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理事長室からの花だより
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理事長室からの花だより
vol.358 − 解 (とく) −
信夫の里、廃屋が取り壊されて寂しさ漂う敷地跡、耕作が放棄されて荒れたままの畑、それらの隅に、剪定(せんてい)されていた老木の白梅が満開に咲き誇っています。憐(あわ)れを誘う情景です。
一転、黒い木立を背景に紅白の梅の木が佇(たたず)んでいる様(さま)、華やぎを感じます。
構内では木蓮(モクレン)が咲き出しました。
都心、外務省の桜が早や花を咲かせています。散らでの梅、辛夷(コブシ)、木蓮、菜の花が咲き乱れ、明るい色取りで春を競っています。
梅の花の違った咲き振りをみていると、“萎(しほ)れたる花”(世阿弥、風姿花伝)が甦ります。
春の花に就(つ)いては、多くの歌が詠(よ)まれてきています。
古来、多くの人を魅了して止(や)まない一つが和歌です。誰でも一度は耳にしたことのある百人一首と万葉集を取り上げてみます。
百人一首、戦後、カルタとして普及し、一時期、どこの家庭でも正月の遊びとして広く行われていました。
そもそも、この歌集、誰が、何の為に作ったのか、真の名歌を集めた編集なのか、といった疑問があります。
この謎に昔から多くの人が挑戦して、様々な説が出されています。
この歌集の構成、四季の移ろいを追うように、まるで絵をみるようです。“歌織物”(うたおりもの)と言う方もいます。
謎解き人が一様に指摘するのが、歌人達の異様な末路です。作者の多くが無残な死を遂げたり、流罪(るざい)に遭ったり、恨みを残して亡くなっています。
代表的なところでは、刑死ではないかと疑われている歌聖、柿本人麻呂(かきのもと・ひとまろ)です。「水底の歌(梅原猛)」で、広く知られるようになりました。
しかも、百人一首が歴史に登場するのは室町時代、藤原定家(ふじわらのていか)が没して190年も経てからです。
常識とされていることも、近年、否定されています(草野隆)。
定家が作った歌集ではない、今や嵐山の観光名所になっている小倉山(おぐらやま)、小倉山山荘という山荘は存在しない、古今の名歌が選ばれているわけではない、などです。
ここにも“常識のウソ”があります。
現存する最古の歌集である万葉集、貴重な文化遺産です。飛鳥・奈良時代(8世紀)に完成されたとされています。謎だらけの歌集です。
今は否定されていますが、万葉集に書かれている古代日本語は当時の朝鮮語で解読できるという説が出版され、話題になったこともあります。
この万葉集、後の時代の歌集とは大きな違いが一つあります。
それは、この歌集の作者は天皇や貴族など高貴な人だけでなく、庶民の歌も広く集められていることです。
学校で習った山上憶良(やまのうえのおくら)の「貧窮問答歌」(ひんきゅうもんどうか)は、その代表です。
最大の謎は、この歌集に関する記録が正史にはみられないことです。
もう一つは、朝廷により犯罪者とされて無念の刑死となった大津皇子(おおつのおうじ)や長屋王(ながやのおおきみ)など、当時の感覚で言えば、犯罪者の歌が入っていることです。作者の大伴家持(おおとものやかもち)も罰せられた人です。
こういうことがあるからでしょうか、この歌集が世に出たのは9世紀以降だそうです。
このようなことから、万葉集は「日本書記」などの正史によって抹殺されてしまった歴史の嘘を暴(あば)く歴史書としている人も居ます(関裕二)。
何(いず)れにしても、古代の人は、「以呂波」歌と同様に、時の権力者から奪われた歴史の闇を和歌という手段を使って後の世に伝えようとしたことだけは確かなようです。
