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理事長室からの花だより

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理事長室からの花だより

2009.10.16

vol.50  − 秋 −

日々、薄くなっていく日捲り(ひめくり)暦が、今年の残り日が少ないことを無言のうちに教えてくれます。
気がつけば、起床するときに灯火をつける必要があり、大学へ向かう早朝、行き交う車には前照灯が点っています。

秋は、人に一時“人生”を考える時間を与えてくれます。秋を詠った詩が内外を問わず最も多いことがその証拠です。
高校(中学でも?)の古典・漢文(今もこう言うのでしょうか)の授業で、季節や人生の秋に関する古今東西の名歌を教えて戴いた記憶が鮮明に残っています。
「この道や行く人なしに秋の暮れ(芭蕉)」とか、
李白の静夜思「牀前(しょうぜん)月光を看る 疑うらくは是(こ)れ地上の霜かと 頭(こうべ)を挙げて山月を望み 頭を低(た)れて故郷を思う」、
そして自分の死の間近なことを客観視した正岡子規の、「庭中の松の葉におく白露の 今か落ちんと見れども落ちず」などは今でも口を衝(つ)いて出ます。高校や中学時代の教師に感謝です。

この季節、福島では市街地でも少しずつ紅葉が見られるようになってきています。
    林間 酒を煖めて 紅葉を焼き
    石上 詩を題して 緑苔を掃う
    惆悵(ちゅうちょう)す
         旧遊 復(ま)た到るなきを
                     (白居易の七言律詩の一節)  【一海知義『漢詩一日一首〈秋〉』より】

この詩の前段から、これが人生の辿り着くべき枯淡の境地なのだと理解できます。後段では、決して取り戻すことのできない過去に嘆惜を感じる年齢まで歩んできた今の自分に戸惑っています。
早くに亡くなった父は、晩年どんな心境だったのだろうと思わずにはいられません。と同時に、父の沈黙が私の記憶の大部分を占めており、曖昧だからこそ想い出が膨らむことと知ります。

地下鉄の車窓に映った吊り革の自分の手を見て、汽車通(当時は既にディーゼルカーでしたが、こういう言い方が当時は残っていました)の帰路に、車窓を通してみた暗闇に浮かぶ家々の灯り(当時は今でいう白熱灯が普通でした)をみて“各々の人生”を考えたこと、
怪我した包帯の白さが車窓に写っていて、それをずっと見続けて考えていたこと、
発売されたばかりの洗濯機の売り込みに、「包帯を洗うことが出来たら買う」と言った父に対して、団子のように塊になってしまった包帯に悪戦苦闘していた販売会社の方々、
子供の頃診察室で、大腿部を台にして包帯を手早く巻き戻す技を父に教えてもらったこと、
そして、後年私がそれをするのを見て入局を決意してくれたという学生、
こんなことが走馬燈のように脳裡に浮かんだ一瞬が最近ありました。

今週の花材、vol.8(http://www.fmu.ac.jp/univ/cgi/hana_disp.php?seq=14)に紹介した、静岡県立美術館の中村岳陵の「残照」を連想させませんか。


(福島県立医科大学理事長 菊地臣一)

今週の花


【理事長室】
■石化柳
ヤナギ科/石化柳は尾上柳の枝が石化した
もの(枝の上部が帯状に扁平)。茎の一部が
枯れ込んで成長がとまり、他が成長するため
曲がりくねる。曲がりくねった石化部分の動き
を生かして、生け花やアレンジに利用。
■ハナモロコシ
イネ科/観賞用のトウモロコシ。普通のトウモ
ロコシより小振りで、実の大きさは10〜15セ
ンチ程。実の色は茶、黒、紫などあり。そのま
まドライになり、リース等にもよく利用される。
※拡大写真
http://www.fmu.ac.jp/univ/hana_img/501.jpg
(無断転載等はご遠慮ください)


【秘書室】
■珊瑚水木
ミズキ科/《名前の由来》冬になると枝が珊瑚のような鮮やか
な色に染まることから/「白玉水木」の変種。初夏に白い小さ
な花が密集して咲く。秋に白い実を付ける(「白玉水木」の名前
の由来)。美しい枝色から枝のみが花材として出回る。
■ピンクッション(プラムレッド)
ヤマモガシ科/《名前の由来》針刺し(ピンクッション)に似た花
姿から/針山にまち針を多数刺したような個性的な花。南アフ
リカ原産の南国の花で、赤、黄色、オレンジなど鮮やかな花
色。非常に花持ちがよく、ディスプレイなどに適す。
■アンスリューム(テラ)
サトイモ科/《名前の由来》ギリシャ語の花(anthos)と尾
(oura)から。肉穂花序が尾のように見えることから。/花のよ
うに見える部分は仏炎苞と呼ばれる葉が変形したもの。本当の
花は苞の中心に伸びる棒のような部分(肉穂花序)。苞は光沢
があり花色も多様で、造花を思わせる。主に苞を観賞するが、
葉や実を観賞するアンスリュームもある。
※拡大写真
http://www.fmu.ac.jp/univ/hana_img/502.jpg
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