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理事長室からの花だより

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理事長室からの花だより

2015.12.11

vol.344  − 点 (ともる) −

造化(ぞうか)の妙、暁方(あかつきがた)、縹色(はなだいろ)の空、明けの明星が、三日月を振り子のようにして輝いています。

里の小道、思わず手に取る柿落葉(かきおちば)、一枚の葉の中に赤、橙(だいだい)、黄、茶、緑が複雑に組み合わされています。
週末、都心の閑散とした歩道、仕事に向かう身に、銀杏(イチョウ)の葉が時雨のように舞い降りています。冬の到来を実感する時です。
色彩の乏しい今、花屋さんのポインセチア、庭先には南天、赤が新鮮です。

2週間足らずで今年も去ってゆきます。

         人生根僀無し (じんせいこんていなし)
         ・・・・・・
         此れ已に常の身に非ず (これすでにつねのみにあらず)
         ・・・・・・
         盛年重ねて来らず (せいねんかさねてきたらず)
         一日再び晨なり難し (いちじつふたたびあしたなりがたし)
         ・・・・・・
         歳月は人を待たず (さいげつはひとをまたず)
                                          陶潜

人生を振り返る時、悠久たる時の流れと比して、命の短さと虚しさを知ります。
巡ってきた日米開戦の日(1941年(昭和16)12月8日)です。時は、歴史として、遠ざかってゆきます。

夜が一番長い今、内(うち)なる心を洞察する機会でもあります。
“夜”、“闇”の意味を考えています。

火以外に明かりを得る手段の無かった昔、先人達が抱いていた夜に対する感覚は、今の我々とは違っていました。夜がもたらす闇は、“危険”を意味していました。
“グッドナイト”は、“神があなたに安全な夜をお与えくださるように”という祈りが短くなった言葉とのことです。
人々が、何故(なにゆえ)に、暗さを払いのけてくれる火に“神”を感じたのかが分かります。

目映(まばゆ)いばかりの現代の夜、闇は、ささくれ立った人間(ヒト)の気持ちを優しく包んでくれます。
我々の先人達の照明は燭台(しょくだい)や行灯(あんどん)です。
         (vol.294 http://www.fmu.ac.jp/univ/cgi/hana_disp.php?seq=331
だからこそ、古人は庭、部屋の間取り、襖(ふすま)に、部屋を明るくする為の工夫をしていたのです。

我が国では、そこに神を感じていたのか、ごく最近まで、蛍光灯の白い光が夜を昼にしていました。
         (vol.294 http://www.fmu.ac.jp/univ/cgi/hana_disp.php?seq=331
今、「陰翳礼讃」(谷崎潤一郎)とは違って、翳(かげ)りよりは、きりっとした暗さ、湿気を排除した闇が好まれます。煌(きら)めく星の背後に広がっている、透明感のある黒漆の夜空の闇です。
明るさには柔らかさが求められています。LED照明が導入になっても、白熱灯の様(よう)な色味が好まれる筈です。何故(なぜ)なら、人間(ヒト)はそこに“温(ぬく)もり”を求めるからです。

明かりをどう受け止めるかは、民族によって違います。欧米のホテルには天井灯がありません。我が国では、あります。
サングラスの使い方も対照的です。
西欧人は暮らしのなかで普通にかけており、生活に欠かせません。一方、我が国では、スキー場、真夏の海岸以外は、ファッションとしてかけています。

これからも、明かりをどう設(しつら)えるかは時代とともに変わっていく筈です。
現代に生きる我々は、何時(いつ)でも、何処(どこ)でも、“明かり”を手にすることが出来ます。現代に生きる我々にもたらした明かりの恩恵は計り知れません。
点(とも)す明かりがある、この“有り難さ”に感謝です。

12月10日(1987年)、不世出のヴァイオリニスト、ヤッシャ・ハイフェッツが亡くなっています。
彼の残した演奏は今尚広く愛聴されています。享年86の生涯です。彼は狷介(けんかい)な性格で、社交性に乏しかったとのことです。肩の腱が切れた為に71歳で引退を余儀なくされました。

同じく9日、夏目漱石が没しています(1916年)。享年49の生涯です。

今週の花材に、来る年の希望を見い出します。


(福島県立医科大学理事長  菊地臣一)


今週の花


【理事長室】
■石化柳(セッカヤナギ)   ヤナギ科/石
化柳は尾上柳(オノエヤナギ)の枝が石化した
もの(枝の上部が帯状に扁平)。茎の一部が
枯れこんで成長が止まり、他が成長するため
曲がりくねる。曲がりくねった石化部分の動き
が面白く、生け花やアレンジに利用。
■グロリオサ〔ニューレッド〕   ユリ科/球根
植物/《名前の由来》ラテン語で「栄光」や「見
事な」を意味する“グラリオラス”から/花弁が
反り返り、炎の様なユニークな花姿。葉先が巻
きヒゲになり、支柱や他の植物に絡まって成長
する蔓性植物。
■菊〔赤利休〕    キク科/多年草/糸菊
(管物菊・くだものぎく)の一種。管状の細い花
弁が特徴。可憐な花弁が花火のように放射状
に開花する。
■スプレー菊     キク科/多年草/主茎
(しゅけい)から側枝(そくし)を多数分岐し花を
咲かせるスプレー咲きの菊。品種名は不詳の
グリーンのポンポン咲き。ポンポン咲きは真ん
丸に開花するポンポン菊をスプレー咲きにした
もの。
■ヒムロ杉   ヒノキ科/常緑高木/サワラ
の園芸品種。灰色がかった緑色の線形の葉
が枝に密につく。葉の柔らかさと葉付の良さで
クリスマスリースの花材として人気。
※拡大写真
http://www.fmu.ac.jp/univ/hana/3441.jpg

【秘書室】
■アランダ〔チャクワンファーム〕   ラン科/アラクニ
スとバンダを交配した人工種。バンダの花の大きさとア
ラクニスの花持ちの良さを持つ。「チャクワンファーム」
は斑点の入ったピンク色。
■カーネーション〔ノビオバイオレット〕   ナデシコ科
/多年草/母の日に贈る花として古くから親しまれる。
「ノビオ」シリーズは紫やボルドーを基調とした覆輪が
綺麗な品種。「ノビオバイオレット」はボルドーの花弁の
縁に明るい紫が入る。
■ヒペリカム〔ココバンブー〕   オトギリソウ科/半常
緑低木/初夏に黄色い花が咲く。主に花後の実を鑑賞
するものとして流通。「ココ」シリーズは他の品種に比べ
実が大きいのが特徴。
■タニワタリ   チャセンシダ科/常緑シダ植物/日
本南部の樹林にも自生し、樹上や岩上などに着生する
シダ植物。光沢のある鮮やかな緑色で、波打つ大きな
葉が特徴。丸める・裂く・折るなど形状を変えて活けた
り、花止めとしても利用される。
※拡大写真
http://www.fmu.ac.jp/univ/hana/3442.jpg

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