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理事長室からの花だより
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理事長室からの花だより
vol.290 − 遺 (のこす) −
秋深い今、朝霧が大地を覆ってしまいます。この時季、一年のうちもっとも幻想的な朝が、時々、みられます。
玄関先、鈴蘭(スズラン)の赤い実、こんな朝にはこの赤が際立ちます。
山並の稜線、日の出の光を背後に受けて淡く輝いています。太陽が顔を出し、霧の中に光が入り込むと、あっという間に霧は消えてしまいます。その後、太陽は月のように白く輝きます。
大学に着く頃、一点の曇りもない透明感を極めた、朱に染まった大地の秋が眼の前にあります。
ニューヨーク、鼎(かなえ)を覆したような猥雑と喧噪に満ちています。
騒々しいクラクション、人々の信号無視、汚い道路、背景にある理由は一つであると感じました。法です。
法だけが公(おおやけ)の秩序維持手段にしかなり得ない社会です。事実、街中で聞こえてくるのは英語以外の言語のほうが多いのです。
移民国家だからこその人々の強烈な上昇志向、民族により異なる慣習、纏(まと)めるのは、唯一、法だけ、宜(むべ)なるかなです。
統(す)べることの大変さ、一旦動き出したら制御出来ない大衆の勢いと気儘(きまま)さ、米国という国の素晴らしさと恐さは表裏一体のものです。他国がこの国と付き合う時、ここに難しさがあるという感じを持ちました。
メトロポリタン美術館の「移ろわぬ美」、これらを何とか福島の人々にみせて下さればという思いで館内を動きました。
郊外にある、文化財になっている米国で2番目の邸宅OHEKA CASTLE(オヘカ キャッスル)へ足を延ばしました。修復がなされてはいました。只、いくら整備されても人々の営みを失った館(やかた)は、広大で美しい庭園を持っていても、寂しい感じは拭えません。
フリックコレクションの館も同様です。建物、内装は昔の名残りを留めていても、そこに暮らしや営みの息吹きがないと廃墟の気配を感じてしまいます。
世の栄枯盛衰、黄金色の満月が館と樹海の上に浮かぶ様(さま)、荒城の月、アンセルアダムスの「月の出」を思い出しました。
(vol.15 http://www.fmu.ac.jp/univ/cgi/hana_disp.php?seq=31)
春高楼の花の宴
巡る盃影さして
千代の松が枝分け出でし
昔の光今いづこ
土井晩翠
海外に居ると、振り返るのは祖国のことです。
和の象徴の一つが和服です。
上布(じょうふ)、能登上布にまつわる秘話は以前に記しました。
(vol.180 http://www.fmu.ac.jp/univ/cgi/hana_disp.php?seq=214)
さらりとした肌ざわりと絣(かすり)の細かさ、着ていて重さを感じません。只、織り幅に入れる十字絣(じゅうじがすり)の数は100を超えるという作る手間、想像を絶します。
八重山上布、白地に焦(こげ)茶の絣柄が特徴です。
(vol.38 http://www.fmu.ac.jp/univ/cgi/hana_disp.php?seq=62)
清楚な夏の着物として愛用しています。
紬(つむぎ)、作る手間は大変なものです。真綿から糸をつむぎ、糸をくくって柄にしていきます。裾捌(すそさば)きが良く、好きな着物です。糸の製作、織り、この手仕事の後継者が居なくなるということは、この仕事では暮らしが成り立たないのでしょう。
織り手が居なくなると、やがて亡びてしまいます。
1960年(昭和35年)を境に、日本人は2種類に分けられるそうです。
例えば、自由の捉え方です。旧型は、やりたいことが何でもできる自由と捉えます。60年型(新型)の人間は、何をしなくてもいいフリーな状態ととります。一つの言葉でもこれだけ違うそうです。
これが世の移ろいなのでしょうか。
この差の背景に貧しさがあります。貧しさに耐えて得た豊かさ、便利さです。
子供の頃、抜けるような大きな青空を見上げていました。
