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理事長室からの花だより
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理事長室からの花だより
vol.354 − 吟 (うなる) −
二十四節気では、雨水(うすい)の時季です。
季語で言えば、春浅し、そして獺の祭り(おそのまつり)、獺祭(だっさい)です。「獺祭」という名称、今では、山口の銘酒として有名になってしまっています。
この時季、朝霧のなかの朝焼け、夜半の低い天空にある黄金色(こがねいろ)の満月、息を呑むような美しさに、一時、見惚れてしまいます。
町中、梅が咲き誇り、桃もこれに加わり、早春を実感します。観たことはありませんが、河津桜(カワヅザクラ)の便りも届いています。
肌を撫でる、大地を吹き渡る風は、既に春です。風に乗って耳元に届く賑(にぎ)やかな鳥の声、鳥達も春の到来を喜んでいるかのようです。
春の鳥な鳴きそ鳴きそあかあかと
外の面(とのも)の草に日の入る夕(ゆうべ)
北原白秋
「春の鳥よ、そんなに鳴いてくれるな、窓の外の草原に、赤々と夕日が沈もうとしている夕べに…」。
この情景を観ている作者の顔が、夕陽で朱に染まっている様(さま)が目に浮かびます。
大気の澄みわたるこの時季の夕方、この詩の光景が眼前に展開します。
歌は、作者の人生、人柄、その時の心情、そして置かれている環境まで忠実に表わします。
和歌、和を象徴する伝統文化の一つです。その歌から何を、どう読み取るかは、読み手により異なります。
戦後、現代かなづかいに改められたため、旧かなづかいから「ゐ(い)」と「ゑ(え)」が無くなりました。
微妙な表現の喪失、伝統の断絶です。
細川幽斎が受けたという古今伝授(こきんでんじゅ)、今、どれだけ受け継がれているのでしょうか。
歌の素人である己からみた歌の文化の一端を記します。
人形浄瑠璃や歌舞伎の「仮名手本忠臣蔵」、題名の「仮名手本(かなでほん)」、これは、いろはの47文字によって、赤穂浪士の数を暗示しているのだそうです。
いろはの7段の最後をつなぐと「とかなくしてしす」、つまり「咎(とが)なくて死す」、となります。
「菅原伝授手習鑑」の手習鑑(てならいかがみ)、手習いの手本は「いろは」です。
そこから、菅原道真の死が陥(おとしい)れられた結果であることが暗示されています。
この「いろは」歌、当時の庶民は、この事を理解して、この演目が示している意味を受け止め、鑑賞し、今に伝えていくことに尽力しました。庶民の感性、恐るべしです。
柿本人麻呂が、怨念(おんねん)を込めて「いろは」歌を残したとする説も、近年、出されています(篠原央憲(しのはら・ひさのり))。最近、井沢元彦が小説「猿丸幻視行」(さるまるげんしこう)で、「いろは」の中に、柿本人麻呂の名を示す暗号が潜んでいることを示したことも、良く知られています。
これを偶然と片付けてしまうのは簡単です。
しかし、「偶然なんてものは存在しない」、「運命のなかに偶然はない」、「偶然の一致というのは、怠け者を慰めてくれる神様の思し召し(おぼしめし)」、とも言われています。
「いろは」歌の奥深さ、その作者、成立年代に空想は膨らみます。古来、多くの人々がこの謎に挑み、様々な説が提唱されています。
こういう暗号が、庶民の間で通じていたということに、当時の人々の遊び心、風刺の精神、そして語彙(ごい)の豊かさが窺(うかが)われます。
26日(1936、昭和11年)、2・26事件の日です。“昭和の歴史”になってしまいました。事件の背景に貧困があるのは事実です。この事件に就(つ)いては、未だに謎が多く、今の我々には理解が困難です。
只、今に伝えられている記録からは、若き軍人達の慟哭(どうこく)が聞こえてきます。それを今に伝える女流歌人の歌も悲痛です。
今週の花材は、落ち着いた色取りで、春を待ちわびて、息を潜めている気配がします。
(福島県立医科大学理事長 菊地臣一)
季語で言えば、春浅し、そして獺の祭り(おそのまつり)、獺祭(だっさい)です。「獺祭」という名称、今では、山口の銘酒として有名になってしまっています。
