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理事長室からの花だより
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理事長室からの花だより
vol.314 − 乱 (みだされる ) −
早朝の庭、薄紫のライラック、そして鶯(ウグイス)の鳴き声です。
小学校1年生の時、護岸工事の完成記念に植えられた故郷の桜、青空の下、大樹となった桜並木は、人々を見守っています。この桜をみると、幼かった頃の様々な出来事が脳裡を過(よぎ)ります。
さまざまの事 おもひ出す桜かな
芭蕉
芭蕉の胸に去来するのは、亡き主君との交わりでしょうか。
桜色に衣はふかく染(そめ)てきむ
花の散りなむのちのかたみに
紀有朋(きのありとも)
この歌の桜は、恐らく、山桜です。薄い桜の色を忘れた頃に、衣にしっかりと染め込んで思い出そうとする憧れに似た気持ち、日本人なら一度は似たような気持ちを持ったことがあるのではないでしょうか。
在原業平(vol.313)、平忠度(vol.312)、西行、夢窓疎石、豊臣秀吉、本居宣長、高崎達之助、宇野千代、桜を愛した著名人は枚挙に暇(いとま)がありません。
(vol.313 http://www.fmu.ac.jp/univ/cgi/hana_disp.php?seq=352)
(vol.312 http://www.fmu.ac.jp/univ/cgi/hana_disp.php?seq=351)
己には忘れ難(がた)い桜があります。
京都に滞在の折のことです。恩師と会食に向かう道すがら、円山公園の夜桜をみました。
黒々とした闇の中、光で浮かび上がっている桜の古木、神々しく輝いています。木の下で見上げると、目もくらむような満開の桜、その中で花弁(はなびら)が、潔く、惜し気もなく、風に舞って散っています。
その華やかさと儚(はかな)さ、憧れを伴った物狂おしい気持ちになります。
妖しげなまでの桜の艶(あで)やかさ、あまりの輝き、そこに我々日本人は、無意識の裡(うち)に、死を視(み)てしまうのではないでしょうか。
舞い散る桜、大地の一隅に吹き寄せられている花弁、無常観を掻き立てます。
桜の季節がくると脳裡を過ることがあります。我々は、何に「和」を感じるのかという問いです。
「和」の文化は、古来、独自に作られてきたのかと問われれば、否です。遥か昔の仏教伝来から、近くは明治維新での西洋文化の流入まで、元々ある文化に外来文化を換骨奪胎(かんこつだったい)して作り直してきたのが「和」の歴史ではないでしょうか。
(vol.308 http://www.fmu.ac.jp/univ/cgi/hana_disp.php?seq=347)
元々ある文化は、自然を尊び、自然と折り合って暮らしていくという自然崇拝の感性です。幸い、受け入れることのできる穏やかな四季折々の気候や自然の優しさが、日本にありました。
この「受け入れ」という感性に対して、厳しい自然環境の中で育まれた西洋文化は、曖昧さを許しません。
折り合いという曖昧な態度では生き抜いてこれなかった筈です。
外来のモノを、角を取って自分のモノにしてしまうのも、「和」の特徴です。
「何を見ても何かを思い出す」(ヘミングウェイ)。
(vol.128 http://www.fmu.ac.jp/univ/cgi/hana_disp.php?seq=161)
(vol.278 http://www.fmu.ac.jp/univ/cgi/hana_disp.php?seq=315)
「和」の代表に庭があります。敷地のなかの建物を連絡する通路である園路、それを構成している敷石や飛び石、そこを歩む度に思い出します。
元々は、ぬかるみから足元を護(まも)るための築造物です。茶道はそれを鑑賞の域まで高めました。
「渡り六分、景(景観の美しさ)四分」という言葉が今に伝わっています。
子供の頃から関心があった庭、本を読み、作庭(さくてい)の現場にも足を運びました。石の大小、形から、飛び石の打ち方を覚えました。
中学生の時、自宅の一隅に飛び石を置くことを父に許してもらいました。山奥の川まで分け入って石を取ってきました。我流で、踏み面(づら)を揃え、石を土中に埋め込みました。
一週間後、庭師さんが置き直していました。何故、ダメなのかを質(たず)ねました。
石と石の間隔に問題があったのです。飛び石は、女性が和服を着た時の歩幅で置くのだそうです。
何気なく置かれている飛び石一つにも、伝統に基づく深い心配りがあることを知りました。
