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理事長室からの花だより
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理事長室からの花だより
vol.329 − 惹 (ひかれる) −
曙(あけぼの)の訪れ、遅くなってきています。黄昏時(たそがれどき)も早くなりました。
肌を撫でる心地良い風、虫の音の響き、羽黒蜻蛉(ハグロトンボ)の舞い、時は確実に移ろっています。
森羅万象(しんらばんしょう)は、秋が足元まで来ていることを教えてくれています。
路上には蝉(セミ)の躯(むくろ)が目につきます。
空蝉(うつせみ)のこの世、一時(いっとき)、己の人生に引き寄せて、哀惜(あいせき)の念に駆られます。
庭の五葉松(ゴヨウマツ)、青味を帯びた針葉の緑が瑞々(みずみず)しく輝いています。
百日紅(サルスベリ)の可憐な淡い朱に近い花弁(はなびら)が、その上に降り落ちています。
対照的な2つの樹木の地肌を背景に、赤と緑の組み合わせ、黒漆の地に金や銀を撒いた蒔絵を思わせます。 (vol.89 http://www.fmu.ac.jp/univ/cgi/hana_disp.php?seq=115)
粋(いき)です。
泡沫(うたかた)の美しさです。
季節は、容赦無く、巡ります。移ろいゆく儚(はかな)さです。
この時季が巡ってくると、脳裡を過(よぎ)る情景があります。
学生時代、東北を旅していた時です。夜来(やらい)、遙か崖下、三陸海岸の集落から国道45号線に盆踊りの太鼓の音が立ち上ってきました。
(vol.44 http://www.fmu.ac.jp/univ/cgi/hana_disp.php?seq=69)
“旅愁”を感じた最初です。
遥か昔、鎮魂という宗教的な営みと娯楽として踊る祭りが一体となったのが盆踊りです。
盆踊りの歴史は古く、空也や一遍の“踊る念仏”まで遡(さかのぼ)ります。
この祭礼、公認の男女の出会いの場でもあった筈です。
己の心惹かれる盆踊り、何故か、哀愁を帯びています。
秋田県羽後町の西馬音内(にしもない)盆踊り、岐阜県郡上市の郡上(ぐじょう)踊り、富山県八尾町のおわら風(かぜ)の盆などです。それらの唄や踊りからは、諦念を含んだ哀しみが伝わってきます。
もう一つは、“能登は優しや、土までも”、能登の旅の時です。
(vol.47 http://www.fmu.ac.jp/univ/cgi/hana_disp.php?seq=72)
(vol.93 http://www.fmu.ac.jp/univ/cgi/hana_disp.php?seq=119)
暗闇の中、微(かす)かに太鼓の音が聞こえてきます。
弱々しい灯(あかり)の下(もと)、近づいてみると、異様な光景とその迫力、度肝(どぎも)を抜かれました。
御陣乗太鼓(ごじんじょだいこ)を初めて目にした瞬間です。
旅の後、LPレコード(直径30cmの円盤、今のCDに相当)を買って、暫く、聞きました。
それ以来、和太鼓の魅力に取り付かれました。
カナダで修業中、トロント市内の巡回バスに、鬼太鼓座(おんでこざ)の人達と乗り合わせました。
彼等が、運転手さんと話していて困っている様子だったので、間に入りました。懐かしい思い出です。
その後、鬼太鼓座から独立したプロの集団である鼓童(こどう)、林英哲(はやしえいてつ)氏などの演奏会に足を運びました。
和太鼓の、低く、身体に染み入ってくる音は、郷愁(きょうしゅう)を感じさせてくれます。
我が国における太鼓の歴史は古く、天岩戸(あまのいわと)の神話に出てきます。
子供の頃、盆踊りで櫓(やぐら)の上で太鼓を叩いている男衆に憧れを抱(いだ)きました。
半世紀以上前の田舎での盆踊り、提燈(ちょうちん)や裸電球の下(もと)、バスの車庫前にあった広場で大勢の人の輪が廻っているうねるような動き、振り返ると、幻想的です。これも泡沫(うたかた)の美しさです。
西洋の太鼓、モダンジャズのドラムにも惹かれました。
バディ・リッチの人間業(わざ)とは思えないスピードと強さ、マックス・ローチの軽妙な受けとの掛け合い、ドラムの面白さを教えてくれました。それ以来、アート・ブレイキー、エルヴィン・ジョーンズなどのレコードを買って聴き比べていました。