この時季、朝霧のなかの朝焼け、夜半の低い天空にある黄金色(こがねいろ)の満月、息を呑むような美しさに、一時、見惚れてしまいます。
町中、梅が咲き誇り、桃もこれに加わり、早春を実感します。観たことはありませんが、河津桜(カワヅザクラ)の便りも届いています。
肌を撫でる、大地を吹き渡る風は、既に春です。風に乗って耳元に届く賑(にぎ)やかな鳥の声、鳥達も春の到来を喜んでいるかのようです。
春の鳥な鳴きそ鳴きそあかあかと
外の面(とのも)の草に日の入る夕(ゆうべ)
北原白秋
「春の鳥よ、そんなに鳴いてくれるな、窓の外の草原に、赤々と夕日が沈もうとしている夕べに…」。
この情景を観ている作者の顔が、夕陽で朱に染まっている様(さま)が目に浮かびます。
大気の澄みわたるこの時季の夕方、この詩の光景が眼前に展開します。
歌は、作者の人生、人柄、その時の心情、そして置かれている環境まで忠実に表わします。
和歌、和を象徴する伝統文化の一つです。その歌から何を、どう読み取るかは、読み手により異なります。
戦後、現代かなづかいに改められたため、旧かなづかいから「ゐ(い)」と「ゑ(え)」が無くなりました。
微妙な表現の喪失、伝統の断絶です。
細川幽斎が受けたという古今伝授(こきんでんじゅ)、今、どれだけ受け継がれているのでしょうか。
歌の素人である己からみた歌の文化の一端を記します。
人形浄瑠璃や歌舞伎の「仮名手本忠臣蔵」、題名の「仮名手本(かなでほん)」、これは、いろはの47文字によって、赤穂浪士の数を暗示しているのだそうです。
いろはの7段の最後をつなぐと「とかなくしてしす」、つまり「咎(とが)なくて死す」、となります。
「菅原伝授手習鑑」の手習鑑(てならいかがみ)、手習いの手本は「いろは」です。
そこから、菅原道真の死が陥(おとしい)れられた結果であることが暗示されています。
この「いろは」歌、当時の庶民は、この事を理解して、この演目が示している意味を受け止め、鑑賞し、今に伝えていくことに尽力しました。庶民の感性、恐るべしです。
柿本人麻呂が、怨念(おんねん)を込めて「いろは」歌を残したとする説も、近年、出されています(篠原央憲(しのはら・ひさのり))。最近、井沢元彦が小説「猿丸幻視行」(さるまるげんしこう)で、「いろは」の中に、柿本人麻呂の名を示す暗号が潜んでいることを示したことも、良く知られています。
これを偶然と片付けてしまうのは簡単です。
しかし、「偶然なんてものは存在しない」、「運命のなかに偶然はない」、「偶然の一致というのは、怠け者を慰めてくれる神様の思し召し(おぼしめし)」、とも言われています。
「いろは」歌の奥深さ、その作者、成立年代に空想は膨らみます。古来、多くの人々がこの謎に挑み、様々な説が提唱されています。
こういう暗号が、庶民の間で通じていたということに、当時の人々の遊び心、風刺の精神、そして語彙(ごい)の豊かさが窺(うかが)われます。
26日(1936、昭和11年)、2・26事件の日です。“昭和の歴史”になってしまいました。事件の背景に貧困があるのは事実です。この事件に就(つ)いては、未だに謎が多く、今の我々には理解が困難です。
只、今に伝えられている記録からは、若き軍人達の慟哭(どうこく)が聞こえてきます。それを今に伝える女流歌人の歌も悲痛です。
今週の花材は、落ち着いた色取りで、春を待ちわびて、息を潜めている気配がします。
(福島県立医科大学理事長 菊地臣一)
今週の花
【理事長室】
■菊〔レッドトルネード〕 キク科/多年草/
ダリアと見間違うような花姿のデコラ咲の菊。
デコラ咲は花弁が多く、花も大きくボリューム
がある。「レッドトルネード」は赤茶色のシック
な色。
■プロテア〔カーニバル〕 ヤマモガシ科/
常緑低木/《名前の由来》ギリシャ神話の海
神プロテウスの名より。 同属とは思えないほ
どの変異種が多く、自由自在に変身できるプ
ロテウスにちなんで/圧倒的な存在感をもつ
ワイルドフラワーで、ドライフラワーにも適す。
■ガマズミ〔トキワガマズミ〕 スイカズラ科
/常緑低木/花期は3〜4月頃で、 小さな白
い花を密集させて円盤状に開花する。 秋に黒
紫色の実をつける。ふっくらした赤い蕾が実の
ようで魅力的。
■カーネーション〔ノビオバーガンディ〕
ナデシコ科/多年草/菊・バラと並び世界的