今週の花材は、執務室、秘書室とも、桜の宴の後の静謐(せいひつ)を象徴しているようです。
(福島県立医科大学理事長 菊地臣一)
小学校1年生の時、護岸工事の完成記念に植えられた故郷の桜、青空の下、大樹となった桜並木は、人々を見守っています。この桜をみると、幼かった頃の様々な出来事が脳裡を過(よぎ)ります。
さまざまの事 おもひ出す桜かな
芭蕉
芭蕉の胸に去来するのは、亡き主君との交わりでしょうか。
桜色に衣はふかく染(そめ)てきむ
花の散りなむのちのかたみに
紀有朋(きのありとも)
この歌の桜は、恐らく、山桜です。薄い桜の色を忘れた頃に、衣にしっかりと染め込んで思い出そうとする憧れに似た気持ち、日本人なら一度は似たような気持ちを持ったことがあるのではないでしょうか。
在原業平(vol.313)、平忠度(vol.312)、西行、夢窓疎石、豊臣秀吉、本居宣長、高崎達之助、宇野千代、桜を愛した著名人は枚挙に暇(いとま)がありません。
(vol.313 http://www.fmu.ac.jp/univ/cgi/hana_disp.php?seq=352)
(vol.312 http://www.fmu.ac.jp/univ/cgi/hana_disp.php?seq=351)
己には忘れ難(がた)い桜があります。
京都に滞在の折のことです。恩師と会食に向かう道すがら、円山公園の夜桜をみました。
黒々とした闇の中、光で浮かび上がっている桜の古木、神々しく輝いています。木の下で見上げると、目もくらむような満開の桜、その中で花弁(はなびら)が、潔く、惜し気もなく、風に舞って散っています。
その華やかさと儚(はかな)さ、憧れを伴った物狂おしい気持ちになります。
妖しげなまでの桜の艶(あで)やかさ、あまりの輝き、そこに我々日本人は、無意識の裡(うち)に、死を視(み)てしまうのではないでしょうか。
舞い散る桜、大地の一隅に吹き寄せられている花弁、無常観を掻き立てます。
桜の季節がくると脳裡を過ることがあります。我々は、何に「和」を感じるのかという問いです。
「和」の文化は、古来、独自に作られてきたのかと問われれば、否です。遥か昔の仏教伝来から、近くは明治維新での西洋文化の流入まで、元々ある文化に外来文化を換骨奪胎(かんこつだったい)して作り直してきたのが「和」の歴史ではないでしょうか。
(vol.308 http://www.fmu.ac.jp/univ/cgi/hana_disp.php?seq=347)
元々ある文化は、自然を尊び、自然と折り合って暮らしていくという自然崇拝の感性です。幸い、受け入れることのできる穏やかな四季折々の気候や自然の優しさが、日本にありました。
この「受け入れ」という感性に対して、厳しい自然環境の中で育まれた西洋文化は、曖昧さを許しません。
折り合いという曖昧な態度では生き抜いてこれなかった筈です。
外来のモノを、角を取って自分のモノにしてしまうのも、「和」の特徴です。
「何を見ても何かを思い出す」(ヘミングウェイ)。
(vol.128 http://www.fmu.ac.jp/univ/cgi/hana_disp.php?seq=161)
(vol.278 http://www.fmu.ac.jp/univ/cgi/hana_disp.php?seq=315)
「和」の代表に庭があります。敷地のなかの建物を連絡する通路である園路、それを構成している敷石や飛び石、そこを歩む度に思い出します。
元々は、ぬかるみから足元を護(まも)るための築造物です。茶道はそれを鑑賞の域まで高めました。
「渡り六分、景(景観の美しさ)四分」という言葉が今に伝わっています。
子供の頃から関心があった庭、本を読み、作庭(さくてい)の現場にも足を運びました。石の大小、形から、飛び石の打ち方を覚えました。
中学生の時、自宅の一隅に飛び石を置くことを父に許してもらいました。山奥の川まで分け入って石を取ってきました。我流で、踏み面(づら)を揃え、石を土中に埋め込みました。
一週間後、庭師さんが置き直していました。何故、ダメなのかを質(たず)ねました。
石と石の間隔に問題があったのです。飛び石は、女性が和服を着た時の歩幅で置くのだそうです。
何気なく置かれている飛び石一つにも、伝統に基づく深い心配りがあることを知りました。
今週の花材は、執務室、秘書室とも、桜の宴の後の静謐(せいひつ)を象徴しているようです。
(福島県立医科大学理事長 菊地臣一)
今週の花
【理事長室】
■LAユリ〔セラダ〕 ユリ科/球根植物/《名前の由来》
Longifrorum hybrid(テッポウユリ)とAsiatic hybrid(ス