モダンジャズのドラム、和太鼓と違い、“原始の情熱”です。
今週の花材は、両室とも、嫋(たお)やかで、色、形とも秋の気配です。
(福島県立医科大学理事長 菊地臣一)
肌を撫でる心地良い風、虫の音の響き、羽黒蜻蛉(ハグロトンボ)の舞い、時は確実に移ろっています。
森羅万象(しんらばんしょう)は、秋が足元まで来ていることを教えてくれています。
路上には蝉(セミ)の躯(むくろ)が目につきます。
空蝉(うつせみ)のこの世、一時(いっとき)、己の人生に引き寄せて、哀惜(あいせき)の念に駆られます。
庭の五葉松(ゴヨウマツ)、青味を帯びた針葉の緑が瑞々(みずみず)しく輝いています。
百日紅(サルスベリ)の可憐な淡い朱に近い花弁(はなびら)が、その上に降り落ちています。
対照的な2つの樹木の地肌を背景に、赤と緑の組み合わせ、黒漆の地に金や銀を撒いた蒔絵を思わせます。 (vol.89 http://www.fmu.ac.jp/univ/cgi/hana_disp.php?seq=115)
粋(いき)です。
泡沫(うたかた)の美しさです。
季節は、容赦無く、巡ります。移ろいゆく儚(はかな)さです。
この時季が巡ってくると、脳裡を過(よぎ)る情景があります。
学生時代、東北を旅していた時です。夜来(やらい)、遙か崖下、三陸海岸の集落から国道45号線に盆踊りの太鼓の音が立ち上ってきました。
(vol.44 http://www.fmu.ac.jp/univ/cgi/hana_disp.php?seq=69)
“旅愁”を感じた最初です。
遥か昔、鎮魂という宗教的な営みと娯楽として踊る祭りが一体となったのが盆踊りです。
盆踊りの歴史は古く、空也や一遍の“踊る念仏”まで遡(さかのぼ)ります。
この祭礼、公認の男女の出会いの場でもあった筈です。
己の心惹かれる盆踊り、何故か、哀愁を帯びています。
秋田県羽後町の西馬音内(にしもない)盆踊り、岐阜県郡上市の郡上(ぐじょう)踊り、富山県八尾町のおわら風(かぜ)の盆などです。それらの唄や踊りからは、諦念を含んだ哀しみが伝わってきます。
もう一つは、“能登は優しや、土までも”、能登の旅の時です。
(vol.47 http://www.fmu.ac.jp/univ/cgi/hana_disp.php?seq=72)
(vol.93 http://www.fmu.ac.jp/univ/cgi/hana_disp.php?seq=119)
暗闇の中、微(かす)かに太鼓の音が聞こえてきます。
弱々しい灯(あかり)の下(もと)、近づいてみると、異様な光景とその迫力、度肝(どぎも)を抜かれました。
御陣乗太鼓(ごじんじょだいこ)を初めて目にした瞬間です。
旅の後、LPレコード(直径30cmの円盤、今のCDに相当)を買って、暫く、聞きました。
それ以来、和太鼓の魅力に取り付かれました。
カナダで修業中、トロント市内の巡回バスに、鬼太鼓座(おんでこざ)の人達と乗り合わせました。
彼等が、運転手さんと話していて困っている様子だったので、間に入りました。懐かしい思い出です。
その後、鬼太鼓座から独立したプロの集団である鼓童(こどう)、林英哲(はやしえいてつ)氏などの演奏会に足を運びました。
和太鼓の、低く、身体に染み入ってくる音は、郷愁(きょうしゅう)を感じさせてくれます。
我が国における太鼓の歴史は古く、天岩戸(あまのいわと)の神話に出てきます。
子供の頃、盆踊りで櫓(やぐら)の上で太鼓を叩いている男衆に憧れを抱(いだ)きました。
半世紀以上前の田舎での盆踊り、提燈(ちょうちん)や裸電球の下(もと)、バスの車庫前にあった広場で大勢の人の輪が廻っているうねるような動き、振り返ると、幻想的です。これも泡沫(うたかた)の美しさです。
西洋の太鼓、モダンジャズのドラムにも惹かれました。
バディ・リッチの人間業(わざ)とは思えないスピードと強さ、マックス・ローチの軽妙な受けとの掛け合い、ドラムの面白さを教えてくれました。それ以来、アート・ブレイキー、エルヴィン・ジョーンズなどのレコードを買って聴き比べていました。
モダンジャズのドラム、和太鼓と違い、“原始の情熱”です。
今週の花材は、両室とも、嫋(たお)やかで、色、形とも秋の気配です。
