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理事長室からの花だより

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理事長室からの花だより

2014.06.06

vol.273  − 尊 (とうとぶ) −

梅雨に入る前、この時季、自然は光輝き、大気は爽やかです。
目に沁みる様に緑が鮮やかです。

         日にそよぐ山はあざやけき深みどり
         命に沁みて外のあかるさ
                             金田千鶴

自らの命の限りを知っている作者にとって、この時季の明るさ、緑の深さ、一際(ひときわ)心に染みたのです。

深夜の高速道路、周囲に広がる水の入った田圃(たんぼ)に目を向けていると、「田毎(たごと)の月」ならぬ「田毎の灯(ともしび)」が目に入りました。
家屋や農道の街路灯、田圃の水面(みなも)に映る様、芭蕉の「とも映り」を思い浮かべます。それが、車の移動に伴って灯が刻々と映る場所、映り方が変わります。風によって起きているさざ波も、水面に映る灯の形を変えていきます。
「田毎の月」とはこういう事を言っているのだと、勝手に解釈しました。

昔から、変わることなく繰り返されている日本の四季、この季節感を感じとり、表現することが和風となります。

この時季、水が存在感を発揮します。
少し足を延ばすと、雪解けで水量を増した川の滔々(とうとう)とした流れ、大地を巡っている用水路の水の勢い、水が創り出す姿と音が季節を感じさせてくれます。

水と言えば、国内外を問わず、ホテルやビルの中に滝を設えているのが目につきます。なかには、人工の滝と屋内を仕切らずに、音と大気の流れを楽しめるところもあります。
滝の設(しつら)えも様々です。流れ落ちる水の量によっては、雨音のようにも聞こえます。滝が人の心に訴えかけるのは、洋の東西を問わないようです。

テレビのニュースで為替相場や株価を放映するようになったのは何時(いつ)からでしょうか。問い合わせてもらいましたが、分かりません。バブル期でしょうか。

「個人の価値観の尊重」、「個性を大切に」、今という時代の空気です。
只、「株や為替に関心を持つのは社会人の常識」、と言われると、「待てよ」、と言いたくなります。株取り引きに夢中な小学生、株や投資で御主人よりも収入が多いともて囃される主婦、旧(ふる)い人間にとって、少し違和感があります。

経済の知識や為替の動きに、知識も関心もない人もいます。それはそれで良いのではないのか、と言いたい自分が居ます。
価値観の多様化とは、そういう人も尊重する世の中の筈(はず)ですが…。

齢(よわい)を重ねた今、「世の中、変わるものは多いが、変わらないコトはもっと多い」というのが実感です。
文化とはそういうものなのではないのでしょうか。ギリシャ神話、シェークスピアの戯曲、我が国の古典文学、今尚、我々を魅了(みりょう)して止まないのが、その証(あかし)です。

只、常識は、所変われば、変わります。例えば、遅れた時の身の処し方です。
我が国では、遅れた理由を述べると、「潔(いさぎよ)くない」とか、「言い訳をしている」と受け取られてしまいます。一方、欧州、見聞した範囲では、待たされた人には、遅れた理由を聞く権利があるという雰囲気を感じます。
“郷に入れば郷に従え”、この箴言(しんげん)に忠実であろうとすると、それはそれで結構、大変です。

文明開化で入ってきた考え方や文物(ぶんぶつ)に、先人達は苦労して言葉を創りました。我々は今もそれを使って、近隣国でも使われています。
この“新しい日本語”、言葉の重みを考えると、使いこなす難しさにたじろいでしまいます。

「自由」、己(おのれ)を律する厳しさや責任が随(つ)いて回ります。
「正義」、不正を許さない苛烈な面があります。私のような凡人には手に余る言葉です。
「価値観」という言葉、書いていて気が重くなります。
できれば、大和言葉(やまとことば)で済ませたい日常です。


(福島県立医科大学理事長  菊地臣一)



※編集註:海外出張のため、今回は「今週の花」活け込み前に原稿を執筆しております。お花についてのコメントがありませんことをご了承ください。

今週の花


【理事長室】
■スモークツリー〔ホワイトファー〕   ウルシ科/落葉
高木/煙がモクモクとしているような花姿が特徴の樹。
ふわふわした綿菓子のような部分は花後の花序が伸
びたもの。花自体は目立たず、花後の姿を鑑賞する。
■ギガンジュウム   ユリ科/ネギ坊主のような紫色
の球状花。小さな花が密集して無数に咲き、開花が進
むにつれ球形が大きくなる。ネギ属の花で、茎にハサ
ミを入れるとネギの香りがする。
■トルコギキョウ〔ボヤージュブルー〕   リンドウ科/
多年草/花色や大きさ、咲き方等多岐にわたり、品種
がとても豊富。「ボヤージュシリーズ」はフリル咲の八
重咲。花弁の巻きがしっかりしていてボリュームがあ
り、花持ちが良い。
■カーネーション〔プラドミント〕   ナデシコ科/多年
草/母の日の花として古くから親しまれる。江戸時代
にオランダから渡来。菊・バラとともに世界的に生産量
の多い主要花。
■ドラセナ〔コーディラインレモンレッドエッジ〕   リュ
ウゼツラン科/日本で流通する観葉の代表種。「レモ
ンレッドエッジ」は名前の通り、葉の縁に赤色が入る。
※拡大写真
http://www.fmu.ac.jp/univ/hana/2731.jpg

【秘書室】
■カラー〔クリスタルクリア〕   サトイモ科/球根植物/メガホ
ン状の苞を持ち、その中に棒状の花序がある。「クリスタルクリ
ア」は白色で花が小さいミニカラー。
■トルコギキョウ〔ボヤージュホワイト〕   (理事長室と同花材)
「ボヤージュホワイト」は理事長室と同シリーズの色違い品種。
■アンスリュウム〔エンジェル〕   サトイモ科/常緑多年草/
造花のような光沢のある花(苞)が特徴。団扇のような部分は苞
で、棒状の部分が花。熱帯原産で暑さに強く、非常に長く鑑賞で
きる。
■ギボウシ   ユリ科/多年草/斑入りやブルー系、ライム系
等の葉色がとても綺麗で観賞価値の高い葉。初夏から秋にかけ
て花を咲かせる。花は寿命が短く一日でしぼむため「デイリリー」
の英名がある。
※拡大写真
http://www.fmu.ac.jp/univ/hana/2732.jpg

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