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理事長室からの花だより

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理事長室からの花だより

2014.06.20

vol.275  − 訓 (おしえる) −

道端に葵(アオイ)の紅、構内には泰山木(タイサンボク)の白い花、大きさを恥じらうようにひっそり咲いています。
この時季、草木の生命力には圧倒されてしまいます。土手道は草叢(くさむら)で狭まり、枝葉が道路の中央に向って伸びています。脇道は、草の丈が腰のあたりまであり、草いきれが籠っています。

郭公(カッコウ)、鶯(ウグイス)が鳴き、ハルジオンの白が野草の主役です。ノイバラの白もあり、土手一面にメヒシバか、風に揺れています。
“花盗人(はなぬすびと)”、ハルジオンとメヒシバを文机(ふづくえ)に飾りました。

遠目、果樹園の棚、葉の茂った木陰で3人の方が憩っています。時季は違いますが、久隅守景の「納涼図屏風」(vol.41)、蕪村の句や絵画に出てくるような風景です。
   (vol.41 http://www.fmu.ac.jp/univ/cgi/hana_disp.php?seq=66
そこに、ゆったりとした時間の流れと郷愁をみてとれます。

仕事の後、友に誘われて食事をした時の話です。店の御主人が、先代の逸話を紹介して下さいました。

学生が独りで店を訪れました。帰り際に、名人と謳われた先代が、「この次はないよ。ここは仕送りの身で来るような店ではない。おいしかったら自分の金でまた来なさい」と、彼を諭(さと)しました。
その後、一度だけ、母親を連れて来店しました。大学を卒業後、社会人としての最初の給料袋を封を切らずに持参して、独りで訪れました。

一幅の絵をみるような話です。
この話、お互いを気遣いあったり、諭(さと)したりする気風が、当時、あった事が分かります。

私にも、苦い経験があります。
部下の発表後、労(ねぎら)うよりも注意を先にしてしまいました。彼が、一瞬、激高しました。無事に発表を終え、ホっとしている彼の心情に思いが至っていれば…。注意する時宜(じぎ)を間違えました。

修行時代の話です。多くの患者さんを抱えて目一杯働いている我が身に、なんと無情な、と受け止めてしまった事を恩師から言われました。師は、自分が限界で働いているのを分って下さっていない。カッとなり、口答えしてしまいました。
周囲の状況の見極め、出来ると思っているからこその指示だと、今なら分ります。

直情径行、看護婦長(当時の呼称)から“瞬間湯沸し器”と揶揄(やゆ)されていました。“寸鉄人を刺す”と恩師に諭される程でした。角のある自分を、よくぞ見放さず、育てて下さったと、頭が下がります。

こんな事どもを振り返るとき、巡り会った恩師の寛容さ、偉大さが、より理解できます。

恩師の情を知った今、昔に戻りたいと思っても叶いません。

良い師を得ることは出会いです。巡り合わせ、熱意と認め合う事、これが双方にないと成立しません。出会いの難しさと運命的な何かを感じます。
教えたり、助言には思慮が必要です。この齢になって分ることです。
気まずくなったり嫌われるのを避ける為に、助言や忠告をしないという選択もあります。縦(よ)しんばまずい事が起きたとしても、相手から恨まれずに済むからです。

一方、結果的に役に立った指導や支援をしても、それに対しての感謝、まずありません。勿論、教育は、感謝や見返りを期待しては成り立ちません。
助言や忠告を喜んで聴く人間は居ません。人間の性(さが)です。黙って聞いてやる、そして気付かせる、これも慈しむ一つの方法です。

人間としての成長には三十年、四十年という長い時間が必要です。
待ってやることも教育です。その時、どんな困難も乗り越えられます。只、命が尽きてしまいます。

今週の花材、秘書室では花器とともに、梅雨の中、白の清々しさを、執務室では雨林の中の優しさを感じます。
ボランティアの方からの度々の花の差し入れ、“一知己を得ば 以って恨なかるべし”です。


(福島県立医科大学理事長  菊地臣一)



今週の花


【理事長室】
■アーティーチョーク〔グリーングローブ〕   キク科
/多年草/紀元前から高級野菜として食される。ヨ
ーロッパではポピュラーな食べ物で、つぼみを茹で
て食べる。本では主に観賞用として栽培。草丈は1.
5〜2mにもなり、大きくトゲトゲした葉を持つ。アザミ
に似た15cm程の大きな花が咲く。
■スモークツリー〔ピンクファー〕   ウルシ科/落
葉高木/煙がモクモクしているような花姿が特徴の
樹。ふわふわした部分は花後の花序が伸びたもの。
花自体は目立たず、花後の姿を楽しむ。
■トルコギキョウ〔フルフルバイオレット〕   リンドウ
科/多年草/花形や大きさ、咲き方等が多岐にわ
たり品種が豊富。「フルフル」シリーズは2012年に開
発される。4cmほどの極小輪の八重咲で、極小輪
では初のバラ咲き品種。
■ブルーファンタジア   イソマツ科/スターチスの
仲間を掛け合わせた園芸種。良く分岐しボリューム
があり、青紫色の小花を無数に咲かせる。
■ドラセナ〔コーディラインレッド〕   日本で流通す
る観葉植物の代表種。コーディラインレッドは赤葉
で、正式には「コルジリネ」。以前ドラセナ類に分類さ
れていた為、現在も「ドラセナ」で流通。
※拡大写真
http://www.fmu.ac.jp/univ/hana/2751.jpg

【秘書室】
■ファレノプシス   ラン科/《名前の由来》ギリシャ語の“phalai
na”(蛾)と“opsis”(似る)に由来。和名の「胡蝶蘭」は蝶に似た花
姿から。ご贈答用の高級花として知られ、各種お祝いにかかせな
い花。
■アンスリュウム〔プレゼンス〕   サトイモ科/常緑多年草/造
花と見間違うような光沢のある花(苞)が特徴。花弁のような苞と
棒状の花序をもち、暑さに強く花持ちが良い。「プレゼンス」は白
色。
■アワ   イネ科/一年草/五穀の一つで米より以前に栽培さ
れ、稗とともに主要だった食糧。エノコログサ(猫じゃらし)から分化
したとされる。夏から秋にかけて円柱状の花穂をつける。
■ユーカリ〔シルバーウェーブ〕   フトモモ科/常緑高木/コアラ
の食べる木として有名。オーストラリアを中心に約600種ある。「シ
ルバーウェーブ」は銀色がかった丸葉。
※拡大写真
http://www.fmu.ac.jp/univ/hana/2752.jpg

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