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理事長室からの花だより
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理事長室からの花だより
vol.333 − 退 (しりぞく) −
朝晩涼しくなり、桜の葉が黄ばみ始めています。道端の曼珠沙華(マンジュシャゲ)、紅が目を惹きます。
野分(のわき)すぎてとみに涼しくなりとぞ思ふ
夜半(よなか)をおきゐたりける
島木赤彦
野分の過ぎるたびに涼しさが深まります。澄み切った大気と静けさの中、心は冴え渡り、深夜目が覚めて、寂寥感(せきりょうかん)に包まれて、立ち尽くしてしまいます。
秋は、人間(ヒト)を詩人にします。
江戸時代に藩が作った御用水路(ごようすいろ)脇のそぞろ歩き、当時の街道に沿って作られています。
低い音で滔々(とうとう)と流れる深瀬、瀬音を響かせている浅瀬、野草や木々の葉からの雨音、自然が奏でる音の宴(うたげ)です。
小さな蝶が出番を間違えたように舞っています。セキレイが飛び廻り、道路の水溜りの水を飲んでいます。
見渡せば、林檎と梨が収穫時期を迎えています。
側にコスモスやササユリが咲いています。河岸には、人の手が入った、林立している剣(つるぎ)のような葉の緑、燕子花(カキツバタ)でしょうか。畑の里芋の葉の上に雨露が載っています。
四角い敷地跡、誰が植えたのでしょうか、一面のコスモス、雨に打たれて咲いています。
これから夜が長くなります。19世紀まで、“夜の闇は恐怖と災(わざわい)の源(みなもと)”、 “夜は人間の友ではない”と記録されています。
闇、人類が最初に感じた不安です。闇それ自体が、恐いのでしょうか。視覚が遮(さえぎ)られるから不安になるのでしょうか、あるいは闇の中で様々な危険な事が起こるから不安になるのでしょうか。
電灯のある世界では、夜は魅惑(みわく)の世界と化します。
バルバドス諸島を旅した時、現代でもこんなに暗い闇がある、と思ったことがあります。
(vol.57 http://www.fmu.ac.jp/univ/cgi/hana_disp.php?seq=83)
今を生きる人々が忘れている暗さです。映画「アラモ」の主人公の一人のセリフも思い出されます。
(vol.39 http://www.fmu.ac.jp/univ/cgi/hana_disp.php?seq=63)
幼い時、天井が吹き抜けになっている旧家、母屋の居間で、囲炉裏(いろり)の火が反射して輝いている漆(うるし)の椀を目にして以来、漆に惹かれるようになりました。
海外では、ジャパンと呼ばれる日本の漆器です。その歴史は古く、縄文の遺跡から漆を塗った器(うつわ)が時々出てきます。
丈夫で、柔らかな手触り(てざわり)、美しい艶、先人達が漆の器を重宝したのが頷(うなず)けます。
漆には60から70%の湿気が最適、というのも、日本の風土に合った材料であることを裏付けています。
今、国産の漆は、県境にある茨城県大子町で国内使用量の1割を産するのみです。
暮らしから漆器が消えつつあります。
その理由は、手入れが面倒という使う側の誤解、もう一つは作る手間が掛かるので高価、です。代替品としての安価な擬(まが)い物の出回り、美術工芸品として生き残ろうとした作り手側の事情が重なっています。
遥かな昔から今に至るまで、漆器が日常的に使われているのは、使い勝手が良いからです。漆器は使う側に使い方を強制しません。
昔の漆の美、正倉院の御物(ぎょぶつ)、宇治の平等院の鳳凰堂、中尊寺の金色堂、竹生島にある神社の内陣、高台寺の霊屋(おたまや)などに残されています。
藩が殖産(しょくさん)として奨励した漆、各地にその名残(なごり)が今に伝えられています。
日常の漆器として、“津軽のばか塗り”と言われる津軽塗、かつて三大漆器産地の一つであった会津塗、奥能登の厳しい自然が磨いた輪島塗、優美な絵模様の高岡漆器、立体感の際立つ鎌倉彫、昔ながらの技法でつくる越前漆器、堆錦(ついきん)の技法で彩られる琉球漆器などがあります。
これらの器は、今尚、我々に漆の心地良い手触りと使い勝手の良さを実感させてくれます。
今週の花材は、両室とも、秋の穏やかさを表現しているようです。
(福島県立医科大学理事長 菊地臣一)
※来週の「理事長室からの花だより」は休載させていただきます。
