弁が特徴。品種名の“エム”は育成地の宮崎
県から。丈夫で花持ちが良く、花形が美しい品
種。
※拡大写真
http://www.fmu.ac.jp/univ/hana/2542.jpg
■ブルースター ガガイモ科/多年草/
《名前の由来》淡い水色の5枚の花弁が星の
ように咲くことから/ベルベットのような独特な
質感の花弁をもつ。今回は水色のブルースタ
ーと白色のホワイトスターを使用。他にピンク
色のピンクスターもある。
■ラナンキュラス〔エムクリーム〕 キンポウ
ゲ科/球根植物/《名前の由来》ラテン語の
“蛙”(ラナ)に由来。蛙が沢山生息する湿地に
自生することから/幾重にも重なる柔らかい花
弁が特徴。品種名の“エム”は育成地の宮崎
県から。丈夫で花持ちが良く、花形が美しい品
種。
※拡大写真
http://www.fmu.ac.jp/univ/hana/2542.jpg