にみても生産量の多き主要花。「ノビオ」シリ
ーズは紫やボルドーを基調とした覆輪が綺
麗な品種。他に「ノビオバイオレット」や「ブラッ
クハート」、「ドルチェネロ」、「バタフライ」など。
■ドラセナ〔コーディラインカプチーノ〕 リュ
ウゼツラン科/ 「コーディライン」は正式にはド
ラセナでなくコルジリネ。 以前ドラセナ属に分
類されていたため、現在も“ドラセナ”の名で流
通。 「カプチーノ」は赤黒色の葉の縁に白色が
入る。
■モンステラ〔デリシオサ〕 サトイモ科/
蔓性植物/成長するにつれ葉に深い切れ込
みや穴が開くグリーン。「デリシオサ」は葉長
が1mにもなる大型種。
※拡大写真
http://www.fmu.ac.jp/univ/hana/3541.jpg
■菊〔レッドトルネード〕 キク科/多年草/
ダリアと見間違うような花姿のデコラ咲の菊。
デコラ咲は花弁が多く、花も大きくボリューム
がある。「レッドトルネード」は赤茶色のシック
な色。
■プロテア〔カーニバル〕 ヤマモガシ科/
常緑低木/《名前の由来》ギリシャ神話の海
神プロテウスの名より。 同属とは思えないほ
どの変異種が多く、自由自在に変身できるプ
ロテウスにちなんで/圧倒的な存在感をもつ
ワイルドフラワーで、ドライフラワーにも適す。
■ガマズミ〔トキワガマズミ〕 スイカズラ科
/常緑低木/花期は3〜4月頃で、 小さな白
い花を密集させて円盤状に開花する。 秋に黒
紫色の実をつける。ふっくらした赤い蕾が実の
ようで魅力的。
■カーネーション〔ノビオバーガンディ〕
ナデシコ科/多年草/菊・バラと並び世界的
にみても生産量の多き主要花。「ノビオ」シリ
ーズは紫やボルドーを基調とした覆輪が綺
麗な品種。他に「ノビオバイオレット」や「ブラッ
クハート」、「ドルチェネロ」、「バタフライ」など。
■ドラセナ〔コーディラインカプチーノ〕 リュ
ウゼツラン科/ 「コーディライン」は正式にはド
ラセナでなくコルジリネ。 以前ドラセナ属に分
類されていたため、現在も“ドラセナ”の名で流
通。 「カプチーノ」は赤黒色の葉の縁に白色が
入る。
■モンステラ〔デリシオサ〕 サトイモ科/
蔓性植物/成長するにつれ葉に深い切れ込
みや穴が開くグリーン。「デリシオサ」は葉長
が1mにもなる大型種。
※拡大写真
http://www.fmu.ac.jp/univ/hana/3541.jpg
【秘書室】
■デンファレ〔バンコクブルー〕 ラン科/正式名称「デンドロビュウム・
ファレノプシス」/《名前の由来》 デンドロビュウム属の花で花形が胡蝶蘭
(ファレノプシス)に似ていることから、 正式名称を略した“デンファレ”が流
通名となる/「バンコクブルー」は青紫で、デンファレには珍しいシックな色
合い。
■アンスリュウム〔みどり〕 サトイモ科/常緑多年草/造花と見間違う
ような艶のある南国の花。花弁のように見える団扇状の部分は苞で、棒状
の部分が花序。「みどり」は爽やかなグリーンで、冬期は少し赤味がかる。
■ラナンキュラス〔ちほの舞〕 キンポウゲ科/球根植物/幾重にも重
なる柔らかい花弁が特徴。「ちほの舞」は白地に紫の縁が入る品種。名前
の「ちほ」は宮崎県高千穂産であることから。
※拡大写真
http://www.fmu.ac.jp/univ/hana/3542.jpg
■デンファレ〔バンコクブルー〕 ラン科/正式名称「デンドロビュウム・
ファレノプシス」/《名前の由来》 デンドロビュウム属の花で花形が胡蝶蘭
(ファレノプシス)に似ていることから、 正式名称を略した“デンファレ”が流
通名となる/「バンコクブルー」は青紫で、デンファレには珍しいシックな色
合い。
■アンスリュウム〔みどり〕 サトイモ科/常緑多年草/造花と見間違う
ような艶のある南国の花。花弁のように見える団扇状の部分は苞で、棒状
の部分が花序。「みどり」は爽やかなグリーンで、冬期は少し赤味がかる。
■ラナンキュラス〔ちほの舞〕 キンポウゲ科/球根植物/幾重にも重
なる柔らかい花弁が特徴。「ちほの舞」は白地に紫の縁が入る品種。名前
の「ちほ」は宮崎県高千穂産であることから。
※拡大写真
http://www.fmu.ac.jp/univ/hana/3542.jpg