和歌の読み込みには深い歴史観と教養が必要だということを痛感します。己には、些(いささ)か気が滅入ります。
今週の花材は、執務室では沈んだ色彩で惜別を、秘書室は明るい色彩で若者の旅立ちを思わせます。
(福島県立医科大学理事長 菊地臣一)
一転、黒い木立を背景に紅白の梅の木が佇(たたず)んでいる様(さま)、華やぎを感じます。
構内では木蓮(モクレン)が咲き出しました。
都心、外務省の桜が早や花を咲かせています。散らでの梅、辛夷(コブシ)、木蓮、菜の花が咲き乱れ、明るい色取りで春を競っています。
梅の花の違った咲き振りをみていると、“萎(しほ)れたる花”(世阿弥、風姿花伝)が甦ります。
春の花に就(つ)いては、多くの歌が詠(よ)まれてきています。
古来、多くの人を魅了して止(や)まない一つが和歌です。誰でも一度は耳にしたことのある百人一首と万葉集を取り上げてみます。
百人一首、戦後、カルタとして普及し、一時期、どこの家庭でも正月の遊びとして広く行われていました。
そもそも、この歌集、誰が、何の為に作ったのか、真の名歌を集めた編集なのか、といった疑問があります。
この謎に昔から多くの人が挑戦して、様々な説が出されています。
この歌集の構成、四季の移ろいを追うように、まるで絵をみるようです。“歌織物”(うたおりもの)と言う方もいます。
謎解き人が一様に指摘するのが、歌人達の異様な末路です。作者の多くが無残な死を遂げたり、流罪(るざい)に遭ったり、恨みを残して亡くなっています。
代表的なところでは、刑死ではないかと疑われている歌聖、柿本人麻呂(かきのもと・ひとまろ)です。「水底の歌(梅原猛)」で、広く知られるようになりました。
しかも、百人一首が歴史に登場するのは室町時代、藤原定家(ふじわらのていか)が没して190年も経てからです。
常識とされていることも、近年、否定されています(草野隆)。
定家が作った歌集ではない、今や嵐山の観光名所になっている小倉山(おぐらやま)、小倉山山荘という山荘は存在しない、古今の名歌が選ばれているわけではない、などです。
ここにも“常識のウソ”があります。
現存する最古の歌集である万葉集、貴重な文化遺産です。飛鳥・奈良時代(8世紀)に完成されたとされています。謎だらけの歌集です。
今は否定されていますが、万葉集に書かれている古代日本語は当時の朝鮮語で解読できるという説が出版され、話題になったこともあります。
この万葉集、後の時代の歌集とは大きな違いが一つあります。
それは、この歌集の作者は天皇や貴族など高貴な人だけでなく、庶民の歌も広く集められていることです。
学校で習った山上憶良(やまのうえのおくら)の「貧窮問答歌」(ひんきゅうもんどうか)は、その代表です。
最大の謎は、この歌集に関する記録が正史にはみられないことです。
もう一つは、朝廷により犯罪者とされて無念の刑死となった大津皇子(おおつのおうじ)や長屋王(ながやのおおきみ)など、当時の感覚で言えば、犯罪者の歌が入っていることです。作者の大伴家持(おおとものやかもち)も罰せられた人です。
こういうことがあるからでしょうか、この歌集が世に出たのは9世紀以降だそうです。
このようなことから、万葉集は「日本書記」などの正史によって抹殺されてしまった歴史の嘘を暴(あば)く歴史書としている人も居ます(関裕二)。
何(いず)れにしても、古代の人は、「以呂波」歌と同様に、時の権力者から奪われた歴史の闇を和歌という手段を使って後の世に伝えようとしたことだけは確かなようです。
和歌の読み込みには深い歴史観と教養が必要だということを痛感します。己には、些(いささ)か気が滅入ります。
今週の花材は、執務室では沈んだ色彩で惜別を、秘書室は明るい色彩で若者の旅立ちを思わせます。
(福島県立医科大学理事長 菊地臣一)
今週の花
