HOME > 理事長室からの花だより
理事長室からの花だより
新着 30 件
理事長室からの花だより
vol.309 − 哀 (かなしむ) −
信夫の里、この時季、盆地特有の霧が山河を覆います。
列車内のざわめきとは対照的に、景色は静寂です。車、人の動きがスローモーションのようにみえます。
水墨画の朦朧体(もうろうたい)、長谷川等伯の「松林図屏風」(vol.281)や横山大観の「雨霽る(あめはる)」(vol.69)を連想させます。
(vol.281 http://www.fmu.ac.jp/univ/cgi/hana_disp.php?seq=318)
(vol.69 http://www.fmu.ac.jp/univ/cgi/hana_disp.php?seq=95)
このあいまいな遠近感の無さ、疲れた身(み)には良薬です。
週末、都内での一連の会合、文字通り、歩き廻りました。
日比谷公園や皇居外苑、一橋徳川家屋敷跡の石碑の脇には河津桜(カワヅザクラ)の紅、出向いたホテルには吉野桜(ヨシノザクラ)の白と雅桜(ミヤビザクラ)の紫かかった紅と、桜が妍(けん)を競っています。
春を告げる花、蝋梅(ロウバイ)、万作(マンサク)、連翹(レンギョウ)の黄、寒椿(カンツバキ)の朱、梅の紅と白、小さなスノーフレークの白、沈丁花(ジンチョウゲ)の香りと桃色、室内では都忘れ(ミヤコワスレ)の紫、色取りどりです。
三寒四温、道往く(みちゆく)人も、春の顔です。
弥生(やよい)3月、別れと旅立ちの季節です。卒業や送別という言葉、この齢(とし)になっても、一瞬、胸の奥が少し潤(うるお)いを帯びてきます。「さよならだけが人生」です。
カナダで一緒に修業に励んでいた仲間が、長い間、病(やまい)に侵(おか)されています。久し振りに彼から連絡がありました。病に倒れ、国際学会に顔を出さなくなり、今では音信も杜絶(とだ)えている者も居ます。
修業していた当時、彼等は、各々の国の‟選ばれし者”でした。己はといえば、今から考えると場当たり的な6年の卒後研修を終えた、何の資格も持っていない、田舎者の押し掛け留学生でした。
若き日の自分達を懐かしんでいるわけではありません。
只、あの頃、温かい師のもと、我々には友情があり、限り無い未来がありました。当時、歳月とともに輝きや希望を失い、違った道を歩んで、今のようなことになるなどということは、考えても居ませんでした。
それだけに、一度きりの人生の春、あの頃は二度と取り戻せない、という嘆惜の念が湧(わ)きます。
塩を使った巨大な床のインスタレーション、「山本基(もとい)展−『原点回帰』たゆたう庭」に、仕事の合間を縫って、足を運びました。
粉筒(ふんづつ)のような器具から真白な塩を吹き出し、抽象的な意匠を描いています。
白一色の壮大な絵柄、大海原か天空の銀河をみるようです。
この技法、一時(いっとき)だけの、「移ろう美」、「儚(はかな)い美」です。終わったら、塩を海に還してしまう、チベットの砂絵曼荼羅(すなえまんだら)と同じです。
人間にとって塩の持つ意味には重いモノがあります。
(vol.301 http://www.fmu.ac.jp/univ/cgi/hana_disp.php?seq=338)
料理屋さんの店先に置いてある魔除けの盛り塩、葬式から帰った際に家に入る前に使う清めの塩を思い出していました。
この作品は、千住博の、聚光院別院の襖絵、「ライフ」、「クリフ」、「波」など一連の作品をも連想させます。
塩のインスタレーションは、海への想いに繋がります。
人口に膾炙(じんこうにかいしゃ)している、「人間は海から生まれた」という‟神話”、そして
蝶のような私の郷愁。
蝶はいくつか籬(まがき)を越え、午後の街角に海を見る…。
私は壁に凭(もた)れる。
隣の部屋で二時が打つ。
「海、遠い海よ! と私は紙にしたためる。
海よ、僕らの使ふ文字では、お前の中に母がゐる。
そして、母よ、仏蘭西人(ふらんすじん)の言葉では、あなたの中に海がある」
三好達治
「人はだれでも、どこにいても、海の子供なのである」(ル・クレジオ)
