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理事長室からの花だより
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理事長室からの花だより
vol.279 − 留 (とどめる) −
時鳥(ホトトギス)、執務室で声を聞きました。今年初めてです。
「その時に、あるべきモノが、そこに居る」というのは、人の心を落ち着かせてくれます。
降る雨がもたらしてくれる静けさと穏やかさ、合い間の強い陽射し、「天地の生命(いのち)が輝いてそこにある」ことを実感します。自然の移ろいは、生きるとは何かを人間(ひと)に語りかけています。
(vol.246 http://www.fmu.ac.jp/univ/cgi/hana_disp.php?seq=283)
この花だよりを認(したた)めるようになってから、天地や四季の様相に目が向くようになりました。
「季節が美しいのは、季節が記憶を持たぬから」との指摘があります。本当かどうか、人間と動物の違いは記憶の有無であるともいわれています。
天地の創造物である花々や雪、山河の四季を美しく感じるのは、それらが人間にとって、時に、ひどくやっかいな記憶を持っていないから、ということになります。
人間にとっての記憶、すべてを憶えている訳ではありません。断片的です。
しかも、人生の節目の出来事などより、その時には何とも感じていなかった然(さ)りげ無い1コマ、何気ない相手の一言が鮮明に残っています。そこに規則性はありません。
あっという間に終わってしまう、人の一生、そのなかで経験できる事や関わる人々は多くありません。
記憶として残っていくのには、どんな理由があって残っていくのでしょうか。
時は移ろい、今、古人では決して味わえなかった、数々の天地の移ろいを愛(め)でることができます。
移動手段の発達による恩恵です。例えば、列車での移動です。
我が国は南北に広い国土を有しています。変化に富んだ地勢は、各々の土地に特有な気候をもたらします。山河での四季の移ろいが、その土地に独特の文化を育んできました。
列車での移動、四季、土地により異なる風景や営みが勝手に目に飛び込んで、あっと言う間もなく退(しさ)っていきます。しかも、朝、昼、夜で、違った様相をみせてくれます。
無為のままにいて、景色が眼前に次々と展開していくのです。現代の人間が味わえる贅沢の一つです。
車窓からの夜空、月が何かを語り掛けてくれます。我が国では、古来、月に就(つ)いての文芸があります。
対照的に、星座に関する歌や表現、殆(ほと)んど見当たりません。西欧との違いがここにもあります。
この時季、目に鮮やかな朝顔の藍や赤紫を目にします。桔梗(キキョウ)の青紫も今の色です。
藍という色、古来から、日本人は藍染めの布地や染め付けの磁器を通して愛してきました。
凛として、静けさを湛(たた)えたこの色調をみていると、脳裡に浮かぶ事があります。
個性とだらしなさの混同です。崩しの美しさ、正統を踏まえて初めて成り立つのではないでしょうか。
田圃(たんぼ)の畦道(あぜみち)、淡々とした、わずかな微笑みを湛えた、道祖神のような老人に出会ったことがあります。座って煙管(きせる)で煙草(たばこ)を吸っていました。
澄み切った、飄々(ひょうひょう)とした表情は最初から持っていたのではなく、様々な苦難を乗り越えた果てに得た佇まいなのではないでしょうか。
長崎の旅、県美術館へ必ず寄ります。
建物を楽しむ為です。隈研吾氏が設計に関わった建物が、観(み)る者の胸に風を吹き込んでくれます。
海を意識して、ガラスと優しい石で透明感と柔らかさを表わしています。水面に架かる、2階の渡り廊下、歩むと、心が軽くなります。
