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理事長室からの花だより
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理事長室からの花だより
vol.361 − 興 (きょうじる ) −
この時季、大地を吹き渡る風が肌に心地良く、のどかな雰囲気が大地を覆(おお)っています。
あふれ出て路上にみなぎりさらにあふれ
とめどなしとめどなし春昼(しゅんちゅう)の泉
加藤克巳
この歌は、眠たくなるような春の昼中(ひるなか)、その雰囲気が路上にまで溢(あふ)れ出ている様子を歌っています。
春の暮れ方(くれかた)も気持ちが浮き立ちます。秋の夕暮れでの釣瓶落とし(つるべおとし)の物悲しさとは対照的です。
庭には、淡いほんのりとした紅色(べにいろ)の山桜が楚々(そそ)として立っています。
うすべにに 葉はいちはやく萌(も)えいでて
咲かむとすなり 山桜花(やまざくらばな)
若山牧水
山桜は葉が先に萌えます。葉の色を背景にして鮮やかで、染井吉野よりも遠景が映(は)えます。
(vol.24 http://www.fmu.ac.jp/univ/cgi/hana_disp.php?seq=41)
(vol.168 http://www.fmu.ac.jp/univ/cgi/hana_disp.php?seq=202)
海棠(カイドウ)の淡紅色(たんこうしょく)、木瓜(ボケ)の朱色、花桃(ハナモモ)の緋色、ライラック(リラ)の薄紫も点描の様(よう)にあります。
紫木蓮(シモクレン)の花弁(はなびら)が地面に散り敷かれ、夕闇が幻想的な風景を際立たせています。
川面を吹き渡る風は、透明で、光っているようにみえます。
春の風物、花見、人々の心を浮き立たせてくれます。
少し昔の田舎では、小高い丘、里山の麓(ふもと)、社寺の境内(けいだい)に聳(そび)えている、古い桜の大樹の下で、農作業の合間に宴(うたげ)が催されていました。その有り様から、桜の樹の下での宴は、恐らく、八百万(やおよろず)の神への祈りや感謝が元々の始まりだったのでは…。
今は、人の賑(にぎ)わいは失(う)せ、桜の大樹だけがそこに残っていて、花見の対象として在り続けています。
桜ばな いのち一ぱいに咲くからに
生命(いのち)をかけて わが眺めたり
岡本かの子
この歌は、桜の生命(いのち)と作者のそれを重ねています。桜の華やぎや美しさ、そして一瞬でしかない人間(ヒト)の輝きが際立っています。
花見といえば、花見弁当、花見酒です。
弁当の美しさ、合理性、真にJapan coolの代表です。
花見酒に興じる人々をみる度に、「自分の酒代は自分で出せ、他人に出させるな」という父の生前の口癖を思い出します。花見酒は、欧米では公園でのアルコールは禁止ですから、これも和の文化の代表です。
桜の木の下での宴、側を通る人間からすると、花がみえないのではと余計な心配をしてしまいます。
只、歴史を考えると、この“桜の木の下で”が元々の形であった筈(はず)です。
なぜ、我が国では古来から今に至るまで桜に心を寄せ続けているのでしょうか。
日本人の季節感を形づくっている風物である花見、庶民が花見の宴を楽しむようになったのは江戸時代、隅田川や飛鳥山に桜が植えられてからです。
勿論、それまでも、平安の昔から花見の宴はありました。
授業で習った「徒然草」第137段には、昔の花見の様子が今とあまり変わらないことを教えてくれます。
歴史上有名なのは秀吉の「吉野の花見」や「醍醐(だいご)の花見」です。
当時の桜は、山桜や里桜です。今、全国に植えられている桜の多くは染井吉野です。
今、桜の古木、名木といわれる大樹は、すべて江戸彼岸桜(エドヒガンザクラ)の系統です。山高神代桜(やまたかじんだいざくら)や淡墨桜(うすずみざくら)は江戸彼岸桜、滝桜(たきざくら)は紅枝垂桜(ベニシダレザクラ)です。
