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理事長室からの花だより
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理事長室からの花だより
vol.342 − 遊 (すさぶ) −
路肩の両脇に銀杏(イチョウ)が吹き溜まり、黄色の縁取りが続いています。
寒そうに、道端に四季桜(シキザクラ)、可憐です。
舞い散る木の葉が肩に掛かります。“木の葉時雨” (このはしぐれ)です。
地上に落ちた木の葉は、朽葉(くちば)となり、庭の片隅で燃やしていました。今はそれも叶いません。
落葉や朽葉を集めての焚火(たきび)は、子供にとって楽しみの一つでした。
音たてて燃ゆることなき朽葉焚き
冬へ冬へとなだれゆくべし
馬場あき子
厳しい冬への憧れを含んだ覚悟が伝わってきます。誰でも、一度は、こんな気持ちを持つ冬のとば口(くち)です。
信夫の里にある信夫山(しのぶやま)のこの時季を歌った和歌があります。
かぎりあれば信夫の山のふもとにも
落葉がうへの露ぞ色づく
源通光(みなもとのみちてる) 「新古今和歌集」
偲(しの)ぶにも限りあり、信夫山の麓でも、山からの紅葉の落ち葉の上に露が色づいて降りています。
早朝の朝霧も今の風物詩です。霧の中に家屋(かおく)の灯が浮かんでいます。辺りは静寂で、一時、人間(ヒト)を詩人にしてくれます。
落ち葉、朽葉、朝霧、気負っている気持ちを鎮め、そして優しく労(ねぎら)ってくれます。
大学に着くと、高ぶった気持ちを抹茶で鎮めます。
茶碗の地色を借景(しゃっけい)として、“抹茶色”、鮮やかな緑色です。そんな景色を目にしての茶碗の手触りに、“安らぎ”を覚えます。
“数値”、“その根拠は”とは無縁の、“感じる”世界です。
コーヒーを焙煎(ばいせん)している時の香り、御香(おこう)が醸(かも)し出す安らぎ、手作りの紙細工に覚える温かさ、これらは論理的、経済合理性とは対極にあります。
海外の著名なデザイナーが、以前、我が国における“手作り礼賛”に疑問を呈していました。「手作りが、機械で作った品より良いという訳ではない」と。
この発言の背景には、彼我(ひが)の自然観の相違もある筈(はず)です。
ギリシャ、ローマ文明を背景にした人々の価値観や美的感覚には、昔から現在まで断絶がありません。
一方、我が国では、明治維新と大東亜戦争で、伝統は、その継続が危ぶまれる程の傷を負って今に至っています。
幼き頃、廻りに鋳掛屋(いかけや)、羅宇屋(らおや)、桶屋(おけや)、ブリキ屋、提灯屋(ちょうちんや)、鍛冶屋(かじや)、染屋(そめや)が居ました。彼等の寡黙(かもく)な仕事振りを、周りで飽きずにみていました。
近代化と経済規模の拡大で、手仕事による品物作りや修理は、大量生産による工業製品に取って代わられてしまいました。
昭和の半(なか)ば頃まで、工業製品にも、どこか手仕事の風合いがまだ残っていて、少し野暮ったく、人間臭くもありました。
機能性の追求により工業デザインが発展し、安価、便利、丈夫、魅力あるデザインの製品が大量に出廻りました。
近代化、効率化というのは、画一的という側面も持っています。手仕事や手作りの品に多くの人々が郷愁を呼び覚まされるのは、理屈でなく、“感じる”という感性に訴える何かがあるからではないでしょうか。
只、今の手仕事には、使い勝手が悪かったり、作者の作為が目につくことがあります。作者の押し付けや買い手への媚(こび)は品物の品格を損(そこ)なってしまいます。
これも、若い人が今の手仕事よりも昔の手仕事に惹かれる一因です。
感性は、民族により異なります。
例えば、磁器の白さ、日本人は濁手(にごしで)に代表される、やや象牙色がかった色を好みます。
一方、欧州では透明度の高い青味を帯びた白を最上とします。
