HOME > 理事長室からの花だより
理事長室からの花だより
新着 30 件
理事長室からの花だより
vol.360 − 替 (かわる) −
二十四節気では清明(せいめい)です。
風は光り、水は温(ぬる)み、人の心まで弾みます。人々は、木の下で、漫(そぞ)ろ歩いて、花見を楽しんでいます。
季節は、いくたびもくりかへす。
そして、人の心は、おなじ道を行くたびもさまよふ
立原道造
歳月は移ろい、人は入れ変わっていきます。
あはれ花びらながれ
をみなごに花びらながれ
をみなごしめやかに語らひあゆみ
うららかの跫音(あしおと)空にながれ
をりふしに瞳をあげて
翳(かげ)りなきみ寺の春をすぎゆくなり
み寺の甍(いらか)みどりにうるほひ
廂々(ひさし)に
風鐸(ふうたく)のすがたしづかなれば
ひとりなる
わが身の陰をあゆまする甃(いし)のうへ
三好達治
この詩には春の、透明な華やぎと寂しさが漂っています。ここに、花々の賑(にぎ)やかさはありません。
話し言葉や書き言葉も時代とともに変わります。「一所懸命」が「一生懸命」のように。
只、恐らく「死に様(しにざま)」の対(つい)として造られた言葉である「生き様」となると、己には受け入れられません。そこに、自らに酔っている気配を感じてしまうのです。
「男・女」は旧仮名使いでは「をとこ・をんな」です。今は「おとこ・おんな」です。「お父さん・お母さん」、元々は上方の商人言葉です。明治の国定教科書で使用されてから全国に広がったようです。
短期間でこれだけ変わってきているのです。昔の人はどんな言葉を話していたのか、どんな風に書いたり、読んだりしていたのか、関心があります。
今の芸能作品、例えば時代劇や時代小説で使われている言葉は、当時の人々が今に甦(よみがえ)って見聞したら、“大分違う”、と言うに違いないからです。
「戦国の日本語、五百年前の読む、書く、話す」(今野真二 著)、日本語を巡る移り変わりが素人にも分かるように書かれています。以下の多くはそれに依(よ)ります。
高校時代に習った「古典」(古文と言っていたのかも知れません)、古典の文法は「古代語」に分類されます。
平安時代に確立されたといわれています。一方、現代日本語は「近代語」の仲間です。
近代語の芽生(めばえ)は室町時代です。
鎌倉時代は古代語が崩壊していく時期です。戦国時代から現代日本語が始まったといえそうです。
書き言葉でみると、国宝に指定された藤原道長の「御堂関白記」(みどうかんぱくき)は漢文で書かれています。
当時の貴族の男性の中国語や日本語への理解力は、今の人々よりは遙かに高そうです。
室町時代、ポルトガルやスペインの宣教師が作った辞書のお蔭で、当時の日本語の発音が分かります。
当時の書き方では、濁音音節に濁音を必ずしも附(ふ)すことがなかったからです。
濁音を附すようになったのは、明治中期以降まで待たなければなりません。我が国の先人達の文章からではその区別が出来ないのです。
歴史で天正遣欧少年使節を習います。彼等がプレス印刷機、そして初鋳造の漢字・仮名金属活字を日本にもたらしました。歴史上初めて和紙に金属活字印刷した書籍を携(たずさ)えて帰国したのです。
これらの資料から、当時の話し言葉と書き言葉が必ずしも同じでないこと、今の発音と当時の発音が一緒でないことも窺(うかが)われます。
例えば、蛙です。書き言葉ではカエル、話し言葉ではカイルです。
サザエもサザイです。専門的には、イとエの母音交替というのだそうです。
また、川は書き言葉ではカハ、今はカワです。授業で習った歴史的仮名使いでは、「かは」と書きました。
この呼び方もハ行転呼音(はぎょうてんこおん)現象ということで説明できるそうです。
