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理事長室からの花だより

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理事長室からの花だより

2009.03.09

vol.24  − 日本の文化〜続〜 −

伊豆から早、桜の便りです。福島では、この季節、梅や咲き残った寒椿に雪が彩りを添えることがあります。この色の対照の妙は、医師で歌人でもあった上田三四二も随筆の中で述べています。

この時期、北国の人々は桜の開花を待ち侘びて、気分も高揚してきます。福島県は広大な面積を有しており、ある地域は冬でも、一方には春の到来があります。そんな風土故か、万葉集でも現在の福島県各地の歌が詠まれています。その後も、能因法師の「都をば霞とともにたちしかど秋風ぞ吹く白河の関」(本当は来ていないという説もありますが…)や、百人一首の「陸奥(みちのく)のしのぶもちずり誰ゆえに乱れそめにし我ならなくに」などが人口に膾炙しています。

これから生きるであろう時間が、これまで生きてきた時間より長いと確信していた若い頃、寒空に凛として咲く梅に強く心惹かれていました。この時間の分岐点が逆転し、断念を積み重ねるとともに桜の散り様に魅了されるようになりました。

古来、桜と言えば山桜です。福島での桜の歌は「吹く風を勿来の関と思へども道もせに散る山桜かな(源義家)」が余りにも有名です。散る桜に焦点を当てているところをみると、日本人は昔から散る桜に「儚さ」や「無常」をみていたのでしょう。

私にとって無常や儚さを感じさせる音楽といえば、メアリ・ブラックの歌うYour LoveとFull Moonです。普段はライナーノートを読まずに聴いているのですが、この2曲が心に沁みて、ライナーノートを読んでみました。亡き人を悼う(偲ぶ)歌であることを知り得心しました。

私自身、葉が先に出る山桜の美しさを初めて知ったのは、昔勤務していた奥会津へ大学から毎週通っていた時です。山奥に散在して自生している山桜を遠景でみたとき、古人の気持ちが理解出来たように思いました。この時期には、道端に辛夷(こぶし)の大木が花を咲かせており、この時期だけは、毎週の長い道中を心待ちにしていた日々でした。一方、舞い散る染井吉野を一段低くみる人もいますが、上田三四二も指摘しているように、日本人の美意識に合致しているから、これだけ皆に愛されているのでしょう。

ちなみに、福島には、東の滝、西の薄墨と称されるうちの「滝桜」という古木が三春という地にあります(http://www.fmu.ac.jp/univ/hana_img/24_takizakura.jpg)。僧徳一が寺院を開いた会津の地にも、古くから人が定住していたからでしょうか、会津の五桜という一見する価値のある古木があります。今年の春、山間に咲く桜を見に、是非会津の地を多くの人に訪れて欲しいものです。


(福島県立医科大学理事長 菊地臣一)

今週の花


【理事長室】
■チューリップ
ユリ科 球根植物
原産:中央アジア〜地中海沿岸
《名前の由来》ターバンを意味するトルコ語に由来する。
原種系のチューリップなので、一般的なチューリップに比べ茎が
細く花も小さい。
原種系は丈夫で、植えっぱなしでも翌年咲くのでロックガーデン
などで人気。
ミニチューリップや姫チューリップの名で鉢植えでも流通。

■ラナンキュラス(エムグリーン)
キンポウゲ科 球根植物
原産:西アジア・ヨーロッパ
《名前の由来》ラテン語の蛙(ラナ)に由来し、蛙がたくさんいる湿
地に自生することから。
全く違うものに見えるが、vol.22に秘書室で使用した花と同じ(コ
ートミックス)。
ラナンキュラスは幾重にも重なる薄く柔らかい花弁がバラのよう
に咲くが、エムグリーンは厚みがあり硬そうに見える。
一見すると葉っぱのようにみえる緑色が特徴の花。



【秘書室】
■エピデンドラム
ラン科 非耐寒性常緑多年草
原産:中南米
Vol.23に秘書室で使用したカトレアの近縁種。
星型に咲く小さな花が集まって一つの大きな花のように見える。
蘭の鉢植えのなかでも丈夫で栽培しやすく人気。
次々と花が咲くので、切花にしても非常に日持ちする。

■啓扇桜
バラ科
冬に咲く桜として人気の枝物用の園芸品種。
寒冷な気候を利用した促成栽培により、12月〜3月頃に出荷され
る。
花は小ぶりだが花付きがよい。
薄紅色の花が咲き始めると香りも楽しめる。



(写真:伊藤俊一 氏)

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