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理事長室からの花だより

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理事長室からの花だより

2016.05.27

vol.366  − 痛 (いたむ) −

山河は移ろっていました。ニセアカシアの白い花が道や河岸を飾っています。
里山には野生の藤、畑の隅には桐、室内には都忘れ(ミヤコワスレ)の紫が季節を教えてくれています。
早朝、郭公(カッコウ)を始め、鳥の鳴き声が賑(にぎ)やかです。

シンガポールへの出張、20年振りの再訪です。近未来の都市国家に変貌していました。
ガーデンシティ(庭園都市)の異名もあるシンガポール、その存在を知ったのは1965年のマレーシア連邦からの分離独立を報じる新聞記事です。国が協議して分かれるという事実に、当時、奇異な感じを持ちました。
国土は小さい島だけ、水もなく、野生の自然が殆(ほと)んど消滅しているなか、多民族国家として生きる道は、今の姿しかなかったのです。

海岸に聳(そび)え立つ3つの高層ビル、その屋上に舟のように巨大な建造物が鎮座しています。
シンガポールの象徴(ランドマーク)ということです。湾の対岸にはチーズかアイスクリームをスプーンで削り取ったような曲線を持った高層ビル群が乱立しています。

高層ビル群の妖(あや)しげな夜景、既視感(デジャビュ)があります。香港です。
英国の植民地、英語が準公用語、住民の大多数は中国系です。地政学的な要素なのか、民族的な背景がそうさせるのか、2つの都市国家の似た姿は宿命なのでしょうか。

         南の島とほき旅にて夜々仰ぐ
         真澄みの空に月盈(み)ちゆくを
                             窪田章一郎

赤道直下のシンガポール、高温多湿の地での月見、祖国でみるそれとは全く違います。環境のせいでしょうか、己の受け止め方のせいでしょうか。

高層ビルの標示は、銀行か投資会社の名前です。沖合をみれば多数の船舶が往き交っています。
シンガポールという国家が、国際金融と貿易で生きているという何頼(なにより)の証(あかし)が目の前に展開しています。

20年前にはなかった海岸に立つ巨大な建物、己にはブリューゲルの絵画に描かれた「バベルの塔」、屋上の舟形の建物はノアの方舟(はこぶね)のようにみえます。
植物園さえもすべて巨大なオブジェ風の建物のなかにあり、奇妙な人工物と人工の森が取り合わせてあります。
徹底した人工の機能と美の追求、独立国家として生きていく為に否応無し(いやおうなし)に迫られる無国籍化、国民の深い哀しみを感じます。

国際学会で久し振りに会う友人や知人から、「日本に居る時と表情が違う」と言われてしまいました。
気がつけば国内に居る時はいつも冷たい手指です。海外に居ると、日中でも暖かいのです。口の悪い弟子の一人は「赤ん坊の様(よう)、眠たいのでは」と言っていました。

帰国して触れる祖国の風、爽やかです。
届いていた原稿に日付けが変わるまで手を入れ、心身を切り替える為に早朝、漫(そぞ)ろ歩きをしました。

躑躅(ツツジ)の季節は過ぎ、緑の生垣の隙間や日陰には小昼顔(コヒルガオ)の淡桃色(たんとういろ)、オオイヌノフグリの“天上の青”、そしてドクダミの鮮烈な白がしっかりと存在を主張しています。
懸命に咲いているこれらの、一見、“野草”、“雑草”と片付けられる花々、心惹かれます。

歩道には散ったマロニエの花が散り敷かれており、季節の巡りが“今”を知らせてくれています。
地上を吹き渡る風、シンガポールの街を飾っていたブーゲンビリアとは違った慎ましやかな草花、海外に出掛ける度に、歳を重ねた今でも尚、“和”を考えています。

5月20日(1994、平成6年)、「表紙だけ変えても意味がない」と首相就任を断った会津人である伊東正義が亡くなっています。享年80の生涯です。

今週の花材、様々な花の色が緑で引き立てられ、爽やかさをみせてくれています。


(福島県立医科大学理事長  菊地臣一)


今週の花


【理事長室】
■コバノズイナ  ユキノシタ科/落葉低木/
花期は6〜7月頃で、黄白い小花を穂状につ
ける。涼しげな印象と秋の紅葉も綺麗で庭木と
しても人気。 主に別名の 「姫リョウブ」 の名で
流通。
■紫センダイハギ    マメ科/多年草/《名
前の由来》黄色い花が咲くセンダイハギに似て
いることから/ 花期は5〜8月頃で、青紫色で
蝶型の花を房状に咲かせる。花後はソラマメに
似た実が出来る。
■アンスリュウム〔チアーズ〕   サトイモ科/
常緑多年草/造花と見間違うような光沢のあ
る独特の花姿。花弁のような部分は苞で、棒
状の部分が花。主に苞を鑑賞するため、非常
に長く楽しめる。
※拡大写真
http://www.fmu.ac.jp/univ/hana/3661.jpg

【秘書室】
■カーネーション   ナデシコ科/多年草/江戸時代にオ
ランダから渡来。母の日の花として古くから親しまれる。
「プラドミント」 ライトグリーンで爽やかな花色。
「みやび」 ベージュ地に濃赤の絞り模様が入る。
■ドラセナ〔ソングオブインディア〕   リュウゼツラン科/
日本で流通する観葉植物の代表種。「ソングオブインディア」
は笹のような細長い葉で黄斑が入る明るい葉色。他に葉色
が濃い「ジャマイカ」や新芽にだけ斑が入る「スリランカ」等も
ある。
■ギボウシ    ユリ科/多年草/斑入りやブルー系ライム
系など、葉色が綺麗で観賞価値の高いグリーン。初夏から秋
にかけて花を咲かせる。 花の寿命は短く1日で萎むため「デ
イリリー」の英名をもつ。
■アイビー〔ホワイトワンダー〕   ウコギ科/常緑蔓性植物
/ 地面やフェンス等を這うように育ち、 壁面緑化にも利用さ
れる強健な植物。葉色や葉形など多岐にわたり品種が豊富。
「ホワイトワンダー」は丸みを帯びた葉形で白斑が入る品種。
※拡大写真
http://www.fmu.ac.jp/univ/hana/3662.jpg

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