(福島県立医科大学理事長 菊地臣一)
今週の花
【理事長室】
■パフィオペディラム〔ロビンフッド〕 ラン科/《名前の
由来》ギリシャ語の“パフィア”(ヴィーナス〕と“ペディロ
ン”(サンダル・上靴)の2語からで、“ヴィーナスのスリッ
パ”という意味/袋状になる唇弁が印象的で目を引くユ
ニークな花姿。「ロビンフッド」はシックなワインレッド色。
■モカラ〔ライラックブルー〕 ラン科/パフィオペディラ
ムバンダ・アラクニス・アスコケントルムの3種の蘭を交配
した人工種。鮮やかな花色が豊富な南国の花。「ライラッ
クブルー」は紫系の人気種。
■アンスリュウム〔サビア〕 サトイモ科/常緑多年草
/光沢があり造花と見間違うような花。花弁のようにみ
える部分は苞で棒状の部分が花。「サビア」は紫がかっ
たピンク色。
■ピンポン菊 キク科/多年草/ピンポン玉のように
真ん丸に開花する菊。日持ちのする菊の中でも、特に長
く楽しめる。可愛らしい花形で、仏事に限らずブーケやア
レンジに人気。
■ドラセナ〔サンデリアーナホワイト〕 リュウゼツラン
科/笹のような細長い葉とストライプの斑が特徴。熱帯
アフリカ原産で、現地では4〜5mにもなる。
■ユーカリ フトモモ科/常緑高木/コアラの食べる
木として有名。オーストラリアを中心に約600種分布。
■キイチゴ バラ科/落葉低木/ラズベリーやブラッ
クベリーなどの総称で木になる苺。ヤツデのような切れ込
みの深い葉をもつ。
※拡大写真
http://www.fmu.ac.jp/univ/hana/3291.jpg
■パフィオペディラム〔ロビンフッド〕 ラン科/《名前の
由来》ギリシャ語の“パフィア”(ヴィーナス〕と“ペディロ
ン”(サンダル・上靴)の2語からで、“ヴィーナスのスリッ
パ”という意味/袋状になる唇弁が印象的で目を引くユ
ニークな花姿。「ロビンフッド」はシックなワインレッド色。
■モカラ〔ライラックブルー〕 ラン科/パフィオペディラ
ムバンダ・アラクニス・アスコケントルムの3種の蘭を交配
した人工種。鮮やかな花色が豊富な南国の花。「ライラッ
クブルー」は紫系の人気種。
■アンスリュウム〔サビア〕 サトイモ科/常緑多年草
/光沢があり造花と見間違うような花。花弁のようにみ
える部分は苞で棒状の部分が花。「サビア」は紫がかっ
たピンク色。
■ピンポン菊 キク科/多年草/ピンポン玉のように
真ん丸に開花する菊。日持ちのする菊の中でも、特に長
く楽しめる。可愛らしい花形で、仏事に限らずブーケやア
レンジに人気。
■ドラセナ〔サンデリアーナホワイト〕 リュウゼツラン
科/笹のような細長い葉とストライプの斑が特徴。熱帯
アフリカ原産で、現地では4〜5mにもなる。
■ユーカリ フトモモ科/常緑高木/コアラの食べる
木として有名。オーストラリアを中心に約600種分布。
■キイチゴ バラ科/落葉低木/ラズベリーやブラッ
クベリーなどの総称で木になる苺。ヤツデのような切れ込
みの深い葉をもつ。
※拡大写真
http://www.fmu.ac.jp/univ/hana/3291.jpg
【秘書室】
■モカラ〔サイアムゴールド〕 (学長室と同花材)
「サイアムゴールド」は丸弁で斑の入らないオレンジ色。
■ヒペリカム〔ファイヤーフレア〕 オトギリソウ科/半常緑低木/花期は
初夏で黄色い小さな花が咲く。主に花後の実を楽しむものとして流通。
■利休草(リキュウソウ) ビャクブ科/茎の先端が蔓状になるしなやかで
涼しげな葉。根にアルカロイド系の成分が含まれ、駆除剤などに利用される。
※拡大写真
http://www.fmu.ac.jp/univ/hana/3292.jpg
■モカラ〔サイアムゴールド〕 (学長室と同花材)
「サイアムゴールド」は丸弁で斑の入らないオレンジ色。
■ヒペリカム〔ファイヤーフレア〕 オトギリソウ科/半常緑低木/花期は
初夏で黄色い小さな花が咲く。主に花後の実を楽しむものとして流通。
■利休草(リキュウソウ) ビャクブ科/茎の先端が蔓状になるしなやかで
涼しげな葉。根にアルカロイド系の成分が含まれ、駆除剤などに利用される。
※拡大写真
http://www.fmu.ac.jp/univ/hana/3292.jpg