作品では鴨居玲の「私の話を聞いてくれ」、「狂候えよ」が目当てです。この悲痛な孤独感、“生きるとは何か”を観(み)る者に問い掛けてきます。
今週の花材、華やかな赤や黄、花器の違いもあって、全く異なった印象を与えます。取り合わせの妙です。
(福島県立医科大学理事長 菊地臣一)
「その時に、あるべきモノが、そこに居る」というのは、人の心を落ち着かせてくれます。
降る雨がもたらしてくれる静けさと穏やかさ、合い間の強い陽射し、「天地の生命(いのち)が輝いてそこにある」ことを実感します。自然の移ろいは、生きるとは何かを人間(ひと)に語りかけています。
(vol.246 http://www.fmu.ac.jp/univ/cgi/hana_disp.php?seq=283)
この花だよりを認(したた)めるようになってから、天地や四季の様相に目が向くようになりました。
「季節が美しいのは、季節が記憶を持たぬから」との指摘があります。本当かどうか、人間と動物の違いは記憶の有無であるともいわれています。
天地の創造物である花々や雪、山河の四季を美しく感じるのは、それらが人間にとって、時に、ひどくやっかいな記憶を持っていないから、ということになります。
人間にとっての記憶、すべてを憶えている訳ではありません。断片的です。
しかも、人生の節目の出来事などより、その時には何とも感じていなかった然(さ)りげ無い1コマ、何気ない相手の一言が鮮明に残っています。そこに規則性はありません。
あっという間に終わってしまう、人の一生、そのなかで経験できる事や関わる人々は多くありません。
記憶として残っていくのには、どんな理由があって残っていくのでしょうか。
時は移ろい、今、古人では決して味わえなかった、数々の天地の移ろいを愛(め)でることができます。
移動手段の発達による恩恵です。例えば、列車での移動です。
我が国は南北に広い国土を有しています。変化に富んだ地勢は、各々の土地に特有な気候をもたらします。山河での四季の移ろいが、その土地に独特の文化を育んできました。
列車での移動、四季、土地により異なる風景や営みが勝手に目に飛び込んで、あっと言う間もなく退(しさ)っていきます。しかも、朝、昼、夜で、違った様相をみせてくれます。
無為のままにいて、景色が眼前に次々と展開していくのです。現代の人間が味わえる贅沢の一つです。
車窓からの夜空、月が何かを語り掛けてくれます。我が国では、古来、月に就(つ)いての文芸があります。
対照的に、星座に関する歌や表現、殆(ほと)んど見当たりません。西欧との違いがここにもあります。
この時季、目に鮮やかな朝顔の藍や赤紫を目にします。桔梗(キキョウ)の青紫も今の色です。
藍という色、古来から、日本人は藍染めの布地や染め付けの磁器を通して愛してきました。
凛として、静けさを湛(たた)えたこの色調をみていると、脳裡に浮かぶ事があります。
個性とだらしなさの混同です。崩しの美しさ、正統を踏まえて初めて成り立つのではないでしょうか。
田圃(たんぼ)の畦道(あぜみち)、淡々とした、わずかな微笑みを湛えた、道祖神のような老人に出会ったことがあります。座って煙管(きせる)で煙草(たばこ)を吸っていました。
澄み切った、飄々(ひょうひょう)とした表情は最初から持っていたのではなく、様々な苦難を乗り越えた果てに得た佇まいなのではないでしょうか。
長崎の旅、県美術館へ必ず寄ります。
建物を楽しむ為です。隈研吾氏が設計に関わった建物が、観(み)る者の胸に風を吹き込んでくれます。
海を意識して、ガラスと優しい石で透明感と柔らかさを表わしています。水面に架かる、2階の渡り廊下、歩むと、心が軽くなります。
作品では鴨居玲の「私の話を聞いてくれ」、「狂候えよ」が目当てです。この悲痛な孤独感、“生きるとは何か”を観(み)る者に問い掛けてきます。
