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理事長室からの花だより
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理事長室からの花だより
vol.265 − 到 (いたる) −
盆地に差し込んだ朝陽、川瀬を金波に染め上げています。
春雨、霧がすべてを包み込み、幻想的な風景が出現します。田畑は、白っぽい土壌だったのが、水分を含み黒く濃くなっています。
久し振りの川堤(かわづつみ)、嘗(かつ)てない大雪は、痕跡(きずあと)を残しています。河川敷に捨てられた雪塊、黒く汚れ、無残な姿です。こんな事は初めてです。
川岸には大木が根こそぎ倒れていました。自然の理(ことわり)に従うなら、倒木更新が起き、幸運な何本かが命を繫いでいくのでしょう。
自然は恵みをもたらしてくれます。と同時に、災いも招いてしまいます。
古人は、そこに人知を越えた存在をみました。恵みは神として、災いは鬼として。
無数のオオイヌノフグリ、可憐な青い花が堤端(つつみばた)を飾っています。果樹園の樹木の下、青い風呂敷を敷いたようです。
目の前を黄色い蝶が横切っていきます。まだうまくありませんが、鶯(ウグイス)が鳴き出しています。
鉄道を頻繁に使っていると、思い掛けないことが頭に浮かびます。
“立ち食いそば(蕎麦)”です。駅構内にあると、辺(あた)りには出汁(だし)の香りが満ちています。
“駅のそば”の出汁は、“町そば”のそれとは異なり、あれ程香り立つのは何故でしょう。食欲をそそられるのはもとより、思い出までもが蘇ってきます。
私の“立ち食いそば”は、駅中にある店です。
子供の頃、街(当時の自分にとっては大都会)へ汽車で連れてゆかれた時の、乗り継ぎのホームにある駅蕎麦、買い物帰りに寄る“町場の蕎麦”の店、蕎麦、天丼など、年に数度味わう晴れ(ハレ)の食べ物でした。
“駅そば”、それは、仕事や暮らし、旅に随(つ)いて廻る食べ物です。短時間で空腹を満たすだけでなく、食の楽しみがあり、一時の憩いや安らぎをも与えてくれる貴重な食です。
国鉄がJRに変わっても、駅構内や近くにある、駅そばや町そばの店、数は少なくなりましたが、今も健在です。
以前、勤務していた奥会津地方では、昔は「蕎麦を打てて初めて嫁に行く資格がある」と言われていたそうです。蕎麦は、米が獲れない土地の作物で、貧しさの象徴でもありました。そこでは、蕎麦は日常の食べ物であると同時に、客を招いた時などのハレの食べ物でもあったとのことです。
東京で勤務していた時のことです。
恩師が、昼、我々部下達を病院から近い、今はなくなってしまった老舗(しにせ)のそば屋に連れて行って下さいました。当時、日の中、そんな時間が取れたことを不思議に感じます。
「江戸そば」です。田舎育ちの人間にとっては、ハレの食事です。値段の高さにびっくりしました。駅そばしか知らない人間にとっては別世界です。
齢(よわい)を重ねた今、下町の老舗、昼下がり、老紳士が独り、玉子焼きなどを肴(さかな)に酒を楽しんでいる風景、田舎出の若造にとって、当時から、そして今も憧れです。
何故なら、そこに等身大に還(かえ)った一人の男の姿をみるからです。
暮れ方(くれがた)、仕事の帰り、ホテルのバー、カウンターに座り、独り静かにグラスを傾けている男の姿と共に、一人前の男が辿(たどり)り着く姿の一典型かなと思っています。
この佇(たたず)まい、身に付くまでどれ位掛かるのか、時間との争いです。
最近では、健康志向からでしょうか、蕎麦に人気があるようです。今時、何の店かと訝(いぶか)しがるような佇まいから昔風の店まで、百花繚乱(ひゃっかりょうらん)の趣(おもむき)がある蕎麦界です。
蕎麦屋(そばや)の、長い歴史、時代とともに変わりゆく商いの姿、我が国における食の文化史の一つをみるようです。
今週の花材は、両室とも白と緑の組み合わせ、春の風が持つ凛々しさを感じさせます。
