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理事長室からの花だより

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理事長室からの花だより

2014.10.03

vol.288  − 託 (たくす) −

友の退官記念行事と祝宴に出席してのスウェーデンからの帰国、稲刈が真盛りです。
コスモスや芒(ススキ)は風に揺れ、金木犀(キンモクセイ)の仄(ほの)かな香りが秋の訪れを告げています。
帰国後の出勤、戸外に駐車されている車窓は夜露に濡れ、吾妻の山頂の赤焼け、秋の到来です。
コスモスが、花屋さんには仲々出てきません。聞けば、長く持たせるのが難しいとか…。やはり、野に置いて愛でる花なのでしょうか。

フランクフルト郊外、古都ヴィスバーデン(wiesbaden)、晩秋の趣です。
一直線に延びた大通りの坂道、両脇にはプラタナスの並木、樹々の葉がトンネルをなして石畳を覆っています。雨に濡れた石畳、週末、静寂です。
ホテルの従業員に勧められた広場での市、食料品の他に、黄色のヒマワリ、白や紫のグラジオラス、赤いダリヤ、朱の鬼灯(ホオズキ)が売られており、市場が華やかです。昔の市場を彷彿とさせます。

ドイツ滞在の目的は、フェルメールの「地理学者」(シュテーデル美術館)です。ガードマンの方に聞いて、初めて場所が分かる程、目立たなく、ひっそりと展示されていました。室内には誰も居ません。贅沢な鑑賞です。

スウェーデンの友との30年に渡る交流、一つの時代の終わりを感じながら、多くの方との友情を確かめてきました。

10月、大気の透明度がもっとも高くなります。清涼な空の下、電柱、街の甍(いらか)、山々の尾根の樹々が、夕陽を受けて黄金色に輝いています。

         山颪(あらし)いのちの秋というなかれ
         過ぎゆきし河すぎゆきし女(ひと)
                               福島泰樹

いのちの秋には早すぎます。只、何もかもが過ぎてゆきます。

秋、人間(ヒト)の心が、季節と同様に、澄み、慎ましやかになります。
夜露で瑞々しい庭の緑、その中に疾(と)うに時季を過ぎた紫陽花、多くの花が萎(しお)れてうつむき加減に、静かに佇んでいます。

朝霧がかかったこの景色、
         花のしほれたらんこそ面白けれ
                          世阿弥「風姿花伝」
                          第3問答条々
         (vol.140 http://www.fmu.ac.jp/univ/cgi/hana_disp.php?seq=173
が脳裡を過(よぎ)ります。

花の終わりは、時と場合により、咲き誇る花よりも訴え掛けてくる力を感じます。
年齢、地位、仕事、営み、その時々に置かれたところで自分のベストを尽くせば、それでいいのだと…。
こんな思いに耽(ふけ)って庭を眺めていると、出勤の時間です。

こんな日々だからこそ、自然や“和”に惹かれます。

毎日、帰宅後に着替える和服、別な世界の始まりです。着物の殆(ほと)んどが亡き父や母の形見です。母の着物は丈が短く、外には着て出られません。
そんな着物も、年月が経つと糸が解(ほつ)れてきます。

和服を日常の衣としている我が身には、衣更え(ころもがえ)は、心身に季節を知らせる術(すべ)の一つです。
千篇一律(せんぺんいちりつ)、昔から、毎年、季節毎に、着物を変えています。
自分の好みもあって、気に入った着物ばかり着ていると、縫い目の傷(いた)みが早くなります。
何十年と着続けている着物、代り映えはしませんが、亡き父母が着ていた姿を思い出します。
着替えをしている時、ふっと、親の表情と音声(おんじょう)を思い出すことがあります。

和服を日常の装いとして身に付け、着物とその衣更えを愛(め)でるようになったのも、親の習慣を受け継いだからです。伝統的な仕来たりを何一つ受け継がなかった己(おのれ)、和服で日常を過ごすことだけは受け継いでいます。

今週の花材は、執務室は日だまりのような印象です。秘書室は藤袴が秋を表現しています。


(福島県立医科大学理事長  菊地臣一)




※来週の「理事長室からの花だより」は休載させていただきます。
  10月17日(金)より連載再開いたします。

今週の花


【理事長室】
■ケイトウ〔ボンベイケイトウ〕   ヒユ科/一
年草/《名前の由来》花穂が鶏の鶏冠に似て
いることから“鶏頭”。花期は6〜9月頃で、赤
やピンク、オレンジなどの花穂をつける。「ボン
ベイケイトウ」は花穂が扇状になる品種。ほか
に羽のような形状の「ウモウケイトウ」、丸い
「久留米ケイトウ」などもある。
■菊〔ピンポン菊〕   キク科/多年草/ピン
ポン玉のように真ん丸に咲く菊。菊の中でも特
に花持ちが良い。一般的な菊と異なり可愛ら
しい花姿でお祝い用途でも人気。
■ピンクッション〔エミリーレッド〕   ヤマモガ
シ科/常緑低木/針山に待ち針を刺したよう
な独特の花姿。待ち針のような部分の一つひ
とつが雄しべ。
■コニカル   ナス科/観賞用のトウガラシ
の一種。艶やかな丸い実をたくさん付ける。
今回は黒を使用、他に赤や黄色、オレンジな
どもある。
■セダム〔オータムジョイ〕   ベンケイソウ科
/肉厚な葉を持ち、耐寒性耐暑性があり乾燥
にも強い。切り花で流通する花が咲く品種も、
非常に長く楽しめる。
■ユーカリ〔ポポラス〕   フトモモ科/常緑
高木/コアラの食べる木として有名。オースト
ラリアを中心に約600種分布。「ポポラス」は
大きい丸葉が特徴。
※拡大写真
http://www.fmu.ac.jp/univ/hana/2881.jpg

【秘書室】
■藤袴(フジバカマ)   キク科/多年草/秋の七草の一種。花期は8
〜9月頃で、5mm程の小さな花を房状に多数咲かせる。本来は河原な
どに群生する強健な植物だが、野生種は絶滅危惧種。万葉集などにも詠
まれ古くから愛される。花後はタンポポのように綿毛のついた種を風によ
って運ぶ。
■ケイトウ〔ボンベイケイトウ〕(理事長室と同花材)
※拡大写真
http://www.fmu.ac.jp/univ/hana/2882.jpg

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