我々は暮らしや営みのなかに、古来から持っている感覚を大切にしていく必要があります。何故なら、それにより落ち着いた心が得られるからです。
今週の花材は、清楚(せいそ)、可憐です。
(福島県立医科大学理事長 菊地臣一)
寒そうに、道端に四季桜(シキザクラ)、可憐です。
舞い散る木の葉が肩に掛かります。“木の葉時雨” (このはしぐれ)です。
地上に落ちた木の葉は、朽葉(くちば)となり、庭の片隅で燃やしていました。今はそれも叶いません。
落葉や朽葉を集めての焚火(たきび)は、子供にとって楽しみの一つでした。
音たてて燃ゆることなき朽葉焚き
冬へ冬へとなだれゆくべし
馬場あき子
厳しい冬への憧れを含んだ覚悟が伝わってきます。誰でも、一度は、こんな気持ちを持つ冬のとば口(くち)です。
信夫の里にある信夫山(しのぶやま)のこの時季を歌った和歌があります。
かぎりあれば信夫の山のふもとにも
落葉がうへの露ぞ色づく
源通光(みなもとのみちてる) 「新古今和歌集」
偲(しの)ぶにも限りあり、信夫山の麓でも、山からの紅葉の落ち葉の上に露が色づいて降りています。
早朝の朝霧も今の風物詩です。霧の中に家屋(かおく)の灯が浮かんでいます。辺りは静寂で、一時、人間(ヒト)を詩人にしてくれます。
落ち葉、朽葉、朝霧、気負っている気持ちを鎮め、そして優しく労(ねぎら)ってくれます。
大学に着くと、高ぶった気持ちを抹茶で鎮めます。
茶碗の地色を借景(しゃっけい)として、“抹茶色”、鮮やかな緑色です。そんな景色を目にしての茶碗の手触りに、“安らぎ”を覚えます。
“数値”、“その根拠は”とは無縁の、“感じる”世界です。
コーヒーを焙煎(ばいせん)している時の香り、御香(おこう)が醸(かも)し出す安らぎ、手作りの紙細工に覚える温かさ、これらは論理的、経済合理性とは対極にあります。
海外の著名なデザイナーが、以前、我が国における“手作り礼賛”に疑問を呈していました。「手作りが、機械で作った品より良いという訳ではない」と。
この発言の背景には、彼我(ひが)の自然観の相違もある筈(はず)です。
ギリシャ、ローマ文明を背景にした人々の価値観や美的感覚には、昔から現在まで断絶がありません。
一方、我が国では、明治維新と大東亜戦争で、伝統は、その継続が危ぶまれる程の傷を負って今に至っています。
幼き頃、廻りに鋳掛屋(いかけや)、羅宇屋(らおや)、桶屋(おけや)、ブリキ屋、提灯屋(ちょうちんや)、鍛冶屋(かじや)、染屋(そめや)が居ました。彼等の寡黙(かもく)な仕事振りを、周りで飽きずにみていました。
近代化と経済規模の拡大で、手仕事による品物作りや修理は、大量生産による工業製品に取って代わられてしまいました。
昭和の半(なか)ば頃まで、工業製品にも、どこか手仕事の風合いがまだ残っていて、少し野暮ったく、人間臭くもありました。
機能性の追求により工業デザインが発展し、安価、便利、丈夫、魅力あるデザインの製品が大量に出廻りました。
近代化、効率化というのは、画一的という側面も持っています。手仕事や手作りの品に多くの人々が郷愁を呼び覚まされるのは、理屈でなく、“感じる”という感性に訴える何かがあるからではないでしょうか。
只、今の手仕事には、使い勝手が悪かったり、作者の作為が目につくことがあります。作者の押し付けや買い手への媚(こび)は品物の品格を損(そこ)なってしまいます。
これも、若い人が今の手仕事よりも昔の手仕事に惹かれる一因です。
感性は、民族により異なります。
例えば、磁器の白さ、日本人は濁手(にごしで)に代表される、やや象牙色がかった色を好みます。
一方、欧州では透明度の高い青味を帯びた白を最上とします。
我々は暮らしや営みのなかに、古来から持っている感覚を大切にしていく必要があります。何故なら、それにより落ち着いた心が得られるからです。
今週の花材は、清楚(せいそ)、可憐です。
(福島県立医科大学理事長 菊地臣一)
今週の花
【理事長室】