今週の花材、華やかな赤や黄、花器の違いもあって、全く異なった印象を与えます。取り合わせの妙です。
(福島県立医科大学理事長 菊地臣一)
今週の花
【理事長室】
■フェンネル セリ科/多年草/糸のように細い葉を持ち、花
期は初夏から夏。長い花茎に傘を広げたような小さい黄色い花が
咲く。茎葉や種は芳香があり、ハーブやスパイスとして利用。
■コデマリ バラ科/落葉低木/中国から渡来し、江戸時代よ
り鑑賞用として栽培される。4〜5月頃に半円形の花序を枝いっぱ
いに咲かせる。耐寒性も強く丈夫で庭木としても人気。今回は青葉
と銅葉の2種を使用。
■ケイトウ〔ウモウケイトウ〕 ヒユ科/一年草/花期は6〜9月
で、赤やピンク、オレンジ等の花穂をつける。「ウモウケイトウ」は名
前の通り羽毛のような形状の花穂。他に扇状の「ボンベイケイトウ」
や丸い「久留米ケイトウ」などある。
■姫ヒマワリ キク科/多年草/ヒマワリを小さくしたような花
で花径2〜8cm程。夏の暑さにも強くガーデニングでも人気。今回
使用しているのは八重咲。
■ダリア〔黒竜〕 キク科/多年草/品種がとても豊富で世界
に3万種以上もある。花の大きさも花径が3cm程度ものから30cm
以上の巨大輪まである。「黒竜」は赤黒いシックな色合い。
※拡大写真
http://www.fmu.ac.jp/univ/hana/2791.jpg
■フェンネル セリ科/多年草/糸のように細い葉を持ち、花
期は初夏から夏。長い花茎に傘を広げたような小さい黄色い花が
咲く。茎葉や種は芳香があり、ハーブやスパイスとして利用。
■コデマリ バラ科/落葉低木/中国から渡来し、江戸時代よ
り鑑賞用として栽培される。4〜5月頃に半円形の花序を枝いっぱ
いに咲かせる。耐寒性も強く丈夫で庭木としても人気。今回は青葉
と銅葉の2種を使用。
■ケイトウ〔ウモウケイトウ〕 ヒユ科/一年草/花期は6〜9月
で、赤やピンク、オレンジ等の花穂をつける。「ウモウケイトウ」は名
前の通り羽毛のような形状の花穂。他に扇状の「ボンベイケイトウ」
や丸い「久留米ケイトウ」などある。
■姫ヒマワリ キク科/多年草/ヒマワリを小さくしたような花
で花径2〜8cm程。夏の暑さにも強くガーデニングでも人気。今回
使用しているのは八重咲。
■ダリア〔黒竜〕 キク科/多年草/品種がとても豊富で世界
に3万種以上もある。花の大きさも花径が3cm程度ものから30cm
以上の巨大輪まである。「黒竜」は赤黒いシックな色合い。
※拡大写真
http://www.fmu.ac.jp/univ/hana/2791.jpg
【秘書室】
■姫りんご バラ科/落葉小高木/花期
は4〜5月で、花後に実がなり秋に赤く熟す。
さくらんぼのような小さいリンゴが愛らしく、ミニ
盆栽にも利用。観賞用の他、ジャム等に利用
され生食には不向き。
■ダリア〔みっちゃん〕(理事長室と同花材)
「みっちゃん」は濃いピンク。
■リンドウ リンドウ科/多年草/秋の代
表花で野草として古くから親しまれる。花色は
青紫色を中心に、白やピンクもある。薬草とし
ても知られ、根や茎根に健胃作用がある。
※拡大写真
http://www.fmu.ac.jp/univ/hana/2792.jpg
■姫りんご バラ科/落葉小高木/花期
は4〜5月で、花後に実がなり秋に赤く熟す。
さくらんぼのような小さいリンゴが愛らしく、ミニ
盆栽にも利用。観賞用の他、ジャム等に利用
され生食には不向き。
■ダリア〔みっちゃん〕(理事長室と同花材)
「みっちゃん」は濃いピンク。
■リンドウ リンドウ科/多年草/秋の代
表花で野草として古くから親しまれる。花色は
青紫色を中心に、白やピンクもある。薬草とし
ても知られ、根や茎根に健胃作用がある。
※拡大写真
http://www.fmu.ac.jp/univ/hana/2792.jpg