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理事長室からの花だより

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理事長室からの花だより

2016.02.19

vol.353  − 進 (すすむ) −

雪解け(ゆきどけ)、早春です。

寒風で青味を増した青空、畦道(あぜみち)にオオイヌノフグリが姿をみせています。鳥が鳴き、飛びまわっています。庭石の陰に淡い朱の木瓜(ボケ)が佇(たたず)んでいます。

         冬ばれのひかりの中をひとりゆく
         ときに甲冑は鳴りひびきたり
                            玉城徹(たまき・とおる)

山河は春が近いことを知らせています。

若い時、映画は、“人生の教科書”でした。
身近に居る人々との関わりのなかで紡(つむ)がれていく人生、人生には限りがあります。その限りある一人の人生を補(おぎな)い、より豊かにしてくれる一つが映画です。
“出会いは人生を豊かにし、別れは人間(ヒト)を成長させる”ことを、映画からも学びました。

映画「シェーン」(1953)、ヴィクター・ヤングの「遙かなる山の呼び声」とともに、
  「勁く(つよく)、真直ぐ(まっすぐ)に生きよ」   Be strong and straight.
と主人公が少年に言って立ち去ります。
  「シェーン、戻ってきて!」  Shane. Shane. Come back!
が虚(むな)しく響いて終わります。今に語り継がれている場面です。
“男は自分のした事にけじめをつけなければならない”という事を暗示しています。

「カサブランカ」(1942)、男女の粋な遣り取りです。
  「夕べはどこに居たの?」   Where were you last night?
  「そんな昔のことは覚えていない」   That’s so long ago. I don’t remember.
  「今夜、会える?」   Will I see you tonight?
  「そんな先のことは分からない」   I never make plans that for ahead.
ここには、世の中は思い通りにはいかない、人生は断念の積み重ねであることが切なく描写されています。

「秋刀魚の味」(さんまのあじ・1962)、娘の結婚式を終えて、モーニング姿で花嫁の父がバーに立ち寄る場面があります。
女主人が「お葬式の帰り?」と問うと、「まあ、そんなもんだよ」と父親が答え、ウイスキーを口にします。
日本の男性の美学とされてきた寡黙(かもく)がさり気なく描かれています。

映画の数々の場面から、若者は大人の哀しさ、やるせなさ、そして勁さを学びます。
映画では、ストーリーは完結します。しかし、実際の人生はその後も続きます。
ドラマのような奇跡は、残念ながら、世の中では、起こりません。若者は、己(おのれ)の経験と映画の場面から、現実の世界の重圧や不条理を学んで、大人になっていくのです。
何をしたいのか、何も考えず、こんな生活が続く、と思っていた学生時代でした。

月日が経てば人間は変わります。何かを得るには何かを諦(あきら)めなければなりません。
こうして“人生という路(みち)”を歩み、青春は過ぎてゆきます。過ぎて初めて、青春の掛け替えの無さを知ります。人生が終わりに近づいて初めて生き方を知るように。

原発事故では、そこに居合わせた一人ひとりが死生観、“如何(いか)に生きるか”を問われました。
素早く地域医療の再生・復興の構想を描き、実行に移さなければなりません。しかも、孤立を恐れず、迅速にです。その担保は自らの責任です。

一方、人間はこつこつと人生を積み重ねてゆくものです。事実、原発事故前までは己もそうでした。
しかし、今、途方に暮れることもあります。そんな時、映画は、一時(いっとき)、心を癒し、穏やかな心地にしてくれる道具の一つです。

世の中、医療の現場ほどではありませんが、不条理や理不尽さに満ちています。
しかし、そんな中で悲しさ、寂しさ、そして挫折を数々味わい、その積み重ねが“優しさ”に昇華していくのです。

映画「扉をたたく人」(2008)、人間の優しさ、国や民族が置かれている厳しい現実を淡々と描いています。
現実を受け入れることの大切さを知り、一時、心静かになります。

今週の花材、暖色系の色彩(いろどり)は、観る者の心に温(あたた)かさをもたらします。


(福島県立医科大学理事長  菊地臣一)



今週の花


【理事長室】
■エピデンドラム   ラン科/《名前の由来》ギリシャ語
の“epi”(上に)と“dendron”(木)から。 本属が一般的
に着生蘭であることから/細く伸びた花茎の先に小花が
密集して咲き、 半円形の一つの花のような姿。 小花が
次々と開花するので、鑑賞期間が非常に長い。
■シンビジュウム   ラン科/胡蝶蘭 (コチョウラン)と
並びポピュラーな蘭花。寒さに強く、洋ランの中でも丈夫
で育てやすい。 花や株、草丈により大型・中型・小型種
に分類され、立ち性や下垂など品種が豊富。冬から春に
かけて開花し、一茎に数十輪の花を穂状に咲かせる。
■カトレア   ラン科/《名前の由来》着生蘭の栽培に
初めて成功した英国の園芸家キャトレイの名から/“洋
ランの女王”と呼ばれ、一つの花が大きく色鮮やかで華
やかな花姿。品種ごとに開花時期が異なり、一年中流
通する。
■ユーカリ〔銀丸葉ユーカリ〕   フトモモ科/常緑高木
/オーストラリアの森の4分の3がユーカリといわれ、約
600種が分布。「銀丸葉ユーカリ」は白銀色の綺麗な丸
葉が特徴。芳香も強く、サシェなどにも利用される。
■ルスカス〔丸葉ルスカス〕   ユリ科/艶やかで光沢
のある深緑色の葉物/葉のように見える部分は小枝が
変化した葉状茎で、本来の葉は退化。 葉状茎の中心に
白い花を咲かせる。
■テマリ草   ナデシコ科/多年草/マリモや芝を連
想させる個性的な花。ふさふさした部分は花。雄しべ・
雌しべが変化したもの。
※拡大写真
http://www.fmu.ac.jp/univ/hana/3531.jpg

【秘書室】
■エピデンドラム (理事長室と同花材)
■ピンポン菊〔ロリポップ〕   キク科/多年草/ピンポン玉のように真ん丸
に咲く菊。日持ちの良い菊のなかでも特に長く楽しめる。 「ロリポップ」は淡
いピンク色。
■黄金(オウゴン)テマリシモツケ   バラ科/落葉低木/アメリカテマリシ
モツケの黄金葉をもつ品種。黄金〜ライムグリーンの綺麗な葉色が特徴。コ
デマリに似た半球状の花が咲くことから「金葉(キンバ)コデマリ」の別名を持
つ。
※拡大写真
http://www.fmu.ac.jp/univ/hana/3532.jpg

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