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理事長室からの花だより

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理事長室からの花だより

2016.07.08

vol.372  − 設 (しつらう) −

二十四節気で小暑(しょうしょ)、梅雨(つゆ)がそろそろ明け、暑くなってくる時季です。

水に恵まれているという点では、我が国はこれ以上ない環境を享受しています。
梅雨もそうです。以前の梅雨は、“しとしと”と降り、山河、田畑を潤していました。只、近年の梅雨は様相を異(こと)にしています。地域により水不足、他では豪雨です。

         ・・・・・
         この列島に生まれ、生き、
         死んだものの魂鎮め(たましずめ)のために、
         オホーツク海には祭壇が設けられ、
         そこから送り出される寒冷な気流を伴って、
         雨季はやってきているのである。
         ・・・・・
                                   井上 靖

少し前まで、“梅雨は霊気を帯びている”と先人達は信じていました。
人々は、そこに亡き人々の意志を感じていたのです。

凌霄花(ノウゼンカズラ)が咲き、合歓(ネム)の木も花をつけ始め、夏の到来が近いことを告げています。
着物は薄物になり、絽(ろ)、紗(しゃ)、上布(じょうふ)が登場します。
水羊羹もこの時季の風物詩です。

梅雨がもたらしてくれる雨音と静寂は、人間(ヒト)を、一時、物思いに誘(いざな)います。

“夢を語るよりも思い出に浸ることが多くなると、その人間は老人に分類される”と言います。
歳を重ねたせいか、昔の事どもを思い出します。あの日に戻りたいのではないのです。そこにあるのは、只々、過ぎ去った日々への懐かしさです。

亡き母の実家、天井の高い玄関に、大きな三和土(たたき)の土間がありました。そこには清浄感、ひんやりとした冷感と土の温かさが漂っていたのを子供心に憶(おぼ)えています。
三和土は、西洋建築にはない、日本建築を象徴する造作の一つです。和風建築が少なくなった今でも、玄関、軒下、庇下(ひさしした)にその名残りを見て取れます。

三和土は“里山”の哲学にも通じる日本人の知恵です。
本来の三和土は、赤土、石灰、砂利などに苦塩(にがり)を混ぜて、水を使って叩き固めた土間です。今は、土、モルタル、コンクリートなどで仕上げているようです。苦塩を入れるのは、土を固める目的の他に、土俵に塩を撒(ま)くのと同じく、“清め”の意味もあると言われています。
三和土の土間は、我が国独特のウチとソトの曖昧な境界空間です。

葦簀(よしず)も滅びつつある和の設え(しつらえ)です。
高度成長期の頃まで、季節が巡ってくると、葦簀の座布団と一緒に、どの家にもみられた風景です。
これも、建築様式の変化や空調設備の普及で少なくなりました。今は、わずかに海の家や野趣溢れる露天風呂の仕切りにみられる程度です。
簾(すだれ)や葦簀の作り出す光と影、和の風情です。己にとっては、その影の下での昼寝が思い出です。

尾形光琳の没後300年、様々な企画が催され、美術の愛好家には楽しい機会です。「光琳とその後継者たち」に足を運びました。
改めて感じるのは、絵画のなかに意匠を持ち込んだ彼の偉大さです。極端な省略や変形、色彩の際立つ配置で、今の世にまで影響を与えています。ポスターを芸術の域まで高めたとされている、ロートレックも多大な影響を受けたのでは…。

惹きつけられたのは、「白梅模様小袖貼付屏風」(はくばいもようこそではりつけびょうぶ)です。
光琳の梅が描かれた小袖を屏風に貼りつけています。帯を締めて着た時、帯からも枝が延び、袖の部分にまで、一体として描かれている意匠、そして屏風に仕立てるという発想に圧倒されます。

己も、随分昔、似たような事をしたことがあります。只同然で買った江戸時代の江戸褄(えどづま)の裾前(すそまえ)に描かれていた狐の嫁入り、この図案を掛軸に仕立ててもらいました。

今週の花材は、夏の到来を待つ色と姿の趣(おもむき)を呈しています。


(福島県立医科大学理事長  菊地臣一)



今週の花


【理事長室】
■エレムルス   ユリ科/1m以上の長い花
茎の雄大な植物。花穂1本あたりに300〜50
0の花が咲く。 砂漠に自生し、花姿から「デザ
ートキャンドル」の別名を持つ。
■リュウカデンドロン〔サファリサンセット〕
ヤマモガシ科/常緑低木/花弁のように見え
る部分は苞で、その中に花序がある。 非常に
花持ちが良く、ドライフラワーにも適す。「サファ
リサンセット」は赤茶色。
■ガマズミ   スイカズラ科/落葉低木/北
海道から九州にかけ、日当たりの良い山野に
自生。花期は5〜6月頃で、白い小さな花を密
集させ、円盤状に開花する。 秋に真っ赤に熟
す果実が美しく、鑑賞価値が高い。 実は甘酸
っぱく果実酒などに利用される。
※拡大写真
http://www.fmu.ac.jp/univ/hana/3721.jpg

【秘書室】
■カラー〔ピカソ〕   サトイモ科/球根植物/
花のように見える部分は苞で、その中に棒状の
花序を持つ。スタイリッシュな花形で人気の花。
「ピカソ」はクリーム地に紫の複色でシックな色
合い。
■カーネーション〔ノビオバイオレット〕
ナデシコ科/多年草/江戸時代にオランダか
ら渡来。 母の日に贈る花として古くから親しま
れる。「ノビオ」シリーズは紫やボルドーを基調
とした覆輪が綺麗な品種。
■ブラックベリー    バラ科/落葉低木・つる
性/耐寒性があり繁殖力も強く、初心者でも育
てやすいキイチゴの一種。自家結実性植物で、
自分の花粉で果実をつける。 花後1ヵ月程で
熟し、収穫期は6〜8月頃。
■粟(アワ)   イネ科/一年草/五穀のひと
つ。 米より前に栽培され、 稗(ヒエ)とともに主
要な食糧だった。エノコログサ(猫じゃらし)から
分化したとされる。夏から秋にかけて円柱上の
花穂をつける。
■てまり草   ナデシコ科/多年草/マリモや
芝を思わせる個性的な花。フサフサした部分は
花・雄しべ・雌しべが変化したもの。
※拡大写真
http://www.fmu.ac.jp/univ/hana/3722.jpg

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