■珊瑚水木(サンゴミズキ) ミズキ科/落葉低木/《名前の由来》冬に
なると枝が珊瑚のような鮮やかな色に染まることから/白玉水木(シラタマミ
ズキ)の変種。初夏に白い小さな花が咲き、秋に白い実をつける。美しい枝色
を楽しむための花材。
■ファレノプシス ラン科/《名前の由来》ギリシャ語の“phalaina”(蛾)と
“opsis”(似る)から。花姿が蛾に似ることに由来/日本では花姿が蝶に似る
ことから「胡蝶蘭」と呼ぶ。ご贈答用の高級花として広く知られる。熱帯アジア
を中心に50種程が分布。
■宿根(しゅっこん)スイートピー マメ科/宿根草/茎は自立せず、巻きヒ
ゲで絡みながら育つ蔓性。一般的な一年草のスイートピーとは別物で小ぶり
で花数が多い。花期は6〜8月頃で、別名「サマースイートピー」とも呼ばれる。
■ポリシャス ウコギ科/常緑低高木/アジア・アフリカ・オーストラリア
等の熱帯に自生。 品種により葉形や葉色が異なる。 刈込に強く熱帯地域で
は垣根にも利用される。
※拡大写真
http://www.fmu.ac.jp/univ/hana/3421.jpg
■珊瑚水木(サンゴミズキ) ミズキ科/落葉低木/《名前の由来》冬に
なると枝が珊瑚のような鮮やかな色に染まることから/白玉水木(シラタマミ
ズキ)の変種。初夏に白い小さな花が咲き、秋に白い実をつける。美しい枝色
を楽しむための花材。
■ファレノプシス ラン科/《名前の由来》ギリシャ語の“phalaina”(蛾)と
“opsis”(似る)から。花姿が蛾に似ることに由来/日本では花姿が蝶に似る
ことから「胡蝶蘭」と呼ぶ。ご贈答用の高級花として広く知られる。熱帯アジア
を中心に50種程が分布。
■宿根(しゅっこん)スイートピー マメ科/宿根草/茎は自立せず、巻きヒ
ゲで絡みながら育つ蔓性。一般的な一年草のスイートピーとは別物で小ぶり
で花数が多い。花期は6〜8月頃で、別名「サマースイートピー」とも呼ばれる。
■ポリシャス ウコギ科/常緑低高木/アジア・アフリカ・オーストラリア
等の熱帯に自生。 品種により葉形や葉色が異なる。 刈込に強く熱帯地域で
は垣根にも利用される。
※拡大写真
http://www.fmu.ac.jp/univ/hana/3421.jpg
【秘書室】
■デンファレ〔シャネル〕 ラン科/正式名称「デンドロビュウ
ム・ファレノプシス」/《名前の由来》デンドロビュウム属の花で
花形が胡蝶蘭(ファレノプシス)に似ていることから/正式名称
を略した「デンファレ」が流通名となる。蘭なので暑さに強く花持
ちが良い。
■オーニソガラム〔マウントフジ〕 ユリ科/球根植物/ヨー
ロッパ〜西アジア、アフリカに約100種。星形の花がピラミッド
状に次々と開花する。他に黄色やオレンジ、前回の「サンデル
シー」のように放射状に咲く品種もある。
■ピンポン菊〔ジェニーダークピンク〕 キク科/多年草/ピ
ンポン玉のように真ん丸に咲く菊。可愛らしさから、仏事祝事問
わず人気のある菊。
※拡大写真
http://www.fmu.ac.jp/univ/hana/3422.jpg
■デンファレ〔シャネル〕 ラン科/正式名称「デンドロビュウ
ム・ファレノプシス」/《名前の由来》デンドロビュウム属の花で
花形が胡蝶蘭(ファレノプシス)に似ていることから/正式名称
を略した「デンファレ」が流通名となる。蘭なので暑さに強く花持
ちが良い。
■オーニソガラム〔マウントフジ〕 ユリ科/球根植物/ヨー
ロッパ〜西アジア、アフリカに約100種。星形の花がピラミッド
状に次々と開花する。他に黄色やオレンジ、前回の「サンデル
シー」のように放射状に咲く品種もある。
■ピンポン菊〔ジェニーダークピンク〕 キク科/多年草/ピ
ンポン玉のように真ん丸に咲く菊。可愛らしさから、仏事祝事問
わず人気のある菊。
※拡大写真
http://www.fmu.ac.jp/univ/hana/3422.jpg