10月2日(金)より再開いたします。
野分(のわき)すぎてとみに涼しくなりとぞ思ふ
夜半(よなか)をおきゐたりける
島木赤彦
野分の過ぎるたびに涼しさが深まります。澄み切った大気と静けさの中、心は冴え渡り、深夜目が覚めて、寂寥感(せきりょうかん)に包まれて、立ち尽くしてしまいます。
秋は、人間(ヒト)を詩人にします。
江戸時代に藩が作った御用水路(ごようすいろ)脇のそぞろ歩き、当時の街道に沿って作られています。
低い音で滔々(とうとう)と流れる深瀬、瀬音を響かせている浅瀬、野草や木々の葉からの雨音、自然が奏でる音の宴(うたげ)です。
小さな蝶が出番を間違えたように舞っています。セキレイが飛び廻り、道路の水溜りの水を飲んでいます。
見渡せば、林檎と梨が収穫時期を迎えています。
側にコスモスやササユリが咲いています。河岸には、人の手が入った、林立している剣(つるぎ)のような葉の緑、燕子花(カキツバタ)でしょうか。畑の里芋の葉の上に雨露が載っています。
四角い敷地跡、誰が植えたのでしょうか、一面のコスモス、雨に打たれて咲いています。
これから夜が長くなります。19世紀まで、“夜の闇は恐怖と災(わざわい)の源(みなもと)”、 “夜は人間の友ではない”と記録されています。
闇、人類が最初に感じた不安です。闇それ自体が、恐いのでしょうか。視覚が遮(さえぎ)られるから不安になるのでしょうか、あるいは闇の中で様々な危険な事が起こるから不安になるのでしょうか。
電灯のある世界では、夜は魅惑(みわく)の世界と化します。
バルバドス諸島を旅した時、現代でもこんなに暗い闇がある、と思ったことがあります。
(vol.57 http://www.fmu.ac.jp/univ/cgi/hana_disp.php?seq=83)
今を生きる人々が忘れている暗さです。映画「アラモ」の主人公の一人のセリフも思い出されます。
(vol.39 http://www.fmu.ac.jp/univ/cgi/hana_disp.php?seq=63)
幼い時、天井が吹き抜けになっている旧家、母屋の居間で、囲炉裏(いろり)の火が反射して輝いている漆(うるし)の椀を目にして以来、漆に惹かれるようになりました。
海外では、ジャパンと呼ばれる日本の漆器です。その歴史は古く、縄文の遺跡から漆を塗った器(うつわ)が時々出てきます。
丈夫で、柔らかな手触り(てざわり)、美しい艶、先人達が漆の器を重宝したのが頷(うなず)けます。
漆には60から70%の湿気が最適、というのも、日本の風土に合った材料であることを裏付けています。
今、国産の漆は、県境にある茨城県大子町で国内使用量の1割を産するのみです。
暮らしから漆器が消えつつあります。
その理由は、手入れが面倒という使う側の誤解、もう一つは作る手間が掛かるので高価、です。代替品としての安価な擬(まが)い物の出回り、美術工芸品として生き残ろうとした作り手側の事情が重なっています。
遥かな昔から今に至るまで、漆器が日常的に使われているのは、使い勝手が良いからです。漆器は使う側に使い方を強制しません。
昔の漆の美、正倉院の御物(ぎょぶつ)、宇治の平等院の鳳凰堂、中尊寺の金色堂、竹生島にある神社の内陣、高台寺の霊屋(おたまや)などに残されています。
藩が殖産(しょくさん)として奨励した漆、各地にその名残(なごり)が今に伝えられています。
日常の漆器として、“津軽のばか塗り”と言われる津軽塗、かつて三大漆器産地の一つであった会津塗、奥能登の厳しい自然が磨いた輪島塗、優美な絵模様の高岡漆器、立体感の際立つ鎌倉彫、昔ながらの技法でつくる越前漆器、堆錦(ついきん)の技法で彩られる琉球漆器などがあります。
これらの器は、今尚、我々に漆の心地良い手触りと使い勝手の良さを実感させてくれます。
今週の花材は、両室とも、秋の穏やかさを表現しているようです。
(福島県立医科大学理事長 菊地臣一)
※来週の「理事長室からの花だより」は休載させていただきます。
10月2日(金)より再開いたします。
今週の花
【理事長室】
■藤袴(フジバカマ) キク科/多年草/花
期は8〜9月頃で5mm程の小さな花を房状に
多数咲かせる。本来は河原などに群生する強
健な植物だが、野生種は絶滅危惧種。花後は
タンポポのように綿毛のついた種を風によって
運ぶ。
■ケイトウ〔ボンベイケイトウ〕 ヒユ科/一年
