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理事長室からの花だより

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理事長室からの花だより

2016.06.17

vol.369  − 措 (おく) −

ここ信夫の里では、今、日の出が最も早く(4時16分)、4時には明るくなり、鳥がさえずり始めます。
日の入りは、もう少し遅くなります(6月22日〜7月4日、19時4分)。

長く続いていた日照り、ようやく雨が降りました。“喜雨(きう)到る”です。
咲き残っている躑躅(ツツジ)、薔薇(バラ)が退いて、茂(しげ)れる緑葉が主役です。
光と雨に磨かれて樹々の緑が、今、一番輝いています。

         あらたふと青葉若葉の日の光
                           芭蕉

日の光を浴びている葉の緑、神々しいまでに輝いている様(さま)に、作者の感動が伝わります。

樹々の葉を濡らしている雨、“緑雨”(りょくう)です。そのなかで立葵(タチアオイ)が存在感を放っています。

紫陽花(アジサイ)が今の主役です。
己の幼い頃の環境が、この花に対する思いを屈折したものにしていました。
         (vol.36 http://www.fmu.ac.jp/univ/cgi/hana_disp.php?seq=60
         (vol.140 http://www.fmu.ac.jp/univ/cgi/hana_disp.php?seq=173
         (vol.179 http://www.fmu.ac.jp/univ/cgi/hana_disp.php?seq=213
         (vol.225 http://www.fmu.ac.jp/univ/cgi/hana_disp.php?seq=262
この頃、ようやく心に波風を立てずに観ることが出来ます。

梔子(クチナシ)の香り、姿、心惹かれます。
         (vol.35 http://www.fmu.ac.jp/univ/cgi/hana_disp.php?seq=55
         (vol.134 http://www.fmu.ac.jp/univ/cgi/hana_disp.php?seq=167
         (vol.181 http://www.fmu.ac.jp/univ/cgi/hana_disp.php?seq=215
室内に飾っておくと、香りは部屋に満ち、それだけで落ち着きます。

3月や5月の連休が一つの区切りなのでしょうか、独りであるいは老夫婦で切り盛りしている小料理屋や居酒屋の廃業、閉店が目につきます。東京も例外ではありません。後継者を見つけることが難しかったり、都市の再開発が理由です。旧(ふる)い人間には寂しい現実です。
その背景に、職人さんの子供が後を継がないことと一脈(いちみゃく)通じるモノがあるのでしょうか。

己が懐かしがっているのは、“古典酒場”です。昭和の風情(ふぜい)漂う店です。年季の入ったカウンター、テーブル、椅子、何の飾りも無い、すっきりした徳利が、“止まり木” に憩う働く男達の相手をしていました。
“心の憂(う)さの捨てどころ”です。

江戸時代に源を発する居酒屋の変遷(飯野亮一)は、己の経験だけでも劇的な変わり様(よう)です。
大学卒業の年にウイスキー等の洋酒(今は死語か)が完全自由化されました。その頃から、居酒屋のチェーン化が急速に拡大しました。
全国どこへ行っても、似たような店構えが増えました。そこでは、料理の腕や酒の知識といったプロの技は必要ありません。日本酒は、まずく、二日酔いの原因と敬遠されたのもこの頃です。

日本酒の復権は、昭和も最後の頃です。平成に入って日本酒の等級制も廃止されました。
健康志向から焼酎が注目されるようになってきたのも、昔のことではありません。

今は、若者が“平成の酒場”を創るべく努力しています。
“酒場は時代を映す鏡”です。世の中の移ろいとともに酒場も変わっていきます。

昔の己にとっての酒席は、“人生の道場”といった趣(おもむき)です。先輩に声を掛けて連れていってもらい、慰められたり、励まされたり、愚痴を聞いてもらったりしました。己には有り難い場でした。
今は、そのような気配はあまり感じられません。酒場に求められるモノが変わってきているのかも知れません。

居酒屋の歴史は戦国時代に遡(さかのぼ)るようです。貨幣経済の浸透と軌(き)を一(いつ)にしています。
酒場の彼我の違いもあります。
欧州では、18世紀から文献に頻繁に登場します。飲食や売春のみならず、集会、銀行、裁判所、病院、結婚披露宴などの機能を有していました(海野弘、下田淳)。
一方、我が国では、欧州のような多機能を持つ場とはならず、機能を神社・仏閣と棲み分けしていました。

今も、人々が、ほの暗い、狭く、包み込まれるような酒場を好むのは、人類の太古の記憶の残影でしょうか。

今週の花材は、雨の季節にふさわしい瑞々(みずみず)しい緑と色の組み合わせが印象的です。


(福島県立医科大学理事長  菊地臣一)



今週の花


【理事長室】
■アガパンサス〔テンツ〕    ユリ科/多年草/《名前の
由来》ギリシャ語の“アガベ”(愛)と“アンサス”(花)の2語か
ら/花期は6〜7月で、長く伸びた茎の先端に多数の花を放
射状に咲かせる。爽やかな涼感のあるブルー系の品種が豊
富。強健な性質で手がかからず、公園などの植え込みにも
人気。
■ガマ   ガマ科/多年草/日本全土の川辺や沼、池など
の湿地に群生。草丈は1.5〜2mになり、ショウブの葉を大
型にしたような線形。花序は2段に分かれ、下方が雌花序、上
方が雄花序。花粉を乾燥させたものが生薬の蒲黄(ほおう)。
■粟(アワ)   イネ科/一年草/五穀のひとつ。米より前
に栽培され、稗(ヒエ)とともに主要な食糧だった。エノコログ
サ(猫じゃらし)から分化したとされる。
■ギボウシ   ユリ科/多年草/斑入りやブルー系、ライ
ム系など葉色がとても綺麗で観賞価値の高い葉。初夏から
秋にかけて花を咲かせる。花の寿命は短く1日で萎むため、
英名は「デイリリー」。
※拡大写真
http://www.fmu.ac.jp/univ/hana/3691.jpg

【秘書室】
■オンシジュウム〔メイフェアトリニティ〕
ラン科/蝶が無数に舞飛んでいるような花姿。
約400種が熱帯亜熱帯地域に分布する蘭。
「メイフェアトリニティ」は両方の弁がリップ化し
他の品種より花が大きい。オンシ独特の斑も
入らず、蛍光色のような鮮やかな黄色。
■バンダ    ラン科/樹木や岩肌に根を張り
つかせて育つ着生蘭。洋ランの中でも特異な
ブルー系が美しい花色の品種が豊富。花弁は
大きな丸弁で網目模様が入る。
■クロトン   トウダイグサ科/常緑低木/葉
色・葉形など多品種ある肉厚な葉。切花として
も丈夫で、長期間鮮やかな葉色が楽しめる。
沖縄などの暖地では生垣などにも利用される。
※拡大写真
http://www.fmu.ac.jp/univ/hana/3692.jpg

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