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理事長室からの花だより

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理事長室からの花だより

2015.01.23

vol.302  − 和 (わする) −

日没の時間が延びてきました。花屋さんの店先は早や春です。
この時季、街に色が乏しく、山茶花(サザンカ)の紅は元気がありません。僅(わず)かに、増上寺前の街路樹の夏ミカンが1個、深緑のなかの橙色、青空を背に鮮やかです。

         ひたすらに日はわたりゆく夏柑の
         一つを残す木立の上を
                            小野茂樹

“明けましてお目出度うございます”
いつから、何故、こう言うのか、謂(いわ)れを知りません。
年が変わり、それまでの諸々(もろもろ)を一旦帳消しにして、やり直すという意味があるのでは…。
遥か昔、太陽が、毎日違(たが)えることなく東から昇り、西に沈み、そして、再び陽が昇ります。
人間(ヒト)は、これを再生と受け止め、そこに“神”を見ていました。

正月、連日の雑煮にうんざりしていた事を憶えています。父が恐くて口には出せませんでしたが。
もう一つ、1週間(記憶が茫洋)、家の中を掃除しなかったことです。陋屋(ろうおく)なのに、迷信を信じて、というのが正直な気持ちでした。

“年に一度訪れて下さる神を追い出すような事はしない”、“財を掃き出すことを避ける”という敬(うやまい)の意味があったのでは、と今なら分かります。
分(ぶ)を弁(わきま)え、慎ましくも、必死で生きていた当時(1950年代)の人々、“お天道様がみている”という懼(おそ)れが、人々の心にまだ受け継がれていたのです。

元旦、新聞が束になって届きます。第一部しか目を通さなくなって、久しくなりました。
著名人が、紙面で、「枠を越えよ」、「個性を発揮せよ」、と若者に夢を持つことを語っています。
過去に目を向けて生きる事(vol.232、300)は、未来をみて仕事をしているのと比べてダメ、今の日本人に良い所はない、と受け取られないのか、少し不安です。
         (vol.232 http://www.fmu.ac.jp/univ/cgi/hana_disp.php?seq=269
         (vol.300 http://www.fmu.ac.jp/univ/cgi/hana_disp.php?seq=337

人間(ヒト)にも歴史あり、民族も然(しか)りです。歴史という時は、日本人に枠の中での工夫という知恵を授けました。
その結果、緻密、繊細な技が花開き、根気、辛抱という心が育(はぐく)まれました。皆が力を合わせて、何かを成し遂げるという知恵も歳月が生んだ賜物(たまもの)です。

枠を破ること、個性の発揮、大切です。只、個性は出すものではなく、出るものです。
        〔学長からの手紙〕
         (No.83 http://www.fmu.ac.jp/univ/daigaku/letter/083.html
        〔理事長室からの花だより〕
         (vol.204 http://www.fmu.ac.jp/univ/cgi/hana_disp.php?seq=241
         (vol.233 http://www.fmu.ac.jp/univ/cgi/hana_disp.php?seq=270
         (vol.248 http://www.fmu.ac.jp/univ/cgi/hana_disp.php?seq=285
我が国では、古来、枠からはみ出した者は、祀(まつ)られて神や鬼になっています。

今を生きる大人の務めは、先人の知恵を受け継ぎながら、個性を生かせる土壌を世間につくることです。
どんな人間もそれまでの人生によって形作られた自分を変えるのは難しいものです。
我が国で生を享(う)けた人間が、我々に無いモノを持つ努力をすることは大切です。只、歴史が育んできた持ち味を壊してでもそれを至上命題とすると、角を矯(た)めて牛を殺すことになり兼ねません。

年末、拙宅に泥棒騒ぎがありました。結果的に多くの方に御迷惑と御負担を掛けてしまいました。
年が改まっても、心の切り換えが全く出来ません。これでは、差し障りが出ると考え、「雪と月と花−国宝『雪松図』と四季の草花−展」に足を運びました。

昔と変わらず、粉引(こひき)の茶碗に惹かれました。牢乎(ろうこ)とは正反対の、不完全な柔らかさ、心安らぎます。
優しく、美しい粉引の茶碗 銘残雪(めい ざんせつ)、三好粉引(みよしこひき)の雪のような真白な地と笹様の模様(火間)、抽象的な“天の図案”です。
長谷川奈津の酒盃、粉引の風合いが醸し出す穏やかな雰囲気に心惹かれ、2つ、衝動的に買ってしまったことがあります。
備前徳利花入 銘雨後月(びぜんとくりはないれ めい うごつき)も素朴で優しげです。
備前、信楽といった素焼き、日本の器の美の象徴です。

今週の花材は、両室とも冬の夜の静けさを感じます。


(福島県立医科大学理事長  菊地臣一)



今週の花


【理事長室】
■日向水木(ヒュウガミズキ)   マンサク科/
落葉低木/近畿地方の日本海側の限られた地
域の岩場に自生。花は葉が芽吹く前に咲き、黄
白色の小花が2〜3個ずつ花序になる。枝は細く
多く分岐し、枝いっぱいに花をつける。
■エピデンドラム   ラン科/細く伸びた茎の先
端に小さな花が密集して半球状に開花。次々と
開花し、切り花としても長く楽しめる。多肉植物の
ような肉厚な葉を持ち、一列に互生する。
■ピンポン菊   キク科/多年草/ピンポン玉
のように真ん丸に咲く可愛い菊。通常の菊に比べ
鑑賞期間が長い。
■エリンジュウム〔スーパーノバ〕   セリ科/多
年草/長く鋭い苞と松かさのような花が特徴。成
長とともに青みを帯びる。非常に花持ちが良く、ド
ライフラワーにも適す。
※拡大写真
http://www.fmu.ac.jp/univ/hana/3021.jpg

【秘書室】
■チューリップ〔ベリシア〕   ユリ科/球根植物/公園や学校
などの花壇を彩る春の代表花。開花時期や花色・花形など多岐
にわたり8,000種以上ある。「ベリシア」はクリームの花弁で、
成長につれ縁にピンクが入る八重咲。
■ラナンキュラス〔小春てまり〕   キンポウゲ科/球根植物/
幾重にも重なる柔らかい花弁が特徴。「てまり」シリーズは蕾が
手毬に似た香川県の育成品種。「小春てまり」は白い花弁の縁
がピンクの品種。
■ブプレリュウム   セリ科/一年草/清々しさを感じさせる鮮
やかなグリーンの葉。茎が葉の中心を突き抜けるのが特徴。
主にグリーンとして利用されるが、黄色い小さな花が咲く。
■ヒペリカム〔マジカルビクトリー〕  オトギリソウ科/半常緑低
木/花期は初夏で小さな黄色い花が咲く。主に花後の実を楽し
むものとして流通。実色は赤・ピンク系の他、茶や黒もある。「マ
ジカルビクトリー」は爽やかな緑色品種。
※拡大写真
http://www.fmu.ac.jp/univ/hana/3022.jpg

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