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理事長室からの花だより

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理事長室からの花だより

2016.02.05

vol.351  − 待 (まつ) −

如月(きさらぎ)、春隣(はるとなり)です。

風は冷たく、肌を嬲(なぶ)ります。しかし、大気の響き、空の色、樹木の姿は、春が近いことを教えています。
密(ひそ)やかに、山河に春が訪れています。

         梅のはな枝にしろじろ咲きそむる
         つめたき春をなりにけるかも
                             若山牧水

早々と、あちらこちらに梅の白や紅(あか)い花が目につきます。

節分、そして4日が立春、初午(はつうま)と続きます。
正確には異なりますが、子供の頃、旧正月と呼んでいました。旧暦は、明治6年の改暦まで、千年以上に渡り使用されていました。遙かな昔から続いている風俗は、旧暦で定められて、暮らしのなかで生き続け、今に至っています。
それらの行事は、1年の営みの中で季節の節目を刻んでいます。
そこには民族や地域の成り立ちを示す象徴的な習俗が観て取れます。

現代に生きる我々は、風俗を単なる迷信と片付けがちです。しかし、祖先は、営みのなかで天地の移ろいから多くを学びました。学びの結果としての知恵がそこに含まれています。
その知恵の確かさは、現代の科学が明らかにしているところです。
事実、日本人の季節感や芸能も、旧暦(太陰太陽暦)から培(つちか)われてきました。

旧正月と新正月(子供の頃は太陽暦での正月をこう呼んでいた記憶が朧(おぼろ)げにあります)とでは、約1ヵ月のズレがあります。
「暦の上では春」と、枕詞(まくらことば)のように立春が使われています。立春は旧暦で定められた時季ですから、当然です。
人々が、春の到来を待つ思いが如何(いか)に強いか、春が持つ生命の躍動感に如何に憧(あこが)れを抱いているか、立春という言葉に窺(うかが)われます。

正確な時を刻む時計の無かった時代、太陽と違って、月の満ち欠け、すなわち、形によって、昇って沈む時間や方角が変わっていくのは、天が知らせてくれる“時の刻み”です。
人々は、誰でも、移ろいゆく時間を月から知ることが出来ます。太陰暦の始まりです。

遙かな昔、人々にとってこんなに頼りになる“時を刻む標(しるべ)”はなかった筈です。恐らく、古人は、現代に生きる我々よりも遙かに多くのことを、変わりゆく月から学んでいたに違いありません。
当時、生き延びる糧(かて)は農耕です。人間の生命(いのち)、月日の移ろいや積み重ねは、誰にも容易に分かる月の周期によって支配されていたのです。

天文学の知識に乏しかった大昔、刻々と変わりゆく月の姿は太陽より身近でした。今の我々は、太陽が、巨大で、宇宙の中心であり、月は小さく、地球の周りにあることを知っています。
古代の人々にとっては、月と太陽は、見た目、同じ大きさです。しかも、日食という現象は、天の配剤としか言い様(いいよう)がない程、絶妙な太陽、月、地球の大きさと位置の関係に依(よ)ります。
今の常識を脇に置くと、月と太陽は、同じ大きさです。只、月のほうが、太陽より短い間隔で、出や入りの時間や形の変化が容易に分かります。月は、大昔から、より身近な存在なのです。

明治政府は、突然、旧暦明治5年12月3日を明治6年1月1日にして、太陽暦に移行させてしまいました。
その裏には財政の問題があったようです。
明治6年は閏(うるう)6月があり、国の金庫が空(から)になる瀬戸際でした。政府は、2ヵ月の給与(閏6月と12月)の支払いを免れる為、これを断行したという秘話が今に伝えられています。

太陽暦が世の中の隅々まで支配している今という時代、今日(こんにち)まで伝わる月に纏(まつ)わる様々な呼称や伝統行事は、日本人が如何に月に親しみや思いを寄せていたのかの証(あかし)です。

今週の花材では、木瓜(ボケ)の色と佇(たたず)まいが心に染みます。


(福島県立医科大学理事長  菊地臣一)





今週の花


【理事長室】
■キイチゴ   バラ科/半落葉低木/ラズベ
リーやブラックベリーなどの総称で、 木になる
イチゴ。春に苺に似た小さな白い花が咲く。ヤ
ツデのように切れ込みの深い葉を持つ。
■雪柳    バラ科/落葉低木/《名前の由
来》柳のように茎がしなやかに垂れ、花を散ら
した様子が雪が降ったかのように見えることか
ら/春に小さな白い小花を枝いっぱいに咲か
せる。淡いピンク色の花をつける「紅花雪柳」
(ベニバナユキヤナギ)もある。
■アルストロメリア   ヒガンバナ科/球根植
物/1本の茎から5〜8本の花茎を伸ばし花を
咲かせる。 一つひとつの花はユリを小さくした
ような花形で、花弁に入る斑が特徴。 二番花
も綺麗に咲き、長期間楽しめる。 白「アイスク
リーム」、ピンク「ピンクサプライズ」
※拡大写真
http://www.fmu.ac.jp/univ/hana/3511.jpg

【秘書室】
■木瓜(ボケ)   バラ科/落葉低木/渡来当初は薬木として利用され、明
治〜大正になってから鑑賞される。球形の実は果実酒や鎮痛剤として利用。
庭木や盆栽で人気があるが、切花でも長く楽しめる。
■リューココリネ〔アンデス〕   ユリ科/球根植物/細い茎の先に4〜5輪
の可憐な花が咲く。花弁は6枚弁の星形に開花し、バニラのような芳香があ
る。花色は紫、青、白などある。「アンデス」は紫色の中心にエンジが入る覆
色で、多品種に比べ花弁が丸い。
■アンスリュウム〔エッセンシア〕   サトイモ科/常緑多年草/光沢があり
造花と見間違うような花。花弁のように見える団扇状の部分は苞で、中心の
棒状が花序。主に苞を鑑賞するため長く楽しめる。「エッセンシア」は爽やか
なグリーン品種で、冬は寒さのため赤みがかる。
※拡大写真
http://www.fmu.ac.jp/univ/hana/3512.jpg

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