(福島県立医科大学理事長 菊地臣一)
春雨、霧がすべてを包み込み、幻想的な風景が出現します。田畑は、白っぽい土壌だったのが、水分を含み黒く濃くなっています。
久し振りの川堤(かわづつみ)、嘗(かつ)てない大雪は、痕跡(きずあと)を残しています。河川敷に捨てられた雪塊、黒く汚れ、無残な姿です。こんな事は初めてです。
川岸には大木が根こそぎ倒れていました。自然の理(ことわり)に従うなら、倒木更新が起き、幸運な何本かが命を繫いでいくのでしょう。
自然は恵みをもたらしてくれます。と同時に、災いも招いてしまいます。
古人は、そこに人知を越えた存在をみました。恵みは神として、災いは鬼として。
無数のオオイヌノフグリ、可憐な青い花が堤端(つつみばた)を飾っています。果樹園の樹木の下、青い風呂敷を敷いたようです。
目の前を黄色い蝶が横切っていきます。まだうまくありませんが、鶯(ウグイス)が鳴き出しています。
鉄道を頻繁に使っていると、思い掛けないことが頭に浮かびます。
“立ち食いそば(蕎麦)”です。駅構内にあると、辺(あた)りには出汁(だし)の香りが満ちています。
“駅のそば”の出汁は、“町そば”のそれとは異なり、あれ程香り立つのは何故でしょう。食欲をそそられるのはもとより、思い出までもが蘇ってきます。
私の“立ち食いそば”は、駅中にある店です。
子供の頃、街(当時の自分にとっては大都会)へ汽車で連れてゆかれた時の、乗り継ぎのホームにある駅蕎麦、買い物帰りに寄る“町場の蕎麦”の店、蕎麦、天丼など、年に数度味わう晴れ(ハレ)の食べ物でした。
“駅そば”、それは、仕事や暮らし、旅に随(つ)いて廻る食べ物です。短時間で空腹を満たすだけでなく、食の楽しみがあり、一時の憩いや安らぎをも与えてくれる貴重な食です。
国鉄がJRに変わっても、駅構内や近くにある、駅そばや町そばの店、数は少なくなりましたが、今も健在です。
以前、勤務していた奥会津地方では、昔は「蕎麦を打てて初めて嫁に行く資格がある」と言われていたそうです。蕎麦は、米が獲れない土地の作物で、貧しさの象徴でもありました。そこでは、蕎麦は日常の食べ物であると同時に、客を招いた時などのハレの食べ物でもあったとのことです。
東京で勤務していた時のことです。
恩師が、昼、我々部下達を病院から近い、今はなくなってしまった老舗(しにせ)のそば屋に連れて行って下さいました。当時、日の中、そんな時間が取れたことを不思議に感じます。
「江戸そば」です。田舎育ちの人間にとっては、ハレの食事です。値段の高さにびっくりしました。駅そばしか知らない人間にとっては別世界です。
齢(よわい)を重ねた今、下町の老舗、昼下がり、老紳士が独り、玉子焼きなどを肴(さかな)に酒を楽しんでいる風景、田舎出の若造にとって、当時から、そして今も憧れです。
何故なら、そこに等身大に還(かえ)った一人の男の姿をみるからです。
暮れ方(くれがた)、仕事の帰り、ホテルのバー、カウンターに座り、独り静かにグラスを傾けている男の姿と共に、一人前の男が辿(たどり)り着く姿の一典型かなと思っています。
この佇(たたず)まい、身に付くまでどれ位掛かるのか、時間との争いです。
最近では、健康志向からでしょうか、蕎麦に人気があるようです。今時、何の店かと訝(いぶか)しがるような佇まいから昔風の店まで、百花繚乱(ひゃっかりょうらん)の趣(おもむき)がある蕎麦界です。
蕎麦屋(そばや)の、長い歴史、時代とともに変わりゆく商いの姿、我が国における食の文化史の一つをみるようです。
今週の花材は、両室とも白と緑の組み合わせ、春の風が持つ凛々しさを感じさせます。
(福島県立医科大学理事長 菊地臣一)
今週の花
【理事長室】
■黄金テマリシモツケ バラ科/落葉低木/アメリカ
テマリシモツケの黄金葉をもつ品種。黄金〜ライムグリ
ーンの綺麗な葉色が特徴。コデマリに似た半球状の花
が咲くことから「金葉コデマリ」の別名を持つ。
■LAユリ〔ハイドパーク〕 ユリ科/球根植物/鉄砲