江戸時代の教養人なら、辛うじて、平安時代の人々と話せたのではないでしょうか。
今週の花材、両室とも、堅い意志を写している佇まいです。
(福島県立医科大学理事長 菊地臣一)
風は光り、水は温(ぬる)み、人の心まで弾みます。人々は、木の下で、漫(そぞ)ろ歩いて、花見を楽しんでいます。
季節は、いくたびもくりかへす。
そして、人の心は、おなじ道を行くたびもさまよふ
立原道造
歳月は移ろい、人は入れ変わっていきます。
あはれ花びらながれ
をみなごに花びらながれ
をみなごしめやかに語らひあゆみ
うららかの跫音(あしおと)空にながれ
をりふしに瞳をあげて
翳(かげ)りなきみ寺の春をすぎゆくなり
み寺の甍(いらか)みどりにうるほひ
廂々(ひさし)に
風鐸(ふうたく)のすがたしづかなれば
ひとりなる
わが身の陰をあゆまする甃(いし)のうへ
三好達治
この詩には春の、透明な華やぎと寂しさが漂っています。ここに、花々の賑(にぎ)やかさはありません。
話し言葉や書き言葉も時代とともに変わります。「一所懸命」が「一生懸命」のように。
只、恐らく「死に様(しにざま)」の対(つい)として造られた言葉である「生き様」となると、己には受け入れられません。そこに、自らに酔っている気配を感じてしまうのです。
「男・女」は旧仮名使いでは「をとこ・をんな」です。今は「おとこ・おんな」です。「お父さん・お母さん」、元々は上方の商人言葉です。明治の国定教科書で使用されてから全国に広がったようです。
短期間でこれだけ変わってきているのです。昔の人はどんな言葉を話していたのか、どんな風に書いたり、読んだりしていたのか、関心があります。
今の芸能作品、例えば時代劇や時代小説で使われている言葉は、当時の人々が今に甦(よみがえ)って見聞したら、“大分違う”、と言うに違いないからです。
「戦国の日本語、五百年前の読む、書く、話す」(今野真二 著)、日本語を巡る移り変わりが素人にも分かるように書かれています。以下の多くはそれに依(よ)ります。
高校時代に習った「古典」(古文と言っていたのかも知れません)、古典の文法は「古代語」に分類されます。
平安時代に確立されたといわれています。一方、現代日本語は「近代語」の仲間です。
近代語の芽生(めばえ)は室町時代です。
鎌倉時代は古代語が崩壊していく時期です。戦国時代から現代日本語が始まったといえそうです。
書き言葉でみると、国宝に指定された藤原道長の「御堂関白記」(みどうかんぱくき)は漢文で書かれています。
当時の貴族の男性の中国語や日本語への理解力は、今の人々よりは遙かに高そうです。
室町時代、ポルトガルやスペインの宣教師が作った辞書のお蔭で、当時の日本語の発音が分かります。
当時の書き方では、濁音音節に濁音を必ずしも附(ふ)すことがなかったからです。
濁音を附すようになったのは、明治中期以降まで待たなければなりません。我が国の先人達の文章からではその区別が出来ないのです。
歴史で天正遣欧少年使節を習います。彼等がプレス印刷機、そして初鋳造の漢字・仮名金属活字を日本にもたらしました。歴史上初めて和紙に金属活字印刷した書籍を携(たずさ)えて帰国したのです。
これらの資料から、当時の話し言葉と書き言葉が必ずしも同じでないこと、今の発音と当時の発音が一緒でないことも窺(うかが)われます。
例えば、蛙です。書き言葉ではカエル、話し言葉ではカイルです。
サザエもサザイです。専門的には、イとエの母音交替というのだそうです。
また、川は書き言葉ではカハ、今はカワです。授業で習った歴史的仮名使いでは、「かは」と書きました。
この呼び方もハ行転呼音(はぎょうてんこおん)現象ということで説明できるそうです。
