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理事長室からの花だより
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理事長室からの花だより
vol.298 − 出 (いずる) −
日捲(ひめく)り暦も薄くなり、底が見えてきました。
朝まだき、夕闇の中、雪の白を背景にした南天の真紅、鮮やかです。仏壇の水仙、早や春の兆(きざ)しです。
書斎の灯を消すと障子が白く浮かび上がります。外に出てみると雪明りです。
この冬初めてです。幻想的な白銀の明るさで、静けさが辺(あた)りを支配しています。
齢を重ね、師走、誕生月、昔の事どもが脳裡を過(よぎ)ります。
成人に至るまで、誕生日を祝うという事はありませんでした。家庭の事情なのか、戦後の貧しき時代はそれが普通だったのか、もう確かめる術(すべ)はありません。
仕事に就いてからは、誕生日は、いつも‟夜汽車”、仕事をしたり、何も考えずに過ぎ去る風景をみて過(すご)すというのが現実です。
かぞふれば年の残りもなかりかり
おいぬるばかり哀しきはなし
和泉式部
故郷に式部伝記があり、彼女の歌に惹かれます。
誕生日を迎える度(たび)に、‟人生”を考えてしまいます。
旧(ふる)くは、‟命あるもの見るに、人ばかり久しきはなし”(吉田兼好「徒然草」第7段)と、人間ほど長生きする生き物は無いと作者は言い切っています。
近くでは‟死を怖れもせず、死にあこがれもせず…”(森鴎外「妄想」)と、達観している人間も居ます。
一方、‟人間の生命は「ひとつ」と数える暇もない”(シェークスピア「ハムレット」)、
‟振り返ってみれば人の一生なんてあっけないもの”(佐藤洋二郎「沈黙の神々」)
という警句に共感を覚えてしまう自分がいます。
早くに、突然、亡くなった父。自分の生き方を決定づけ、励まし続けて下さった恩師。比べてしまうと、‟日暮れて道遠し”です。
生誕200周年記念のボストン美術館ミレー展、充実した内容です。
ゴッホが、生涯、ミレーを尊敬していたのは、恐らく、働くということに価値と美を見い出していた彼等の視点の一致が理由なのではないでしょうか。
我が国や米国での記念展の開催、一方、祖国フランスでは何の催しも無いとの事、新聞で知りました。ここに、職業や勤労に対する各国の労働に対する価値観の違いを見い出すのは穿(うが)ち過ぎでしょうか。
この美術展、他の作家が目を惹きます。コローの幻想的な画面、肌を撫でる風や大気の潤(うるお)いまで感じられます。
イスラエルス、シャントルイユ、初めて知る画家です。
前者の悲痛な暗さ、後者の日没前の哀しくなる程の穏やかな明るさ、悲しみと安らぎ、暫(しば)し、釘付けになります。
ミレーの初期の作品をみると、我が国と西洋との建築の有り様(よう)が、正反対であることに改めて気付かされます。
西洋の建築、石やレンガが仕切りの主役です。外と内、壁が完全に隔てています。初期の作品にみられる暗さ、建築様式も影響しているのでしょう。暮らしの場が暗かったからこそ、画家は闇と光の対比に挑戦したのでしょうか。
我が国では、この仕切り、遥か昔、絵巻でみる限り、蔀戸(しとみど)、屏風(びょうぶ)、几帳(きちょう)です。その後、障子(しょうじ)や襖(ふすま)といった引戸建具が仕切りの主役になり、今に至っています。
室内の明るさは、引戸の開け閉めや大きさで加減しています。西洋の仕切りからみれば、隔ては不完全です。それだからこそ、我が国特有の作法や嗜みが創られたのではないでしょうか。
(vol.294 http://www.fmu.ac.jp/univ/cgi/hana_disp.php?seq=331)
明るさの加減に最も意を用いている建築が茶室です(独断です)。窓を大きくしたり、数を増やすことにより、明るさや開放感を意の儘(まま)に演出できます。
桂離宮、大徳寺孤篷庵忘筌(だいとくじ こほうあん ぼうせん)、真珠庵庭玉軒(しんじゅあん ていぎょくけん)など、先人達の工夫が、明暗の塩梅(あんばい)の大切さを我々に教えてくれています。
