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理事長室からの花だより

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理事長室からの花だより

2015.05.29

vol.319  − 任 (まかせる) −

樹々の若葉が風を受けて揺れています。

         ひかりある五月の風に旗のごと
         なびく若葉をもろともに見ん
                            佐藤佐太郎

吹き渡る風に翻(ひるがえ)るクマシデなどの新緑をみていると、カナダで視(み)た風に戦(そよ)ぐ樫の葉を思い出します。
         (vol.82 http://www.fmu.ac.jp/univ/cgi/hana_disp.php?seq=108

街路樹や道端の雑木林が、風を受けて音楽を奏でているような動きをみせています。
この風景、今が一年で最も爽やかな光あふれる季節であることを教えてくれます。

田植えを終った見渡す限りの田圃(たんぼ)、これもこの時季を代表する情景です。
整然と植えられた緑の苗が吹き渡っている風に戦ぐ様、今も日本の原風景です。太陽の光が水面(みなも)に反射して、田圃は鏡面仕上げの壁のように輝いています。

人間と自然が溶け合っているこの風景、江戸時代の中期、新田開発が酣(たけなわ)になると、その開発自体が生態系の調和を乱すようになりました。洪水時の被害が甚大になる程、深刻な環境破壊をもたらすことになったと、研究者が指摘しています。
眼前に広がる穏やかな今の田園風景、先人達が様々な問題を営々と克服した結果です。

今の生態系の崩壊やエネルギー確保に伴う様々な問題の克服は、次代を担う人々の手に掛かっています。
何の柵(しがらみ)も持たない人々が、発想を転換して取り組むことが必要なのです。何故なら、「車がない時代に欲しいものは何かと尋ねたら、『もっと早い馬』と答えただろう」(ヘンリーフォード)という警句があります。その時代を生きている人には、劇的な発想の転換は難しいからです。

己の過去を振り返っても、時代の変化は急激です。
子供の頃、内陸部に住んでいる人々にとって、刺身は御馳走でした。冷蔵庫は魚屋さんにだけあり、しかもそれは木製で、冷蔵庫の上部に氷を置いて冷やしていました。

江戸時代、活きの良い魚を食することの出来るのは、朱引内(しゅびきない)と呼ばれる江戸府内、今の東京23区内の3割位の範囲内に住んでいる人々だけだったようです。
新鮮な魚の流通、漁師さん達が押送船(おしおくりふね)で、近海から引っ切り無しに、河岸(かし)に新鮮な魚を運び込みました。棒手振(ぼてふり)の行商の人々がそれを住民に届け、その場で捌(さば)いていたのです。

今や、冷蔵庫は全国津々浦々に普及し、刺身は日常の料理になりました。
この変化、100年も経っていません。内陸部で刺身が日常的に食べられるようになったのは、恐らく昭和40年代に入ってからです。その為に化石燃料や原子力という厖大なエネルギーの消費が必要でした。

このところ、欧米のメディア、特にオーストラリア、ニュージーランドでは、連日、「ガリポリの戦い」に就いて、報じられていました。100年を経過した今でもこのように報じられているのは、この戦いが、これらの国の人々にとって、今尚、如何に、重い意味を持っているのかを物語っています。

英国の国民は、第一次世界大戦の停戦記念日に、ポピーの造花を胸に飾ります。
ガリポリの戦いは、オーストラリアとニュージーランドに国民と国家が一体となる切っ掛けになる程の衝撃を与えました。トルコの政治体制をも変えてしまいました。

         人生は旅である。
         我等は忽然として無窮より生れ、
         忽然として無窮の奥に往ってしまふ
                              若山牧水

これを踏まえれば、歴史も国や民族の‟旅”と捉えることができます。

我が国も、地政学的視点を持って歴史を把握する必要があります。長い時間軸で、冷徹に、俯瞰的(ふかんてき)に、歴史を見つめることは、未来を描くことです。次代を担う若者の務めです。

今週の花材は、両室とも、色や佇まいが気高さを感じさせます。


(福島県立医科大学理事長  菊地臣一)



今週の花


【理事長室】
■アリウム〔丹頂アリウム〕   ユリ科/球根植物/花序の上部
と下部の花色の変化が面白い。くねくねした茎は成長途中の細工
によるもの。ネギ属の花なので、ハサミを入れるとネギの匂いが
する。
■トルコギキョウ〔キングオブオーキッド〕   リンドウ科/多年草
/花の大きさや咲き方、色合いが多岐にわたり品種が豊富。祝
事仏事を問わず人気の高い夏の花。「キングオブオーキッド」は大
輪八重咲の藤色。
■ブバルディア〔ハイブリッドホワイト〕   アカネ科/常緑低木/
《名前の由来》 ルイ13世の侍医でフランス王室庭園長のブバー
ルの名前から/4枚の花弁で十字型に咲く筒状花。枝先に多数
の花を房状に開花させる。
■ギボウシ   ユリ科/多年草/斑入りやブルー系、ライム系な
どの葉色がとても綺麗で鑑賞価値の高い葉。初夏から秋にかけ
て花を咲かせる。花は寿命が短く1日で萎むため、英名は「デイリ
リー」。
※拡大写真
http://www.fmu.ac.jp/univ/hana/3191.jpg

【秘書室】
■LAユリ〔トマール〕   ユリ科/球根植物/鉄砲百合(Longi
frorum hybrid)とスカシユリ(Asiatic hybrid)の交配種。両
種の良い所を持ち合わせた中輪咲のユリ。「トマール」はシック
な赤色。
■ドラセナ〔ソングオブインディア〕   リュウゼツラン科/インド
産の常緑樹ドラセナ・レフレクサの園芸品種。笹のような葉形
で、黄緑色と黄色のストライプで明るい葉色。他に葉色が濃い
「ジャマイカ」、新芽にだけ斑が入る「スリランカ」もある。
■ブバルディア〔ハイブリッドレッド〕(理事長室と同花材)
「ハイブリッドレッド」は朱色。
■ナルコラン   ユリ科/多年草/日本の山野に群生。春にス
ズランのような白い小さな花が咲く。草丈は50cm程で、葉は斑
が入り涼しげなグリーン。とても強健な性質でガーデニングにも
適す。
※拡大写真
http://www.fmu.ac.jp/univ/hana/3192.jpg

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