江戸時代の教養人なら、辛うじて、平安時代の人々と話せたのではないでしょうか。
今週の花材、両室とも、堅い意志を写している佇まいです。
(福島県立医科大学理事長 菊地臣一)
今週の花
【理事長室】
■木瓜(ボケ) バラ科/落葉低木/《名前の由来》
中国実の木瓜(モッケ)から変化して「ボケ」。ウリのよう
な大きな実をつけることから/6月頃に5〜6cmの実を
つけ、果実酒や鎮痛剤の材料となる。丸みを帯びた花
が可愛らしく、庭木や盆栽でも人気。
■菊〔アーセナルレッド〕 キク科/多年草/糸のよう
に細い花弁が特徴の糸菊(イトギク)。可憐な花弁が花
火のように放射状に開花する。
■ドラセナ〔ファンテングリーン〕 リュウゼツラン科/
シャープな細長い葉が特徴。「ファンテングリーン」は葉
の縁に赤色が入る。縁に白色が入る「ファンテンホワイ
ト」もある。
※拡大写真
http://www.fmu.ac.jp/univ/hana/3601.jpg
■木瓜(ボケ) バラ科/落葉低木/《名前の由来》
中国実の木瓜(モッケ)から変化して「ボケ」。ウリのよう
な大きな実をつけることから/6月頃に5〜6cmの実を
つけ、果実酒や鎮痛剤の材料となる。丸みを帯びた花
が可愛らしく、庭木や盆栽でも人気。
■菊〔アーセナルレッド〕 キク科/多年草/糸のよう
に細い花弁が特徴の糸菊(イトギク)。可憐な花弁が花
火のように放射状に開花する。
■ドラセナ〔ファンテングリーン〕 リュウゼツラン科/
シャープな細長い葉が特徴。「ファンテングリーン」は葉
の縁に赤色が入る。縁に白色が入る「ファンテンホワイ
ト」もある。
※拡大写真
http://www.fmu.ac.jp/univ/hana/3601.jpg
【秘書室】
■花蘇芳(ハナズオウ) マメ科/落葉低木/江戸時代に渡来。葉が芽吹く
前に紅紫色の花を枝いっぱいにつける。花期は4月で、花は蝶を思わせるよう
な形。
■アンスリュウム〔マキシマ〕 サトイモ科/常緑多年草/光沢があり造花と
見間違うような花。花弁のように見える団扇状の部分は苞で、棒状の部分が花
序。「マキシマ」は白地の苞の先端がピンクがかる。
■カーネーション〔ノビオバーガンディ〕 ナデシコ科/多年草/母の日の花
として古くから親しまれる。菊・バラと並び世界的に生産量が多い主要花。「ノビ
オ」シリーズはボルドーや紫を基調した覆輪が綺麗な品種。
■パセリーフ セリ科/切り花として流通するパセリの葉。モコモコした姿で、
ミニブーケやアレンジに利用。花は「パセレース」の名で流通し、花姿はレース
フラワーに似る。
※拡大写真
http://www.fmu.ac.jp/univ/hana/3602.jpg
■花蘇芳(ハナズオウ) マメ科/落葉低木/江戸時代に渡来。葉が芽吹く
前に紅紫色の花を枝いっぱいにつける。花期は4月で、花は蝶を思わせるよう
な形。
■アンスリュウム〔マキシマ〕 サトイモ科/常緑多年草/光沢があり造花と
見間違うような花。花弁のように見える団扇状の部分は苞で、棒状の部分が花
序。「マキシマ」は白地の苞の先端がピンクがかる。
■カーネーション〔ノビオバーガンディ〕 ナデシコ科/多年草/母の日の花
として古くから親しまれる。菊・バラと並び世界的に生産量が多い主要花。「ノビ
オ」シリーズはボルドーや紫を基調した覆輪が綺麗な品種。
■パセリーフ セリ科/切り花として流通するパセリの葉。モコモコした姿で、
ミニブーケやアレンジに利用。花は「パセレース」の名で流通し、花姿はレース
フラワーに似る。
※拡大写真
http://www.fmu.ac.jp/univ/hana/3602.jpg