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理事長室からの花だより

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理事長室からの花だより

2009.11.27

vol.56  − 世情 −

年の初めにはその厚さにため息が出た日捲りカレンダーが、残り僅かとなってしまいました。
私は、日捲りカレンダーが好きです。“時”を否応なく意識させてくれるからです。
南会津に勤務していた頃に、東京から来ていた営業の方に日捲りカレンダーを戴き、それ以来毎年お願いして送ってもらっていました。来年からは経費節減を理由に廃止だそうです。これで、私のささやかな日々の儀式の一つが消滅です。“時”の愛おしさ、速さ、そして儚さを自らに意識させるのに“日捲り”は世間の知恵と思っていただけに残念です。経済情勢の悪化は、こんなところにも効率化を求めています。

このところの寒気襲来で、福島では吾妻の嶺々が冠雪し、朝日と雲一つない空を背景に屹立しています。
その佇まいは、出勤時の自分に、かじかんだ足先を感じながら畳に正座して心を落ち着かせていた子供の頃の寒稽古を、一瞬想い出させてくれます。
目を地上に転ずれば、通勤の国道沿いには、ドウダンツツジが紅葉の装いで、早朝の寒さの中でその鮮やかさを主張しています。私鉄駅への道すがらには、ホットリップス(チェリーセージの一種)の可憐な花弁が通勤・通学の人々を見守ってくれています。

毎週末、仕事に追われ、東御市梅野記念絵画館で開催されていた犬塚勉展へ足を運ぶことが叶いませんでした。幸い、スタッフの方に御教示戴き画集を手に入れることが出来ました。自然を徹底して凝視し、作者が自然に同化したと思わせる程の写生、見る人の胸に迫ります。
過日は、大倉集古館の特別展、根来(ねごろ NEGORO)を見てきました。(http://www.fmu.ac.jp/univ/hana_img/56_negoro.jpg) 長い間使い込み、結果として結実した赤と黒、そして刷毛目の織りなす“用の美”。民藝と同様に日本人が見出した美の一つです。白木の美と対極にありながら、その両者に美を見出す我が国の美意識の原点をみることができます。

満たされない心を満たそうとする動のエネルギー、禁欲的な生活様式から生み出された静のエネルギー、共通点は心の飢餓、あるいは貧しさ(清貧)でしょうか。
今という時代、我々が子供の頃に経験した“貧しさ”とは次元が違うことに違和感を覚えます。我々の経験した貧しさには切迫感がありました。小学生時代、白飯に醤油をかけて食べた記憶があります。配給米(と言っても今の人には理解不可能?!)の貸し借りを隣同士でやっていたことも知っています。そんな人間からみた現在の“貧しさ”は異次元の世界です。
もっとも、貧しさは悪いことばかりではなく、他者への思い遣り、貧しさや屈辱から脱しようと自らを律して努力する心が身についたようにも思います。

日々の生活を送るのに精一杯という時代を知っている人間は、「人間(ヒト)は曖昧な偽善の上に立って生きている」という人生知を身につけています。
周りでトラブルが発生しても闇雲に他人を指弾するのは躊躇してしまいます。何故なら、世の中の淡々とした営みは、その陰で昼夜の区別なく交代制で働いている多くの人の存在があって何とか成り立っているということを肌身で知っているからです。

今週の花材は、執務室は桐です。南会津に勤務していた時にみた紫の花が鮮やかに脳裡に甦ります。
秘書室は、青と白のコントラストが初冬に鮮烈です。カラーと言えば、パリのレストランで、バカラの筒のような花瓶に一本だけ活けてあるのを想い出しています。

(福島県立医科大学理事長 菊地臣一)

今週の花


【理事長室】
■キングプロテア
ヤマモガシ科/原産:南アフリカ/《名前の由
来》ギリシャ神話の海神「プロテウス」より。同
属とは思えないほど変異種が多いことから、
自由自在に変身できるプロテウスの名前にち
なんで/直径30cmにもなる大きな花で、花
の王様とも呼ばれる。圧倒的な存在感をもち、
ドライフラワーにもなる。原産地、南アフリカ共
和国の国花。
■桐
ゴマノハグサ科/原産:中国/飛鳥時代に渡
来。花期は5月頃で薄紫色の花が咲く。材は
日本の樹木の中でもっとも軽い。湿度の通過
性や熱伝導率が極めて小さく、箪笥や美術
品、高級品の収める箱に利用。菊とともに皇
室の紋章などに用いられ高貴に扱われる。福
島県の会津桐も有名。
※拡大写真
http://www.fmu.ac.jp/univ/hana_img/561.jpg
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【秘書室】
■カラー(ウェディングマーチ)
サトイモ科/原産:南アフリカ/《名前の由来》苞(花に見える部分)
がYシャツの襟に見えることから/江戸時代末期にオランダから渡
来。「ウェディングマーチ」は純白で、名前の通りブライダルで人気
の品種。
■デルフィニュウム(グラングルー)
キンポウゲ科/《名前の由来》蕾の形がイルカに似ていることから、
ギリシャ語のイルカ(delphin)より/ヨーロッパを中心に約250種
分布。「グランブルー」はスプレー咲き(シネンシス系)の中でもっと
も濃い青色。
■コットン
アオイ科/花期は夏で、同科のハイビスカスやムクゲに似た美しい
花が咲く。花後に実(コットンボール)をつけ、成熟すると弾けて中か
ら綿がでる。ドライフラワーとして流通し、ディスプレイやリース、アレ
ンジなどに利用。
※拡大写真
http://www.fmu.ac.jp/univ/hana_img/562.jpg
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