仕事に行き詰まり、心が悲鳴をあげた時、海に足を運んだものです。
(vol.20 http://www.fmu.ac.jp/univ/cgi/hana_disp.php?seq=37)
今週の花材は、両室とも、透き通った春の華やぎを感じさせてくれます。
(福島県立医科大学理事長 菊地臣一)
列車内のざわめきとは対照的に、景色は静寂です。車、人の動きがスローモーションのようにみえます。
水墨画の朦朧体(もうろうたい)、長谷川等伯の「松林図屏風」(vol.281)や横山大観の「雨霽る(あめはる)」(vol.69)を連想させます。
(vol.281 http://www.fmu.ac.jp/univ/cgi/hana_disp.php?seq=318)
(vol.69 http://www.fmu.ac.jp/univ/cgi/hana_disp.php?seq=95)
このあいまいな遠近感の無さ、疲れた身(み)には良薬です。
週末、都内での一連の会合、文字通り、歩き廻りました。
日比谷公園や皇居外苑、一橋徳川家屋敷跡の石碑の脇には河津桜(カワヅザクラ)の紅、出向いたホテルには吉野桜(ヨシノザクラ)の白と雅桜(ミヤビザクラ)の紫かかった紅と、桜が妍(けん)を競っています。
春を告げる花、蝋梅(ロウバイ)、万作(マンサク)、連翹(レンギョウ)の黄、寒椿(カンツバキ)の朱、梅の紅と白、小さなスノーフレークの白、沈丁花(ジンチョウゲ)の香りと桃色、室内では都忘れ(ミヤコワスレ)の紫、色取りどりです。
三寒四温、道往く(みちゆく)人も、春の顔です。
弥生(やよい)3月、別れと旅立ちの季節です。卒業や送別という言葉、この齢(とし)になっても、一瞬、胸の奥が少し潤(うるお)いを帯びてきます。「さよならだけが人生」です。
カナダで一緒に修業に励んでいた仲間が、長い間、病(やまい)に侵(おか)されています。久し振りに彼から連絡がありました。病に倒れ、国際学会に顔を出さなくなり、今では音信も杜絶(とだ)えている者も居ます。
修業していた当時、彼等は、各々の国の‟選ばれし者”でした。己はといえば、今から考えると場当たり的な6年の卒後研修を終えた、何の資格も持っていない、田舎者の押し掛け留学生でした。
若き日の自分達を懐かしんでいるわけではありません。
只、あの頃、温かい師のもと、我々には友情があり、限り無い未来がありました。当時、歳月とともに輝きや希望を失い、違った道を歩んで、今のようなことになるなどということは、考えても居ませんでした。
それだけに、一度きりの人生の春、あの頃は二度と取り戻せない、という嘆惜の念が湧(わ)きます。
塩を使った巨大な床のインスタレーション、「山本基(もとい)展−『原点回帰』たゆたう庭」に、仕事の合間を縫って、足を運びました。
粉筒(ふんづつ)のような器具から真白な塩を吹き出し、抽象的な意匠を描いています。
白一色の壮大な絵柄、大海原か天空の銀河をみるようです。
この技法、一時(いっとき)だけの、「移ろう美」、「儚(はかな)い美」です。終わったら、塩を海に還してしまう、チベットの砂絵曼荼羅(すなえまんだら)と同じです。
人間にとって塩の持つ意味には重いモノがあります。
(vol.301 http://www.fmu.ac.jp/univ/cgi/hana_disp.php?seq=338)
料理屋さんの店先に置いてある魔除けの盛り塩、葬式から帰った際に家に入る前に使う清めの塩を思い出していました。
この作品は、千住博の、聚光院別院の襖絵、「ライフ」、「クリフ」、「波」など一連の作品をも連想させます。
塩のインスタレーションは、海への想いに繋がります。
人口に膾炙(じんこうにかいしゃ)している、「人間は海から生まれた」という‟神話”、そして
蝶のような私の郷愁。
蝶はいくつか籬(まがき)を越え、午後の街角に海を見る…。
私は壁に凭(もた)れる。
隣の部屋で二時が打つ。
「海、遠い海よ! と私は紙にしたためる。
海よ、僕らの使ふ文字では、お前の中に母がゐる。