今、人間(ヒト)として大切な何かを、当時の心と一緒に、そこに置いてきてしまったような気がします。
この先に待っているのは何でしょうか。
今週の花材は、執務室は深山の、秘書室は日溜(ひだま)りの秋を表現しているような印象を受けます。
(福島県立医科大学理事長 菊地臣一)
玄関先、鈴蘭(スズラン)の赤い実、こんな朝にはこの赤が際立ちます。
山並の稜線、日の出の光を背後に受けて淡く輝いています。太陽が顔を出し、霧の中に光が入り込むと、あっという間に霧は消えてしまいます。その後、太陽は月のように白く輝きます。
大学に着く頃、一点の曇りもない透明感を極めた、朱に染まった大地の秋が眼の前にあります。
ニューヨーク、鼎(かなえ)を覆したような猥雑と喧噪に満ちています。
騒々しいクラクション、人々の信号無視、汚い道路、背景にある理由は一つであると感じました。法です。
法だけが公(おおやけ)の秩序維持手段にしかなり得ない社会です。事実、街中で聞こえてくるのは英語以外の言語のほうが多いのです。
移民国家だからこその人々の強烈な上昇志向、民族により異なる慣習、纏(まと)めるのは、唯一、法だけ、宜(むべ)なるかなです。
統(す)べることの大変さ、一旦動き出したら制御出来ない大衆の勢いと気儘(きまま)さ、米国という国の素晴らしさと恐さは表裏一体のものです。他国がこの国と付き合う時、ここに難しさがあるという感じを持ちました。
メトロポリタン美術館の「移ろわぬ美」、これらを何とか福島の人々にみせて下さればという思いで館内を動きました。
郊外にある、文化財になっている米国で2番目の邸宅OHEKA CASTLE(オヘカ キャッスル)へ足を延ばしました。修復がなされてはいました。只、いくら整備されても人々の営みを失った館(やかた)は、広大で美しい庭園を持っていても、寂しい感じは拭えません。
フリックコレクションの館も同様です。建物、内装は昔の名残りを留めていても、そこに暮らしや営みの息吹きがないと廃墟の気配を感じてしまいます。
世の栄枯盛衰、黄金色の満月が館と樹海の上に浮かぶ様(さま)、荒城の月、アンセルアダムスの「月の出」を思い出しました。
(vol.15 http://www.fmu.ac.jp/univ/cgi/hana_disp.php?seq=31)
春高楼の花の宴
巡る盃影さして
千代の松が枝分け出でし
昔の光今いづこ
土井晩翠
海外に居ると、振り返るのは祖国のことです。
和の象徴の一つが和服です。
上布(じょうふ)、能登上布にまつわる秘話は以前に記しました。
(vol.180 http://www.fmu.ac.jp/univ/cgi/hana_disp.php?seq=214)
さらりとした肌ざわりと絣(かすり)の細かさ、着ていて重さを感じません。只、織り幅に入れる十字絣(じゅうじがすり)の数は100を超えるという作る手間、想像を絶します。
八重山上布、白地に焦(こげ)茶の絣柄が特徴です。
(vol.38 http://www.fmu.ac.jp/univ/cgi/hana_disp.php?seq=62)
清楚な夏の着物として愛用しています。
紬(つむぎ)、作る手間は大変なものです。真綿から糸をつむぎ、糸をくくって柄にしていきます。裾捌(すそさば)きが良く、好きな着物です。糸の製作、織り、この手仕事の後継者が居なくなるということは、この仕事では暮らしが成り立たないのでしょう。
織り手が居なくなると、やがて亡びてしまいます。
1960年(昭和35年)を境に、日本人は2種類に分けられるそうです。
例えば、自由の捉え方です。旧型は、やりたいことが何でもできる自由と捉えます。60年型(新型)の人間は、何をしなくてもいいフリーな状態ととります。一つの言葉でもこれだけ違うそうです。
これが世の移ろいなのでしょうか。
この差の背景に貧しさがあります。貧しさに耐えて得た豊かさ、便利さです。
子供の頃、抜けるような大きな青空を見上げていました。
今、人間(ヒト)として大切な何かを、当時の心と一緒に、そこに置いてきてしまったような気がします。
この先に待っているのは何でしょうか。