今週の花材は、執務室は赤が、秘書室は白が主役です。
(福島県立医科大学理事長 菊地臣一)
朝まだき、夕闇の中、雪の白を背景にした南天の真紅、鮮やかです。仏壇の水仙、早や春の兆(きざ)しです。
書斎の灯を消すと障子が白く浮かび上がります。外に出てみると雪明りです。
この冬初めてです。幻想的な白銀の明るさで、静けさが辺(あた)りを支配しています。
齢を重ね、師走、誕生月、昔の事どもが脳裡を過(よぎ)ります。
成人に至るまで、誕生日を祝うという事はありませんでした。家庭の事情なのか、戦後の貧しき時代はそれが普通だったのか、もう確かめる術(すべ)はありません。
仕事に就いてからは、誕生日は、いつも‟夜汽車”、仕事をしたり、何も考えずに過ぎ去る風景をみて過(すご)すというのが現実です。
かぞふれば年の残りもなかりかり
おいぬるばかり哀しきはなし
和泉式部
故郷に式部伝記があり、彼女の歌に惹かれます。
誕生日を迎える度(たび)に、‟人生”を考えてしまいます。
旧(ふる)くは、‟命あるもの見るに、人ばかり久しきはなし”(吉田兼好「徒然草」第7段)と、人間ほど長生きする生き物は無いと作者は言い切っています。
近くでは‟死を怖れもせず、死にあこがれもせず…”(森鴎外「妄想」)と、達観している人間も居ます。
一方、‟人間の生命は「ひとつ」と数える暇もない”(シェークスピア「ハムレット」)、
‟振り返ってみれば人の一生なんてあっけないもの”(佐藤洋二郎「沈黙の神々」)
という警句に共感を覚えてしまう自分がいます。
早くに、突然、亡くなった父。自分の生き方を決定づけ、励まし続けて下さった恩師。比べてしまうと、‟日暮れて道遠し”です。
生誕200周年記念のボストン美術館ミレー展、充実した内容です。
ゴッホが、生涯、ミレーを尊敬していたのは、恐らく、働くということに価値と美を見い出していた彼等の視点の一致が理由なのではないでしょうか。
我が国や米国での記念展の開催、一方、祖国フランスでは何の催しも無いとの事、新聞で知りました。ここに、職業や勤労に対する各国の労働に対する価値観の違いを見い出すのは穿(うが)ち過ぎでしょうか。
この美術展、他の作家が目を惹きます。コローの幻想的な画面、肌を撫でる風や大気の潤(うるお)いまで感じられます。
イスラエルス、シャントルイユ、初めて知る画家です。
前者の悲痛な暗さ、後者の日没前の哀しくなる程の穏やかな明るさ、悲しみと安らぎ、暫(しば)し、釘付けになります。
ミレーの初期の作品をみると、我が国と西洋との建築の有り様(よう)が、正反対であることに改めて気付かされます。
西洋の建築、石やレンガが仕切りの主役です。外と内、壁が完全に隔てています。初期の作品にみられる暗さ、建築様式も影響しているのでしょう。暮らしの場が暗かったからこそ、画家は闇と光の対比に挑戦したのでしょうか。
我が国では、この仕切り、遥か昔、絵巻でみる限り、蔀戸(しとみど)、屏風(びょうぶ)、几帳(きちょう)です。その後、障子(しょうじ)や襖(ふすま)といった引戸建具が仕切りの主役になり、今に至っています。
室内の明るさは、引戸の開け閉めや大きさで加減しています。西洋の仕切りからみれば、隔ては不完全です。それだからこそ、我が国特有の作法や嗜みが創られたのではないでしょうか。
(vol.294 http://www.fmu.ac.jp/univ/cgi/hana_disp.php?seq=331)
明るさの加減に最も意を用いている建築が茶室です(独断です)。窓を大きくしたり、数を増やすことにより、明るさや開放感を意の儘(まま)に演出できます。
桂離宮、大徳寺孤篷庵忘筌(だいとくじ こほうあん ぼうせん)、真珠庵庭玉軒(しんじゅあん ていぎょくけん)など、先人達の工夫が、明暗の塩梅(あんばい)の大切さを我々に教えてくれています。
今週の花材は、執務室は赤が、秘書室は白が主役です。
(福島県立医科大学理事長 菊地臣一)
今週の花
【理事長室】
■ウメモドキ〔マジカルベリー〕 モチノキ科
