HOME > 理事長室からの花だより

理事長室からの花だより

新着 30 件

一覧はこちらから

理事長室からの花だより

2009.12.18

vol.59  − 歳月 −

間断なく降り頻る雨に洗われて、木々の緑や足元の枯葉が、冬枯れの景色に落ち着いたコントラストを醸しだしています。
木の葉や地面を叩く雨音が三階の執務室まで立ち登り、冬の静寂さを一層際立たせています。
(編集註 ※掲載日の18日は、福島市でこの冬初めての積雪となりました)

時の移ろいは、最も早い日の入りを既に過ぎ、早、春に向かって歩み始めました。一方、日の出はこれからも遅くなっていきます。我々の知らないうちに自然は、静かに、しかも確実に時を刻んでいます。そのことを思うとき、私は粛然とします。

また誕生日が巡ってきました。
若くして突然逝ってしまった父より長く馬齢を重ねてしまいました。自分の人生を何も語らず逝った父、戦後から晩年までの胸の裡に仕舞っていた心境を知りたいと頻りに思うようになりました。

男には、人生の中で正念場(転機)といえる時が何度かあります。
私にとっての誕生日は、「闘うべき時に、自分は闘ってきたか」、と省みて自らに問う日にしています。
「勇気とは決して恐怖の不在ではなく、恐怖を感じつつも威厳を持って前進する能力」(スコット・トゥロー「立証責任」)という教えは、「能力」を「覚悟」に置き換えれば、混迷の世を自分なりのベストを尽くして生きている人々に対する励ましのようにも聞こえます。

他人の人生をみて、羨ましく思うことはない、といったら嘘になります。
その時は「人生が教えてくれたことがある。それは、何事も見かけ通りではないということだ。誰か他人の靴が欲しくなったら、その靴で1、2キロ歩いてみることだよ。そうすれば多分欲しくなくなるだろう」(ジリアン・ホフマン「報復」)を思うことにしています。

誕生日とは、自らを戒める日であると同時に、昔の自分を懐かしむ日でもあります。
何故か、私は最終列車での車中の雰囲気を想い出します。それは、研究で、そして実家や身内に起こった突然の不幸への対応で東京と福島を長い間往復していた為に、強烈な印象として心の真ん中に残っているせいだと思います。
只、決して嫌な想い出ではありません。乗客のまばらな客車内は、静寂さと幾許かの寂寥感、疲労感で満たされ、鉄路音がバックグラウンドのように流れて、その雰囲気を一層際立たせていました。過ぎてしまえば、あの頃は辛かったと思える日々は、その後の人生を豊かにしてくれた試練であったと今は思えます。

「いい想い出は残りの人生を豊かにする。淡い夢や希望は墓場まで持って行った方がよい」(佐藤洋二郎「沈黙の神々」)のも事実です。
中国の酒の詩には最初は襟を正すような句が並び、最後に「だから人生を楽しもう」というのが多いような気がします。孔欣の「高楼の上に酒宴を張る」もその一つです。

     朝日 夕盛セ不(ず)
     川流 常ニ宵征ス。
     生ハ懸水ノ溜(た)ルル猶(ごと)ク
     死ハ波瀾ノ停マル若(ごと)シ。
     当年 意を得ルヲ貴ブ
     何ゾ能ク虚名ヲ競ハン。

亡くなる直前、畏友が掛けてきた電話に、手術場に居た為に私は出られませんでした。折り返し掛けたのですが、もう彼の声を聞くことは出来ませんでした。彼の生前好きだったというカーリ・ダサの「幸せな昨日は今日を楽しく、明日を希望に導く」を胸に秘めて、これからの人生、いい想い出を作ろうと心に誓う誕生日です。

今週の花材は、執務室の主役は金柑とユリです。私の誕生日を祝ってくれるかのような華やぎがあります。
秘書室は、青と白の組み合わせです。清楚と可憐さをみせてくれています。

(福島県立医科大学理事長 菊地臣一)

今週の花


【理事長室】
■金柑
ミカン科/原産:中国/花期は6〜7月頃で、
小さな白い花が咲く。柑橘類の中で最も小さ
く、一粒10gほどの可愛い果実。他の柑橘類
と異なり、主に皮を利用(食用)。皮のほうが、
香りが高く甘味も強い。
■LAユリ(セラダ)
ユリ科/鉄砲ユリ(ロンギフローラム)とスカシ
ユリ(アジアンティック)の掛け合わせ。それぞ
れの良いところを持ち合わせた中輪咲きのユ
リ。「セラダ」は鮮やかな濃黄の花色。
■行李柳
ヤナギ科/《名前の由来》行李(昔の物入れ)
を編むのに使われたことに由来/弾力のある
柳。古く朝鮮半島から渡来し、湿地帯に群生。
行李柳に似た日本の自生種はイヌコリヤナギ
で、冬芽が小豆色をしていることから「小豆柳」
の名で流通する。
※拡大写真
http://www.fmu.ac.jp/univ/hana_img/591.jpg
(無断転載等はご遠慮ください)

【秘書室】
■デルフィニュウム(トリトンライトブルー)
キンポウゲ科/ブルー〜ホワイト系の花色が豊富で、ヨーロッパを
中心に250種ほどある。スプレー咲きの可愛らしいものや草丈が
高く華やかなものも。今回のデルフィはジャイアント系の品種で、
ボリュームがあり豪華な印象をもつ。花弁に見える青い部分はガ
ク片。
■アルストロメリア(アバランジェ)
ヒガンバナ科・アルストロメリア科/南米に50種ほど分布する球
根植物。一本の茎からは花茎を伸ばし5〜8輪の花が咲き、さら
に二番花まで綺麗に咲くので、長期間花が楽しめる。花弁に独特
の斑が入る。「アバランジェ」は白色で黄色地に赤い斑が入る。
■クッカバラ
サトイモ科/イモ科の植物の中では比較的小さく、切れ込みの入
った濃緑色の葉。耐寒性耐暑性ともに強く、強健な性質。インテリ
アグリーンとしても人気がある。
※拡大写真
http://www.fmu.ac.jp/univ/hana_img/592.jpg
(無断転載等はご遠慮ください)

▲TOPへ