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理事長室からの花だより

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理事長室からの花だより

2015.07.31

vol.327  − 繙 (ひもとく) −

雷鳴が梅雨明けを告げて、日差しが容赦無く照りつけています。只、夕陽の光は黄色味を帯び、優しげです。
大気は秋です。
街路樹の槐(エンジュ)が咲き出しました。

         ゑにすの木花はこぼれて梅雨あけの
         夕雲遠くあからみにけり
                               松村英一

この時季、このような風景を愛でることができます。

音のある涼しげな風景、奥入瀬のせせらぎ、嵯峨野の竹の葉ずれ、立山の称名滝の水飛沫(みずしぶき)と爆音、室戸岬の荒波、脳裡(のうり)には映像が、心には音が響いてきます。
とんぼ返りの仕事で味わえた関門海峡、暑い東京都内の夜、潮の香りが、一時、心を海に誘います。
日差しが、車窓からの景色の輪郭を鮮やかに浮き立たせています。形あるものは、光で縁取られています。空中を浮遊している舟のなかにいる心地です。

頭を冷やす(クーリングダウン)為に、寝る前、歳時記を繙(ひもと)きます。
万物の事象への命名(ネーミング)、移ろいゆく季節への繊細な感覚、先人の粋な知恵に感嘆します。

暦、我が国への伝来は、百済(くだら)が存在していた時代まで遡(さかのぼ)れます。
明治5年(1872)、政府が、太陽暦を採用しました。その後、明治33年(1900)、グレゴリオ暦に変更したという歴史があります。

子供の頃、田舎では旧暦で正月を祝っていました。その後、高度成長期頃まで、暮らしのなかでは新暦と旧暦が併用されていました。そして今、新暦だけが暦として用いられています。
旧暦は、移ろいゆく季節の表現のなかに、わずかにその名残がみてとれます。

暦の制定は、時の権威の象徴です。
織田信長が、地方暦である三島暦(みしまごよみ)の採用を朝廷に申し出て軋轢(あつれき)を起こした事が知られています。本能寺の変の原因の一つと言われている程です。

暦の歴史とその変遷に思いを馳せていると、時代に伴って変わる、人物評価の不思議さに心惹かれます。
今、坂本龍馬、織田信長、藤原不比等(ふじわらのふひと)は、歴史上の一大英雄です。

以下は、幼かった頃のあやふやな記憶をたどっての記載です。
坂本龍馬、日露戦争の頃、土佐藩出身の重鎮(田中光顕)が、彼の幕末での活躍振りを世に広めました。人口に膾炙(じんこうにかいしゃ)したのは、司馬遼太郎の小説が切っ掛けです。
織田信長、当時の人気俳優であった中村錦之助が若き日の信長を演じた映画が、老若男女にまで知られる切っ掛けになっています。戦前は話題に上らなかったと聞いています。彼の革新性、室町幕府6代将軍の足利義教(あしかがよしのり)に先例があることが知られています。
藤原不比等の政治家としての偉大さ、広く知らしめたのは、梅原猛の著作が契機(けいき)です。それまで、彼の存在は、専門家以外には余り知られていません。

己の幼かった頃の歴史上の英雄は、源義経であり、豊臣秀吉でした。
その豊臣秀吉も、晩年の行状を“呆け(ほうけ)”の一言で片付けられていました。近年は、周到な演出と意図に基づいているとの研究もあります。

近くは乃木希典です。
         (vol.141 http://www.fmu.ac.jp/univ/cgi/hana_disp.php?seq=174
         (vol.237 http://www.fmu.ac.jp/univ/cgi/hana_disp.php?seq=274

絵画では、ゴッホやセザンヌです。生前、評価が低かったことが知られています。

明治の排仏毀釈(はいぶつきしゃく)により顧(かえり)みられることがなくなった日本美術の素晴らしさ、世に知らしめたのは、明治時代の所謂(いわゆる)“お雇い外国人”です。

我が国では、内部に居る人は、周りに在るモノは、何時(いつ)もそこにある為に、真の価値に気付きません。
“俯瞰(ふかん)出来ない日本人”、弱点の一つです。
情報が瞬時に広がる今という時代であれば、これらの人物に対する評価は違ったものになっていたのでしょうか。或いは評価や価値判断の基準が、時の権力者や世相によって変化した故なのでしょうか。

今週の花材は、赤紫が緑との対比で鮮やかです。


(福島県立医科大学理事長  菊地臣一)



今週の花


【理事長室】
■ガマズミ   スイカズラ科/落葉低木/北
海道から九州にかけ、日当たりの良い山野に
自生。花期は5〜6月頃で、白い小さな花を密
集させ円盤状に開花する。秋に真っ赤に熟す
果実が美しく、鑑賞価値が高い。実は甘酸っ
ぱく果実酒などにも利用される。
■アガパンサス〔森の藤〕   ユリ科/球根
植物/《名前の由来》ギリシャ語の「アガベ:
愛」と「アンサス:花」の2語から/園芸品種は
300以上あり、草丈や開花時期などバラエ
ティに富む。花茎の先端に数十輪の花を放射
状に開花させる。
■アランダ〔チャクワンファーム〕   ラン科/
アラクニスとバンダを交配した人工種。熱帯原
産のバンダ同様、暑さに強く花持ちも良い。
「チャクワンファーム」はピンク。
■アンスリュウム〔エンジェル〕   サトイモ科
/常緑多年草/光沢があり造花と見間違うよ
うな花。花弁のように見える部分は苞で、棒状
の部分が花。「エンジェル」は純白品種。
※拡大写真
http://www.fmu.ac.jp/univ/hana/3271.jpg

【秘書室】
■バンダ〔ダークピンク〕   ラン科/樹木や岩肌に根を張り
つかせて育つ着生蘭。洋ランの中でも特異なブルー系の美し
い花色の品種が豊富。網目模様の入る花弁が特徴。
■アワ    イネ科/一年草/五穀のひとつ。米より前に栽
培され、稗とともに主要な食糧だった。エノコログサ(猫じゃら
し)から分化したとされる。夏から秋にかけて円柱状の花穂を
つける。
■利休草(リキュウソウ)   ビャクブ科/茎の先端が蔓状に
なるしなやかで涼しげな葉。江戸時代に薬用として渡来。根に
アルカロイド系の成分が含まれ、駆除剤などに利用される。
■カーネーション〔ノビオバーガンディ〕    ナデシコ科/多
年草/母の日に贈る花として古くから親しまれる。「ノビオ」シ
リーズは紫やボルドーを基調とした覆輪が綺麗な品種。
※拡大写真
http://www.fmu.ac.jp/univ/hana/3272.jpg

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