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理事長室からの花だより

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理事長室からの花だより

2014.12.05

vol.296  − 敬 (うやまう) −

師走、街にはイルミネーション、早や、クリスマスの雰囲気です。
暮らし振りは、時代とともに変わっても、歳末の風景が人々に訴えてくる忙(せわ)しなさ、変わりません。

信夫の里、最も早い日の入りが、3日から11日にかけての午後4時19分です。心の四季、最初の折り返しです。
朝、執務室の鍵を差し込むのに少し戸惑いを覚える暗さです。日の出はもう少し遅くなります。冬至を経て、最後の折り返しです。

         最短の日の夕べのはやも押しよせぬ
         ひとつ赤き実を野鳥ついばむ
                              森岡貞香

この歌の風景、今は仲々みられません。師走の世の中の慌ただしさとは対照的な情景です。夕暮れ時の静寂が感じられます。

白墨(チョーク)の大手メーカーの廃業、という記事を読みました。
明治以来の長きに渡り、我が国の教育に根付いていたモノが消え行こうとしています。昔、黒色から緑色に黒板が変わるという変化を経験しました。今はホワイトボードやスライドが主役です。

黒板拭きや白墨の使用で、服や手に粉がついて困った事を覚えています。
黒板拭きを、両方の手に持って拍子木のように叩くと、息が出来ない程の粉が飛び散ります。
友が、黒板拭きを教室の引き戸の上に挟んで、先生や同級生の頭に落として大騒ぎがありました。

廃業の理由は、少子化、需要の減少、そして、後継者不在のようです。
モノづくり立国を支えてきた「匠(たくみ)」、廃業理由の一端に、技術者や職人さんを大切にしてきた我が国の気風の変質が関わっていなければ良いのですが…。

そう危惧するのは、匠の減少や技の継承の危機が、先端産業でも起きているからです。世の中の動きが早すぎ、世代間で価値観の共有や専門知識の受け渡しがうまくできていません。
技術者や職人さんの世界、親が必ずしも子供の継承を望んでいないこともあるようです。長い修業の割に収入や待遇が見合わず、学びの厳しさに応じた暮らしの豊かさが得られないという思いがあるのでしょう。

技を極める、新しい技の創出、そして継承には、学ぶ者と教える側の双方に、相手に対する信頼と敬意が必要です。そして、愚直なまでの継続が求められます。それを理解し、支える人々の存在も必要です。

欧州の貴族、朝鮮半島での嘗(かつ)ての両班(ヤンバン・官吏貴族)では、手を汚し、汗して働くのは美徳ではありません。この思想は、我が国の鈴木正三(すずき・しょうさん)、石田梅岩(いしだ・ばいがん)の思想と正反対にあります。
         (vol.189 http://www.fmu.ac.jp/univ/cgi/hana_disp.php?seq=225

コンピュータの一瞬の操作や仕掛けで、大金が稼げる今という時代、地道な努力を馬鹿らしいと思わせる世情が伏流水のようにあるのでは…。

「モノづくり立国」、我が国の世界一高い給与水準や豊かな暮らしを理由に、時代遅れ、と喧伝されています。戦後の貧しさやひもじさを知り、ITに無知な人間には、必ずしも腑に落ちない論です。

金融経済が実体としての経済規模を遥かに凌駕している今、景気の変動は、以前より、劇的、短期です。ITでも、制御できない危機が起きています。
ドイツが、あれ程までに金融緩和に慎重なのは、第一次大戦の敗戦によるすさまじいインフレを経験したからです。一方、我が国では大東亜戦争での大変な経験さえ、父母は次の世代に何も語ろうとせずに逝(い)ってしまっています。

遅刻をした場合、我が国では言い訳は、女々しいととられてしまいます。沈黙は金です。
ドイツでは、遅れた理由を言わなければならない、と知人達に聞いたことがあります。沈黙は銀です。
ここに文化の違いが顔を出しています。

今週の花材は、両室とも、日溜りを連想させてくれます。


(福島県立医科大学理事長  菊地臣一)



今週の花


【理事長室】
■バラ〔サムライ〕   バラ科/落葉低木/花
色・花形など多岐にわたり、約2万種を超す。
世界的にも古くから親しまれ、現在も人気の高
い花。「サムライ」はビロードがかった深みのあ
る紅色。
■エリンジュウム〔ブルーダイナマイト〕
セリ科/多年草/長く鋭い苞と松かさのような
花が特徴。成長とともに青みを帯びる。非常に
花持ちが良く、ドライフラワーにも適す。
■リュウカデンドロン〔サファリサンセット〕
ヤマモガシ科/《名前の由来》ギリシャ語で
“白”(リュウカ)と“木”(デンドロン)から/花
弁のように見える部分は苞葉で、その中に花
序がある。「サファリサンセット」は赤茶色の品
種。
■菊〔セイオペラピンク〕   キク科/多年草
/ダリアのようなデコラ咲の菊。真ん丸に咲く
ピンポン菊と同様に、通常の菊より長く楽しめ
る。「セイオペラピンク」は優しいピンク色。
■ベアグラス   ユリ科/細長い線状でしな
やかな葉。非常に丈夫なグリーンで、籠を編む
材料として利用される。
■テマリ草   ナデシコ科/多年草/マリモ
や芝を連想させる個性的な花。ふさふさした部
分は、花・雄しべ・雌しべが変化したもの。
※拡大写真
http://www.fmu.ac.jp/univ/hana/2961.jpg

【秘書室】
■ラナンキュラス〔コートパステル〕   キンポウゲ/球根
植物/《名前の由来》ラテン語の“蛙”(ラナ)に由来。蛙が
たくさん生息する湿地に自生することから/幾重にも重なる
柔らかい花弁が特徴。「コート」シリーズは巨大輪(8cm以
下)品種。開花につれフワフワの花弁が存在感を増す。
■ブプレリュウム  セリ科/一年草/清々しさを感じさせ
る鮮やかなグリーンの葉。茎が葉を突き抜けるのが特徴。
主にグリーンとして利用されるが、黄色い小さな花が集まっ
て咲く。
※拡大写真
http://www.fmu.ac.jp/univ/hana/2962.jpg

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