草/花期は6〜9月頃で、赤やピンク、オレン
ジなどの花穂をつける。「ボンベイケイトウ」は
花穂が扇状の品種。他に球状の「久留米ケイ
トウ」や羽のような「羽毛ケイトウ」などもある。
■リュウカデンドロン〔サファリサンセット〕
ヤマモガシ科/常緑低木/花弁のように見え
る部分は苞で、その中に花序がある。非常に
花持ちがよく、ドライフラワーにも適す。「サファ
リサンセット」は赤茶色。
■モカラ〔リバーレッド〕 ラン科/バンダ・ア
ラクニス・アスコケントルムの3種の蘭を交配し
た人工種。花持ちがよく、鮮やかな花色が豊富
な南国の花。「リバーレッド」はシックな赤色。
■ポリシャス ウコギ科/常緑低高木/アジ
ア、アフリカ、オーストラリアなどの熱帯に約1
00種が自生。品種により葉形や色が異なる。
刈込みに強く、熱帯地域では垣根にも利用。
■アンスリュウム〔テラ〕 サトイモ科/常
緑多年草/ロウ細工のような光沢があり、造
花と見間違うような花。花弁のように見える部
分は苞で、棒状の部分が花。
※拡大写真
http://www.fmu.ac.jp/univ/hana/3331.jpg
■藤袴(フジバカマ) キク科/多年草/花
期は8〜9月頃で5mm程の小さな花を房状に
多数咲かせる。本来は河原などに群生する強
健な植物だが、野生種は絶滅危惧種。花後は
タンポポのように綿毛のついた種を風によって
運ぶ。
■ケイトウ〔ボンベイケイトウ〕 ヒユ科/一年
草/花期は6〜9月頃で、赤やピンク、オレン
ジなどの花穂をつける。「ボンベイケイトウ」は
花穂が扇状の品種。他に球状の「久留米ケイ
トウ」や羽のような「羽毛ケイトウ」などもある。
■リュウカデンドロン〔サファリサンセット〕
ヤマモガシ科/常緑低木/花弁のように見え
る部分は苞で、その中に花序がある。非常に
花持ちがよく、ドライフラワーにも適す。「サファ
リサンセット」は赤茶色。
■モカラ〔リバーレッド〕 ラン科/バンダ・ア
ラクニス・アスコケントルムの3種の蘭を交配し
た人工種。花持ちがよく、鮮やかな花色が豊富
な南国の花。「リバーレッド」はシックな赤色。
■ポリシャス ウコギ科/常緑低高木/アジ
ア、アフリカ、オーストラリアなどの熱帯に約1
00種が自生。品種により葉形や色が異なる。
刈込みに強く、熱帯地域では垣根にも利用。
■アンスリュウム〔テラ〕 サトイモ科/常
緑多年草/ロウ細工のような光沢があり、造
花と見間違うような花。花弁のように見える部
分は苞で、棒状の部分が花。
※拡大写真
http://www.fmu.ac.jp/univ/hana/3331.jpg
【秘書室】
■ピンクッション〔サクセション〕 ヤマモガシ科/常緑低
木/名前の通り、待ち針を指した針山のような花姿が特徴。
待ち針のように見えるひとつひとつが雄しべ。
■トルコギキョウ〔アンバーダブルマロン〕 リンドウ科/
多年草/花の大きさや咲き方が多岐にわたり、品種がとて
も豊富。「アンバー」シリーズは琥珀を思わせるヨーロピアン
調のシックな色合い。
■モンステラ サトイモ科/蔓性植物/成長するにつれ
葉に深い切れ込みや穴が開く。独特の葉形がユニークで、
モチーフとしても人気の熱帯植物。
■フィロデンドロン〔エメラルドレッドウィング〕 サトイモ科
/蔓性植物/熱帯亜熱帯地域に約650種が自生。切れ込
みが入る品種や葉に斑が入る品種など多品種ある。
※拡大写真
http://www.fmu.ac.jp/univ/hana/3332.jpg
■ピンクッション〔サクセション〕 ヤマモガシ科/常緑低
木/名前の通り、待ち針を指した針山のような花姿が特徴。
待ち針のように見えるひとつひとつが雄しべ。
■トルコギキョウ〔アンバーダブルマロン〕 リンドウ科/
多年草/花の大きさや咲き方が多岐にわたり、品種がとて
も豊富。「アンバー」シリーズは琥珀を思わせるヨーロピアン
調のシックな色合い。
■モンステラ サトイモ科/蔓性植物/成長するにつれ
葉に深い切れ込みや穴が開く。独特の葉形がユニークで、
モチーフとしても人気の熱帯植物。
■フィロデンドロン〔エメラルドレッドウィング〕 サトイモ科
/蔓性植物/熱帯亜熱帯地域に約650種が自生。切れ込
みが入る品種や葉に斑が入る品種など多品種ある。
※拡大写真
http://www.fmu.ac.jp/univ/hana/3332.jpg