夕暮れ時、満開の花を纏(まと)った桜の古木の下に佇(たたず)んでいると、霊気が漂う雰囲気を感じます。
そこに昔の人は“神”を感じたのも宜(むべ)なるかなです。
今週の花材は、透き通る様な春の風です。
(福島県立医科大学理事長 菊地臣一)
あふれ出て路上にみなぎりさらにあふれ
とめどなしとめどなし春昼(しゅんちゅう)の泉
加藤克巳
この歌は、眠たくなるような春の昼中(ひるなか)、その雰囲気が路上にまで溢(あふ)れ出ている様子を歌っています。
春の暮れ方(くれかた)も気持ちが浮き立ちます。秋の夕暮れでの釣瓶落とし(つるべおとし)の物悲しさとは対照的です。
庭には、淡いほんのりとした紅色(べにいろ)の山桜が楚々(そそ)として立っています。
うすべにに 葉はいちはやく萌(も)えいでて
咲かむとすなり 山桜花(やまざくらばな)
若山牧水
山桜は葉が先に萌えます。葉の色を背景にして鮮やかで、染井吉野よりも遠景が映(は)えます。
(vol.24 http://www.fmu.ac.jp/univ/cgi/hana_disp.php?seq=41)
(vol.168 http://www.fmu.ac.jp/univ/cgi/hana_disp.php?seq=202)
海棠(カイドウ)の淡紅色(たんこうしょく)、木瓜(ボケ)の朱色、花桃(ハナモモ)の緋色、ライラック(リラ)の薄紫も点描の様(よう)にあります。
紫木蓮(シモクレン)の花弁(はなびら)が地面に散り敷かれ、夕闇が幻想的な風景を際立たせています。
川面を吹き渡る風は、透明で、光っているようにみえます。
春の風物、花見、人々の心を浮き立たせてくれます。
少し昔の田舎では、小高い丘、里山の麓(ふもと)、社寺の境内(けいだい)に聳(そび)えている、古い桜の大樹の下で、農作業の合間に宴(うたげ)が催されていました。その有り様から、桜の樹の下での宴は、恐らく、八百万(やおよろず)の神への祈りや感謝が元々の始まりだったのでは…。
今は、人の賑(にぎ)わいは失(う)せ、桜の大樹だけがそこに残っていて、花見の対象として在り続けています。
桜ばな いのち一ぱいに咲くからに
生命(いのち)をかけて わが眺めたり
岡本かの子
この歌は、桜の生命(いのち)と作者のそれを重ねています。桜の華やぎや美しさ、そして一瞬でしかない人間(ヒト)の輝きが際立っています。
花見といえば、花見弁当、花見酒です。
弁当の美しさ、合理性、真にJapan coolの代表です。
花見酒に興じる人々をみる度に、「自分の酒代は自分で出せ、他人に出させるな」という父の生前の口癖を思い出します。花見酒は、欧米では公園でのアルコールは禁止ですから、これも和の文化の代表です。
桜の木の下での宴、側を通る人間からすると、花がみえないのではと余計な心配をしてしまいます。
只、歴史を考えると、この“桜の木の下で”が元々の形であった筈(はず)です。
なぜ、我が国では古来から今に至るまで桜に心を寄せ続けているのでしょうか。
日本人の季節感を形づくっている風物である花見、庶民が花見の宴を楽しむようになったのは江戸時代、隅田川や飛鳥山に桜が植えられてからです。
勿論、それまでも、平安の昔から花見の宴はありました。
授業で習った「徒然草」第137段には、昔の花見の様子が今とあまり変わらないことを教えてくれます。
歴史上有名なのは秀吉の「吉野の花見」や「醍醐(だいご)の花見」です。
当時の桜は、山桜や里桜です。今、全国に植えられている桜の多くは染井吉野です。
今、桜の古木、名木といわれる大樹は、すべて江戸彼岸桜(エドヒガンザクラ)の系統です。山高神代桜(やまたかじんだいざくら)や淡墨桜(うすずみざくら)は江戸彼岸桜、滝桜(たきざくら)は紅枝垂桜(ベニシダレザクラ)です。
夕暮れ時、満開の花を纏(まと)った桜の古木の下に佇(たたず)んでいると、霊気が漂う雰囲気を感じます。
そこに昔の人は“神”を感じたのも宜(むべ)なるかなです。
今週の花材は、透き通る様な春の風です。