/落葉低木/《名前の由来》樹形や葉が梅に
似ていることから/花期は5〜6月頃で、秋に
枝いっぱいに実をつける。落葉後も果実が残り
冬庭を彩り、庭木としても人気。
■OHユリ〔マーロン〕 ユリ科/球根植物
/優雅な花姿と芳香が特徴のオリエンタルハ
イブリッド種。認知度の一番高いユリ「カサブラ
ンカ」もOH品種。「マーロン」は花が大きめで
見栄えのするピンク色。
■ドラセナ〔コーディラインレッド〕 リュウゼ
ツラン科/切花としても非常に長く楽しめる丈
夫なグリーン。「コーディラインレッド」は赤葉。
本来はコルジリネだが以前ドラセナに分類さ
れていたため“ドラセナ”で流通。
※拡大写真
http://www.fmu.ac.jp/univ/hana/2981.jpg
■ウメモドキ〔マジカルベリー〕 モチノキ科
/落葉低木/《名前の由来》樹形や葉が梅に
似ていることから/花期は5〜6月頃で、秋に
枝いっぱいに実をつける。落葉後も果実が残り
冬庭を彩り、庭木としても人気。
■OHユリ〔マーロン〕 ユリ科/球根植物
/優雅な花姿と芳香が特徴のオリエンタルハ
イブリッド種。認知度の一番高いユリ「カサブラ
ンカ」もOH品種。「マーロン」は花が大きめで
見栄えのするピンク色。
■ドラセナ〔コーディラインレッド〕 リュウゼ
ツラン科/切花としても非常に長く楽しめる丈
夫なグリーン。「コーディラインレッド」は赤葉。
本来はコルジリネだが以前ドラセナに分類さ
れていたため“ドラセナ”で流通。
※拡大写真
http://www.fmu.ac.jp/univ/hana/2981.jpg
【秘書室】
■コチア アカザ科/常緑低木/針葉樹に雪が降り
積もったような樹形。四季を通して白銀色で、多肉植物
のような肉厚な葉が特徴。クリスマスのアレンジなどに
人気。
■カーネーション〔ガナッシュ〕 ナデシコ科/多年草
/母の日の花として古くから親しまれる。バラ・菊になら
び世界的に生産量が多い。「ガナッシュ」は赤茶系の複
色でシックな色合い。
■ヒペリカム〔ココディアブロ〕 オトギリソウ科/半常
緑低木/花期は初夏で小さな黄色い花が咲く。主に花
後の実を楽しむものとして流通。実色は赤ピンク系を中
心に緑や茶色などもある。
■アンスリュウム〔スパイス〕 サトイモ科/常緑多
年草/光沢があり造花と見間違うような花。団扇(うち
わ)のような部分は苞で棒状の部分が花。「スパイス」
は赤と緑の複色。
■ピンポン菊 キク科/多年草/ピンポン玉のように
真ん丸に咲く可愛い菊。日持ちの良い菊の中でも、特に
長く楽しめる品種。
■ドラセナ〔コーディラインフォーカラーズ〕
(理事長室と同花材)
「フォーカラーズ」は茶系の葉色で小葉。こちらも本来は
コルジリネ。
※拡大写真
http://www.fmu.ac.jp/univ/hana/2982.jpg
■コチア アカザ科/常緑低木/針葉樹に雪が降り
積もったような樹形。四季を通して白銀色で、多肉植物
のような肉厚な葉が特徴。クリスマスのアレンジなどに
人気。
■カーネーション〔ガナッシュ〕 ナデシコ科/多年草
/母の日の花として古くから親しまれる。バラ・菊になら
び世界的に生産量が多い。「ガナッシュ」は赤茶系の複
色でシックな色合い。
■ヒペリカム〔ココディアブロ〕 オトギリソウ科/半常
緑低木/花期は初夏で小さな黄色い花が咲く。主に花
後の実を楽しむものとして流通。実色は赤ピンク系を中
心に緑や茶色などもある。
■アンスリュウム〔スパイス〕 サトイモ科/常緑多
年草/光沢があり造花と見間違うような花。団扇(うち
わ)のような部分は苞で棒状の部分が花。「スパイス」
は赤と緑の複色。
■ピンポン菊 キク科/多年草/ピンポン玉のように
真ん丸に咲く可愛い菊。日持ちの良い菊の中でも、特に
長く楽しめる品種。
■ドラセナ〔コーディラインフォーカラーズ〕
(理事長室と同花材)
「フォーカラーズ」は茶系の葉色で小葉。こちらも本来は
コルジリネ。
※拡大写真
http://www.fmu.ac.jp/univ/hana/2982.jpg