百合(Longifrorum)とスカシユリ(Asiatic)の掛け合わ
せ。両種の良い所を持ち合わせた中輪咲のユリ。「ハイ
ドパーク」は鮮やかなオレンジ。
■アルストロメリア〔ホイットニー〕 ヒガンバナ科/球
根植物/一本の茎から5〜8本の花茎を伸ばし、それぞ
れに花を咲かせる。一つひとつの花はユリを小さくしたよ
うな形。ほとんどの品種で花弁に斑が入る。
■ソリダゴ キク科/多年草/北米原産の原種を基
につくられた園芸種。円錐状に花穂をつけ、黄色い小花
をたくさん咲かせる。カスミソウ等のように添え花として
利用される。
■ドラセナ〔コーディラインホワイト〕 リュウゼツラン科
/日本で流通する観葉植物の代表種。「コーディライン
ホワイト」は青葉のコルジリネ。以前ドラセナ類に分類さ
れていたことから現在も“ドラセナ”の名で流通。
※拡大写真
http://www.fmu.ac.jp/univ/hana/2651.jpg
■黄金テマリシモツケ バラ科/落葉低木/アメリカ
テマリシモツケの黄金葉をもつ品種。黄金〜ライムグリ
ーンの綺麗な葉色が特徴。コデマリに似た半球状の花
が咲くことから「金葉コデマリ」の別名を持つ。
■LAユリ〔ハイドパーク〕 ユリ科/球根植物/鉄砲
百合(Longifrorum)とスカシユリ(Asiatic)の掛け合わ
せ。両種の良い所を持ち合わせた中輪咲のユリ。「ハイ
ドパーク」は鮮やかなオレンジ。
■アルストロメリア〔ホイットニー〕 ヒガンバナ科/球
根植物/一本の茎から5〜8本の花茎を伸ばし、それぞ
れに花を咲かせる。一つひとつの花はユリを小さくしたよ
うな形。ほとんどの品種で花弁に斑が入る。
■ソリダゴ キク科/多年草/北米原産の原種を基
につくられた園芸種。円錐状に花穂をつけ、黄色い小花
をたくさん咲かせる。カスミソウ等のように添え花として
利用される。
■ドラセナ〔コーディラインホワイト〕 リュウゼツラン科
/日本で流通する観葉植物の代表種。「コーディライン
ホワイト」は青葉のコルジリネ。以前ドラセナ類に分類さ
れていたことから現在も“ドラセナ”の名で流通。
※拡大写真
http://www.fmu.ac.jp/univ/hana/2651.jpg
【秘書室】
■アマリリス〔アテネ〕 ヒガンバナ科/球根植物/ユリに似た花
を一茎から数輪咲かせる。ひとつの花径は10〜20cmもあり、見応
えがある。花色は赤・ピンク・白や覆色、八重咲もある。
■ピンポン菊 キク科/多年草/通常の菊と異なり、丸く可愛く
咲く菊。花持ちの良い菊の中でも特に長く楽しめる。仏事に限らず祝
事でもよく利用する菊。
■アンスリュウム〔エスメラルダ〕 サトイモ科/常緑多年草/光沢
があり造花と見間違うような花。花弁のように見える団扇のような部
分は苞で、主に苞を鑑賞。「エスメラルダ」は綺麗なライトグリーン。
■モンステラ サトイモ科/蔓性植物/成長するにつれ、葉に切
れ込みや穴が開く。独特の葉姿が面白く、モチーフとしても人気の熱
帯植物。
※拡大写真
http://www.fmu.ac.jp/univ/hana/2652.jpg
■アマリリス〔アテネ〕 ヒガンバナ科/球根植物/ユリに似た花
を一茎から数輪咲かせる。ひとつの花径は10〜20cmもあり、見応
えがある。花色は赤・ピンク・白や覆色、八重咲もある。
■ピンポン菊 キク科/多年草/通常の菊と異なり、丸く可愛く
咲く菊。花持ちの良い菊の中でも特に長く楽しめる。仏事に限らず祝
事でもよく利用する菊。
■アンスリュウム〔エスメラルダ〕 サトイモ科/常緑多年草/光沢
があり造花と見間違うような花。花弁のように見える団扇のような部
分は苞で、主に苞を鑑賞。「エスメラルダ」は綺麗なライトグリーン。
■モンステラ サトイモ科/蔓性植物/成長するにつれ、葉に切
れ込みや穴が開く。独特の葉姿が面白く、モチーフとしても人気の熱
帯植物。
※拡大写真
http://www.fmu.ac.jp/univ/hana/2652.jpg