今週の花材は、執務室は深山の、秘書室は日溜(ひだま)りの秋を表現しているような印象を受けます。
(福島県立医科大学理事長 菊地臣一)
今週の花
【理事長室】
■サンゴミズキ ミズキ科/落葉低木/白玉水木(シラタマ
ミズキ)の変種。冬になると枝が珊瑚のような鮮やかな赤色に
染まる。花期は5〜6月頃で、枝先に白色の小花を多数咲か
せる。
■ピンポン菊〔オペラ〕 キク科/多年草/お供え花だけで
なく、お祝い用途にも人気の菊。ピンポン菊はピンポン玉のよう
に丸く咲く可愛い菊。「オペラ」シリーズはダリアに似たデコラ
咲。今回は「オペラピンク」と「オペラオレンジ」を使用。
■トルコギキョウ〔クラシカル〕 リンドウ科/多年草/花の
咲き方や大きさ、花色がとても豊富。品種改良が盛んで毎年
多くの新種が登場する。「クラシカル」は茶色がかったピンクの
八重咲。
■ユーカリ〔ポポラス〕 フトモモ科/常緑高木/コアラが食
べる木として有名。原産地オーストラリアを中心に約600種。
「ポポラス」は大きい丸葉が特徴。
※拡大写真
http://www.fmu.ac.jp/univ/hana/2901.jpg
■サンゴミズキ ミズキ科/落葉低木/白玉水木(シラタマ
ミズキ)の変種。冬になると枝が珊瑚のような鮮やかな赤色に
染まる。花期は5〜6月頃で、枝先に白色の小花を多数咲か
せる。
■ピンポン菊〔オペラ〕 キク科/多年草/お供え花だけで
なく、お祝い用途にも人気の菊。ピンポン菊はピンポン玉のよう
に丸く咲く可愛い菊。「オペラ」シリーズはダリアに似たデコラ
咲。今回は「オペラピンク」と「オペラオレンジ」を使用。
■トルコギキョウ〔クラシカル〕 リンドウ科/多年草/花の
咲き方や大きさ、花色がとても豊富。品種改良が盛んで毎年
多くの新種が登場する。「クラシカル」は茶色がかったピンクの
八重咲。
■ユーカリ〔ポポラス〕 フトモモ科/常緑高木/コアラが食
べる木として有名。原産地オーストラリアを中心に約600種。
「ポポラス」は大きい丸葉が特徴。
※拡大写真
http://www.fmu.ac.jp/univ/hana/2901.jpg
【秘書室】
■ダリア〔熱唱〕 キク科/多年草/品種がとても豊富で3万
種以上ある。花の大きさは3cm程の可愛らしいものから30cm
以上の巨大輪まで。「熱唱」」は鮮やかな赤橙色で、気温によっ
て色幅がでる。
■エリンジュウム セリ科/多年草/長く鋭い苞と松かさの
ような花をもつ。成長とともに青みを帯びる。非常に花持ちが良
く、ドライフラワーにも適す。
■サンダーソニア ユリ科/球根植物/細い茎にベル型の
小さな花が連なって咲く。花色はオレンジでランプを灯したような
可愛らしい花姿。原産地でクリスマス頃に咲くことから「クリスマ
スベル」の別名を持つ。
■ドラセナ〔サンデリアーナゴールド〕 リュウゼツラン科/笹
のような細長い葉とストライプの斑が特徴。「ゴールド」は黄色味
が強い品種。他に「サンデリアーナホワイト」や「バリケード」もあ
る。
※拡大写真
http://www.fmu.ac.jp/univ/hana/2902.jpg
■ダリア〔熱唱〕 キク科/多年草/品種がとても豊富で3万
種以上ある。花の大きさは3cm程の可愛らしいものから30cm
以上の巨大輪まで。「熱唱」」は鮮やかな赤橙色で、気温によっ
て色幅がでる。
■エリンジュウム セリ科/多年草/長く鋭い苞と松かさの
ような花をもつ。成長とともに青みを帯びる。非常に花持ちが良
く、ドライフラワーにも適す。
■サンダーソニア ユリ科/球根植物/細い茎にベル型の
小さな花が連なって咲く。花色はオレンジでランプを灯したような
可愛らしい花姿。原産地でクリスマス頃に咲くことから「クリスマ
スベル」の別名を持つ。
■ドラセナ〔サンデリアーナゴールド〕 リュウゼツラン科/笹
のような細長い葉とストライプの斑が特徴。「ゴールド」は黄色味
が強い品種。他に「サンデリアーナホワイト」や「バリケード」もあ
る。
※拡大写真
http://www.fmu.ac.jp/univ/hana/2902.jpg