(福島県立医科大学理事長 菊地臣一)
今週の花
【理事長室】
■オオバベニカシワ トウダイグサ科/落葉低木/若葉が鮮やか
な紅色で丸みを帯びる。葉色は日を追うごとに褪せ、梅雨時期には緑
色になる。雌雄同株、雌雄異花で、雄花は穂状花序。雌花は苞とガク
だけで花弁は無く、紅色の糸状の花柱が出る。
■アナスタシア〔ブロンズ〕 キク科/多年草/花弁は花火のよう
に広がった大きな菊。一般的な菊と異なり、細く繊細な花弁が特徴。
■トルコギキョウ〔グラナスライトピンク〕 リンドウ科/多年草/アメ
リカ原産で、当初は紫の一重咲のみ。1970年代以降に多彩な花色
や花形が楽しめるようになる。 現在出回っている大半の品種が日本
産。「グラナスライトピンク」は花弁にフリンジが入る中大輪八重咲。
■ユーカリ〔テトラゴナ〕 フトモモ科/常緑高木/枝先に1.5cm
程のベル型の実を多数つける。果実は木質で硬く、先端部に穴が開
く。ドライフラワーにも適し、リースの材料に利用される。
■ナルコユリ スズラン科/春にスズランのような白い小さな花が
咲く。葉に斑が入り、涼しげな印象のグリーン。とても強健な性質でガ
ーデニングにも最適。
※拡大写真
http://www.fmu.ac.jp/univ/hana/3611.jpg
■オオバベニカシワ トウダイグサ科/落葉低木/若葉が鮮やか
な紅色で丸みを帯びる。葉色は日を追うごとに褪せ、梅雨時期には緑
色になる。雌雄同株、雌雄異花で、雄花は穂状花序。雌花は苞とガク
だけで花弁は無く、紅色の糸状の花柱が出る。
■アナスタシア〔ブロンズ〕 キク科/多年草/花弁は花火のよう
に広がった大きな菊。一般的な菊と異なり、細く繊細な花弁が特徴。
■トルコギキョウ〔グラナスライトピンク〕 リンドウ科/多年草/アメ
リカ原産で、当初は紫の一重咲のみ。1970年代以降に多彩な花色
や花形が楽しめるようになる。 現在出回っている大半の品種が日本
産。「グラナスライトピンク」は花弁にフリンジが入る中大輪八重咲。
■ユーカリ〔テトラゴナ〕 フトモモ科/常緑高木/枝先に1.5cm
程のベル型の実を多数つける。果実は木質で硬く、先端部に穴が開
く。ドライフラワーにも適し、リースの材料に利用される。
■ナルコユリ スズラン科/春にスズランのような白い小さな花が
咲く。葉に斑が入り、涼しげな印象のグリーン。とても強健な性質でガ
ーデニングにも最適。
※拡大写真
http://www.fmu.ac.jp/univ/hana/3611.jpg
【秘書室】
■ブルースター〔ブルーエンジェル〕 ガガイモ科/多年草/《名前
の由来》淡い水色の5枚の花弁が星のように咲くことから/花はベル
ベットのような質感で、葉は産毛に覆われている。 「ブルーエンジェ
ル」は従来の品種に比べ、ひと回り花が大きい。
■アンスリュウム〔みどり〕 サトイモ科/常緑多年草/光沢があり
造花と見間違うような花。花弁のように見える団扇状の部分は苞で棒
状の部分が花序。
■トルコギキョウ〔アンバーダブルポップ〕 (理事長室と同花材)
「アンバーダブルポップ」は発色の良い緑色。花弁が厚く巻きが多い。
※拡大写真
http://www.fmu.ac.jp/univ/hana/3612.jpg
■ブルースター〔ブルーエンジェル〕 ガガイモ科/多年草/《名前
の由来》淡い水色の5枚の花弁が星のように咲くことから/花はベル
ベットのような質感で、葉は産毛に覆われている。 「ブルーエンジェ
ル」は従来の品種に比べ、ひと回り花が大きい。
■アンスリュウム〔みどり〕 サトイモ科/常緑多年草/光沢があり
造花と見間違うような花。花弁のように見える団扇状の部分は苞で棒
状の部分が花序。
■トルコギキョウ〔アンバーダブルポップ〕 (理事長室と同花材)
「アンバーダブルポップ」は発色の良い緑色。花弁が厚く巻きが多い。
※拡大写真
http://www.fmu.ac.jp/univ/hana/3612.jpg