【理事長室】
■ラナンキュラス〔ちほの舞〕 キンポウゲ科
/球根植物/《名前の由来》ラテン語の“蛙”に
由来。蛙の生息するような湿地を好んで咲くこと
から/薄く柔らかい花弁が幾重にも重なり、バラ
のような花姿。「ちほの舞」は白い花弁の縁に紫
が入る品種。
■スイートピー〔トトロキング〕 マメ科/一年草
/チューリップ、フリージアと並ぶ春の代表花。一
つひとつの花が蝶のような形で、甘い香りを放つ。
■カーネーション〔ノビオバーガンディ〕
ナデシコ科/多年草/母の日に贈る花として古く
から親しまれる。菊・バラと並び世界的に生産量
の多い主要花。「ノビオ」シリーズは紫やボルドー
を基調とした覆輪が綺麗な品種。
■ピンポン菊〔マグナ〕 キク科/多年草/デ
コラ咲きの菊。真ん丸にならず、ダリアのような花
姿が特徴。真ん丸のピンポン菊同様に、非常に花
持ちが良く長期間楽しめる。 「マグナ」はシックな
赤茶色の品種。
■シダ〔ポリポジュウム〕 ウラボシ科/常緑シ
ダ植物/タニワタリのような葉の先端に、切れ込
みが入りうねる。 海藻を思わせるような独特な姿
が魅力。
■ドラセナ〔紅光〕 リュウゼツラン科/常緑低
木/品種名の通り、紅葉したように綺麗な色の葉
を持つ。「コーディライン」シリーズ同様に、本来は
コルジリネだが“ドラセナ”の名で流通。コーディラ
インより葉が小さくコンパクトな品種。
※拡大写真
http://www.fmu.ac.jp/univ/hana/3581.jpg
■ラナンキュラス〔ちほの舞〕 キンポウゲ科
/球根植物/《名前の由来》ラテン語の“蛙”に
由来。蛙の生息するような湿地を好んで咲くこと
から/薄く柔らかい花弁が幾重にも重なり、バラ
のような花姿。「ちほの舞」は白い花弁の縁に紫
が入る品種。
■スイートピー〔トトロキング〕 マメ科/一年草
/チューリップ、フリージアと並ぶ春の代表花。一
つひとつの花が蝶のような形で、甘い香りを放つ。
■カーネーション〔ノビオバーガンディ〕
ナデシコ科/多年草/母の日に贈る花として古く
から親しまれる。菊・バラと並び世界的に生産量
の多い主要花。「ノビオ」シリーズは紫やボルドー
を基調とした覆輪が綺麗な品種。
■ピンポン菊〔マグナ〕 キク科/多年草/デ
コラ咲きの菊。真ん丸にならず、ダリアのような花
姿が特徴。真ん丸のピンポン菊同様に、非常に花
持ちが良く長期間楽しめる。 「マグナ」はシックな
赤茶色の品種。
■シダ〔ポリポジュウム〕 ウラボシ科/常緑シ
ダ植物/タニワタリのような葉の先端に、切れ込
みが入りうねる。 海藻を思わせるような独特な姿
が魅力。
■ドラセナ〔紅光〕 リュウゼツラン科/常緑低
木/品種名の通り、紅葉したように綺麗な色の葉
を持つ。「コーディライン」シリーズ同様に、本来は
コルジリネだが“ドラセナ”の名で流通。コーディラ
インより葉が小さくコンパクトな品種。
※拡大写真
http://www.fmu.ac.jp/univ/hana/3581.jpg
【秘書室】
■サンダーソニア ユリ科/球根植物/ランプを灯したような可愛らし
いオレンジ色。原産地(南アフリカ)でクリスマス頃に開花することから「ク
リスマスベル」の別名を持つ。
■ラナンキュラス (理事長室と同花材)
オレンジ・白・黄色の3色を使用。
※拡大写真
http://www.fmu.ac.jp/univ/hana/3582.jpg
■サンダーソニア ユリ科/球根植物/ランプを灯したような可愛らし
いオレンジ色。原産地(南アフリカ)でクリスマス頃に開花することから「ク
リスマスベル」の別名を持つ。
■ラナンキュラス (理事長室と同花材)
オレンジ・白・黄色の3色を使用。
※拡大写真
http://www.fmu.ac.jp/univ/hana/3582.jpg