HOME > 理事長室からの花だより

理事長室からの花だより

新着 30 件

一覧はこちらから

理事長室からの花だより

2015.11.06

vol.339  − 魅 (ひかれる) −

11月、霜月、大地の色も音もおとなしくなり、寂しさを増してきます。抜けるような青空に、“去り往(ゆ)く秋”への思いが募ります。

夜明け前、澄み切った大気が、茜に染まった東の空を背景に、山の稜線の木々を、切り絵の様(よう)に浮かび上がらせています。
縹色(はなだいろ)の西の空では、金色(こんじき)の月と星が輝いています。
朝まだき、窓や庭には“朝の露(あしたのつゆ)”、深まりゆく秋を実感します。

樹々の葉は、一雨毎に色濃くなり、やがて落葉となります。路上には落葉が散り敷かれ始めました。風で転がっている落葉が、侘(わび)しげな音を立てています。枯葉は、人々に冬の訪れが近いことを告げています。

         ・・・・・・・・
         林間に酒を煖めて紅葉を焼き  (りんかんにさけをあたためてこうようをたき)
         石上に誌を題して緑苔を掃う   (せきしょうにしをだいしてりょくたいをはらう)
         ・・・・・・・
                          白居易

林の中に分け入り、紅葉を集めて焚(た)き、酒を温める。
石の上の緑の苔(こけ)を掃(はら)い落とし、そこに詩を書く。
この詩は、「和漢朗詠集」、「平家物語」、「徒然草」、謡曲「紅葉狩」(もみじがり)などで、古くから、広く取り上げられています。

晩秋という時季と人間の暮らしが交わるこの情景、人間(ヒト)は、そこに理想とする有り様(ありよう)の一つをみています。

この時季の人間(ヒト)と自然との交わりの一つが、新蕎麦(しんそば)です。
日本人は、何故これ程までに、蕎麦に惹きつけられるのでしょうか。
         (vol.265 http://www.fmu.ac.jp/univ/cgi/hana_disp.php?seq=302
江戸の昔、ファストフードの代表として、蕎麦と寿司が登場しました。
現代の蕎麦は、寿司と違って、“脱サラ”や定年後に趣味が高じて店を持つ人が少なくありません。また、老舗(しにせ)の系統とは別に、ニューウェーブと称される、カフェと見紛う(みまごう)ばかりの店もあります。

蕎麦は、元々は、稲作が出来ない痩せ地や寒冷高地で栽培されており、そこでは貴重な主食でした。
戦後、食糧難の時代に供された食べ物を、長(ちょう)ずるに及んで好きになれないという話は良く耳にします。それと同じように、少し前まで、蕎麦を貧しさの象徴と捉える人々が周りには確かに居ました。

豊かになった今、蕎麦は“粋”な食であり、趣味の対象として語られます。
蕎麦と言えば江戸、そこに粋という言葉が繋がったのは、江戸時代も後期です。それまでは、地方から江戸へ出てきた庶民には、蕎麦は暮らしのなかで主食であった人々が多かったせいなのでしょうか、うどんの人気が上でした。

忙(せわ)しない今の世情のせいか、人々の関心が蕎麦という伝統文化に向いています。
昼下り、ゆったりとした時間が流れている店に入る人が居ます。暮れ方、仕事を終えた人々のさんざめきに満ちた老舗があります。店の名物の“酒の肴”で、一杯の酒や蕎麦とともに一時を過ごす、この情景は、日本人の“憧れ”の一つです。

蕎麦屋さんの品書きにあるのが玉子焼きです。
“かえし”とだし汁で卵を溶き、焼いたのが、蕎麦屋の玉子焼きです。
これと比べられるのが鮨屋の玉子焼きです。だし汁を卵に入れて焼いた“だし巻き”が代表的で、“厚焼き”とも言います。エビや白身の魚を入れて焼いたものを“薄焼き”と、区別していることもあります。

己の世代では、田舎の子供には、玉子焼きは最高の御馳走で、晴れ(ハレ)の食べ物でした。
三つ子の魂百までも、おいしい玉子焼きがあるというと、求めてしまう“味の旅”を今も続けている有り様(ありさま)です。

今週の花材は、澄んで、優しげな秋の陽射しを感じさせます。


(福島県立医科大学理事長  菊地臣一)




今週の花


【理事長室】
■エピデンドラム   ラン科/《名前の由来》ギリ
シャ語の“epi”(上に)と“dendoron”(木)の2語
より。本属が一般的に着生蘭であることから/細く
伸びた茎の先端に、小さな花が密集して半球状に
開花。多肉植物のような肉厚な葉を持つ。
■ハイビスカスローゼル〔カクテルレッド〕
アオイ科/非耐寒性常緑低木/一般的なハイビス
カスと異なり、ガクが肥大する食用種。ハイビスカ
スティーの原料で、ジャムやソースなどにも使用さ
れる。花期は秋で、花後に赤暗色の実をつける。
■リュウカデンドロン〔サファリサンセット〕
ヤマモガシ科/花弁のように見える部分は苞葉で
その中に花序がある。花持ちが良くドライフラワー
にも適す。「サファリサンセット」は赤茶色の品種。
■ポリシャス  ウコギ科/常緑低高木/アジア・
アフリカ・オーストラリア等の熱帯に約100種が自
生。品種により葉形や葉色が異なる。刈込に強く
熱帯地域では垣根にも利用される。
■ピンポン菊   キク科/多年草/ピンポン玉の
ように真ん丸に開花する可愛い菊。日持ちの良い
菊の中でも特に長く楽しめる。「オペラ」シリーズは
ダリアのようなデコラ咲き品種。
茶色「クロノス」、ベージュ「セイオペラベージュ」オ
レンジ「セイオペラオレンジ」
※拡大写真
http://www.fmu.ac.jp/univ/hana/3391.jpg

【秘書室】
■モカラ〔ムーンライトイエロー〕   ラン科/バンダ・アラクニス・ア
スコケントルムの3種の蘭を交配した人工種。肉厚な花弁で、南国ら
しい鮮やかな花色が豊富。「ムーンライトイエロー」は花弁に斑の入
らない黄色品種。
■アンスリュウム〔エンジェル〕   サトイモ科/常緑多年草/ツヤ
ツヤの花(苞)と葉が特徴の南国の花。花弁のように見える部分は
苞で、棒状の部分が花序。苞を鑑賞するため、とても長く楽しめる。
■オーニソガラム   ユリ科/球根植物/《名前の由来》ギリシャ
語の“ornithos”(鳥)と“gala”(乳)が語源。開花した花を飛んでい
る鳥に例えたことから/茎頂に麦の穂を大きくしたような花序をつけ
30〜50程の小花を咲かせる。花は白色の星形で、花序の下方か
ら順に開花する。
※拡大写真
http://www.fmu.ac.jp/univ/hana/3392.jpg

▲TOPへ