そして、母よ、仏蘭西人(ふらんすじん)の言葉では、あなたの中に海がある」
三好達治
「人はだれでも、どこにいても、海の子供なのである」(ル・クレジオ)
仕事に行き詰まり、心が悲鳴をあげた時、海に足を運んだものです。
(vol.20 http://www.fmu.ac.jp/univ/cgi/hana_disp.php?seq=37)
今週の花材は、両室とも、透き通った春の華やぎを感じさせてくれます。
(福島県立医科大学理事長 菊地臣一)
今週の花
【理事長室】
■ユリ〔プレスコット〕 ユリ科/球根植物
/オリエンタルハイブリッド種のユリ。大きく優
雅な花姿と芳香が特徴。「プレスコット」は淡い
ピンクで上品な印象。
■ダリア〔ムーンワルツ〕 キク科/多年草
/《名前の由来》スウェーデンの植物学者ダー
ルの名より/品種がとても豊富で世界に3万
種以上ある。花径が3cm程の極小輪から30
cm以上になる巨大輪まである。「ムーンワル
ツ」は淡いオレンジとピンクの複色。
■コデマリ バラ科/落葉低木/花期は4〜
5月で、白い小花が半円球状に密集し一つの
花のように咲く。枝いっぱいに連なって開花し
大株になると見応えがある。花の重みで枝垂
(しだ)れる姿が優雅で、庭木としても人気。
※拡大写真
http://www.fmu.ac.jp/univ/hana/3091.jpg
■ユリ〔プレスコット〕 ユリ科/球根植物
/オリエンタルハイブリッド種のユリ。大きく優
雅な花姿と芳香が特徴。「プレスコット」は淡い
ピンクで上品な印象。
■ダリア〔ムーンワルツ〕 キク科/多年草
/《名前の由来》スウェーデンの植物学者ダー
ルの名より/品種がとても豊富で世界に3万
種以上ある。花径が3cm程の極小輪から30
cm以上になる巨大輪まである。「ムーンワル
ツ」は淡いオレンジとピンクの複色。
■コデマリ バラ科/落葉低木/花期は4〜
5月で、白い小花が半円球状に密集し一つの
花のように咲く。枝いっぱいに連なって開花し
大株になると見応えがある。花の重みで枝垂
(しだ)れる姿が優雅で、庭木としても人気。
※拡大写真
http://www.fmu.ac.jp/univ/hana/3091.jpg
【秘書室】
■アンスリュウム〔サビア〕 サトイモ科/常緑多年草/ツヤツヤ
の苞と葉が特徴の南国の花。花弁のように見える団扇(うちわ)状の
部分が苞で、棒状の部分が花。主に苞を鑑賞するため、非常に長く
楽しめる。「サビア」は濃いピンク色。
■カーネーション ナデシコ科/多年草/江戸時代にオランダから
渡来。菊・バラと並び世界的に生産量の多い主要花。母の日の花とし
て古くから親しまれる。「ノビオバイオレット」は紫系の濃淡複色、「コ
マチ」は白地の花弁の縁にピンクが入る。
■玉シダ ツルシダ科/シダ植物/伊豆半島以西に自生し、海
沿岸近くの岩肌や木に着生。葉は羽状複葉で叢生(そうせい)し、多
くの楕円形の羽片を付ける。常緑で葉を放射状に広げ、吊鉢仕立て
のインテリアグリーンにも適す。
※拡大写真
http://www.fmu.ac.jp/univ/hana/3092.jpg
■アンスリュウム〔サビア〕 サトイモ科/常緑多年草/ツヤツヤ
の苞と葉が特徴の南国の花。花弁のように見える団扇(うちわ)状の
部分が苞で、棒状の部分が花。主に苞を鑑賞するため、非常に長く
楽しめる。「サビア」は濃いピンク色。
■カーネーション ナデシコ科/多年草/江戸時代にオランダから
渡来。菊・バラと並び世界的に生産量の多い主要花。母の日の花とし
て古くから親しまれる。「ノビオバイオレット」は紫系の濃淡複色、「コ
マチ」は白地の花弁の縁にピンクが入る。
■玉シダ ツルシダ科/シダ植物/伊豆半島以西に自生し、海
沿岸近くの岩肌や木に着生。葉は羽状複葉で叢生(そうせい)し、多
くの楕円形の羽片を付ける。常緑で葉を放射状に広げ、吊鉢仕立て
のインテリアグリーンにも適す。
※拡大写真
http://www.fmu.ac.jp/univ/hana/3092.jpg