カシユリ)を掛け合わせた品種/両種の良い所を持ち合わ
せた中輪咲のユリ。
■サンダーソニア ユリ科/球根植物/細い茎にベル型
の小さな花が連なって咲く。ランプを灯したようなオレンジ色
で可愛らしい花姿。原産地ではクリスマス頃に咲くことから
“クリスマスベル”の別名を持つ。
■アンスリュウム〔みどり〕 サトイモ科/常緑多年草/う
ちわのように大きな苞をもつ南国の花。花は中心の棒状の
部分で、主に苞を鑑賞するため非常に長く楽しめる。
■ピンポン菊〔セイオーシャン〕 キク科/多年草/通常
の菊と異なり真ん丸に咲く可愛い菊。花持ちも良く、仏事に
限らず幅広く利用される。
■ナルコラン ユリ科/多年草/強健な性質で日本の
山野に広く群生。楕円形の葉に白斑が入った涼しげで綺麗
な葉を持つ。春に葉腋(ようえき)から筒状の白花を下垂して
咲く。
■ニュウサイラン リュウゼツラン科/明治末期に帆布や
ロープの繊維材料植物として輸入。折る・曲げる・裂くなど形
を変えて使うことができ、生け花によく利用される。
■モンステラ サトイモ科/常緑多年草/成長するにつ
れ切れ込みや穴が開く大きな葉が特徴。ユニークな葉姿とト
ロピカルな雰囲気で、インテリアグリーンとしても人気。
※拡大写真
http://www.fmu.ac.jp/univ/hana/3141.jpg
■LAユリ〔セラダ〕 ユリ科/球根植物/《名前の由来》
Longifrorum hybrid(テッポウユリ)とAsiatic hybrid(ス
カシユリ)を掛け合わせた品種/両種の良い所を持ち合わ
せた中輪咲のユリ。
■サンダーソニア ユリ科/球根植物/細い茎にベル型
の小さな花が連なって咲く。ランプを灯したようなオレンジ色
で可愛らしい花姿。原産地ではクリスマス頃に咲くことから
“クリスマスベル”の別名を持つ。
■アンスリュウム〔みどり〕 サトイモ科/常緑多年草/う
ちわのように大きな苞をもつ南国の花。花は中心の棒状の
部分で、主に苞を鑑賞するため非常に長く楽しめる。
■ピンポン菊〔セイオーシャン〕 キク科/多年草/通常
の菊と異なり真ん丸に咲く可愛い菊。花持ちも良く、仏事に
限らず幅広く利用される。
■ナルコラン ユリ科/多年草/強健な性質で日本の
山野に広く群生。楕円形の葉に白斑が入った涼しげで綺麗
な葉を持つ。春に葉腋(ようえき)から筒状の白花を下垂して
咲く。
■ニュウサイラン リュウゼツラン科/明治末期に帆布や
ロープの繊維材料植物として輸入。折る・曲げる・裂くなど形
を変えて使うことができ、生け花によく利用される。
■モンステラ サトイモ科/常緑多年草/成長するにつ
れ切れ込みや穴が開く大きな葉が特徴。ユニークな葉姿とト
ロピカルな雰囲気で、インテリアグリーンとしても人気。
※拡大写真
http://www.fmu.ac.jp/univ/hana/3141.jpg
【秘書室】
■トルコギキョウ〔ロジーナラベンダー〕 リンドウ科/多
年草/花の大きさや咲き方、花色がとても豊富。「ロジーナ」
シリーズは中輪八重咲で、バラに似た花形を追求した品種。
「ラベンダー」は上品な淡紫の花色で人気。
■アリウム〔スカイパフューム〕 ユリ科/球根植物/北
半球に300種以上分布するネギやニンニクと同じネギ属の
花。小花が集まった球状花で、茎をカットするとネギの匂い
がする。「スカイパフューム」は淡青色で、バニラに似た香り
がする。
■夕霧草(ユウギリソウ) キキョウ科/多年草/小さな
花が密集して1つの大きな花のように見える。一つひとつの
花は筒状で、雄しべが長く突き抜け、花房に霞がかかったよ
うに見える。
※拡大写真
http://www.fmu.ac.jp/univ/hana/3142.jpg
■トルコギキョウ〔ロジーナラベンダー〕 リンドウ科/多
年草/花の大きさや咲き方、花色がとても豊富。「ロジーナ」
シリーズは中輪八重咲で、バラに似た花形を追求した品種。
「ラベンダー」は上品な淡紫の花色で人気。
■アリウム〔スカイパフューム〕 ユリ科/球根植物/北
半球に300種以上分布するネギやニンニクと同じネギ属の
花。小花が集まった球状花で、茎をカットするとネギの匂い
がする。「スカイパフューム」は淡青色で、バニラに似た香り
がする。
■夕霧草(ユウギリソウ) キキョウ科/多年草/小さな
花が密集して1つの大きな花のように見える。一つひとつの
花は筒状で、雄しべが長く突き抜け、花房に霞がかかったよ
うに見える。
※拡大写真
http://www.fmu.ac.jp/univ/hana/3142.jpg