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理事長室からの花だより

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理事長室からの花だより

2009.12.28

vol.60  − 愛惜 −

お香を焚く心の余裕もない日々が続いています。

冬至(12月22日)が巡ってきました。柚子湯が昔からの風習です。ちなみに、福島が柚子の北限です。
私の子供の頃は、木綿の手拭いで作った袋に蜜柑の皮を入れて、冬の間、時々それを湯に浮かして香りを楽しんだのを記憶しています。残念ながら、柚子湯の記憶ははっきりしません。

失ったものでしか語れないことがあります。
年の瀬、街はLED照明で街路樹、街灯、そして建物までが電飾一色です。
見上げれば、上弦の月が一点の雲もない濃い群青の空に冴え渡った姿を見せています。
地上での光の洪水、私のような古い人間には、LED照明はエネルギー損失が少ないからと言われても、明る過ぎる夜と人工的な色調に違和感が拭えません。

この時期、都会の夕焼けが印象的です。
薄暮には天空の高い所は濃い青、そして地平線近くでは赤紫、その間の色調の変化は表現できません。ビルは黒いシルエットとなってスカイラインを描き、その背景は赤く輝いて近代抽象画をみるようです。田舎で見ていた山の夕焼けとは全く違います。闇になる直前にみせる、都会での一瞬の自然の輝きです。
都会でこの光景を何人の人が楽しんでいるのでしょうか。
“地上の煌めき”に目を奪われて、自然が与えてくれている「ほの暗さの美」を忘れてしまっているようにみえます。ほの暗さは人の心を和ませるのに…。

光と闇は一対で初めて成立しているのではないでしょうか。
屏風の金地や庭の白砂は、少ない光を効果的に室内に取り込むために考えられた工夫、と聞いたことがあります。生活の知恵が昇華されて美を生んだのでしょう。谷崎潤一郎の「陰翳礼讃」の時代に戻れとは言いませんが、闇をマイナスだけの感覚で捉えることには、一考を要するのではないでしょうか。

若さの儚さを若い人は気付きません。歳を重ねて、初めて二度と戻らない若さの儚さに気付きます。
それ故にこそ我々は、若さや青春時代を愛しく感じられるのでしょう。

クリスマスがまた過ぎていきました。
子供の頃に味わった、バターケーキで作ったクリスマスケーキが忘れられません。母が存命中に、もう一度味わいたいと思い、作ってくれる店を探してもらいました。どうにか見つけましたが、今は生クリームで作るのが普通だそうです。しかし、私にとってはクリスマスケーキと言えばバターケーキなのです。
クリスマスにケーキを食べるという子供の頃の習慣は、絶えて久しいのですが、何故か頻りに懐かしく感じられます。

今年最後の花だより、仕事納めには音の出るオンザロックで乾杯したいものです。
昔、“真”友の弟さんから南極のオーロラの写真と南極の氷を戴きました。この氷でウイスキーを飲んだとき、氷が溶けて、ビチ、ビチと空気の弾ける音を聞いたときは感動しました。今は、そういう氷が売られていると聞いていますが…。

今週の花材は、執務室は蝋梅(ロウバイ)です。今年最初の花だより(vol.18)でも蝋梅に言及しました。不思議な縁を感じます。(http://www.fmu.ac.jp/univ/cgi/hana_disp.php?seq=34
秘書室の花は、早春の到来を告げているようです。


(福島県立医科大学理事長 菊地臣一)

今週の花


【理事長室】
■ロウバイ
ロウバイ科/落葉低木/原産:中国/《名前の由来》蝋細工のよう
な梅に似た花が咲くことから。蝋月(陰暦の12月)に梅に似た花が咲
くことから、とも言われる/17世紀ごろに渡来。真冬に満開になる数
少ない花木。花弁が厚く、蝋のような質感の黄色い花が咲く。花は
非常によい芳香を放つ。
※拡大写真http://www.fmu.ac.jp/univ/hana_img/60_zoom1.jpg
(無断転載等はご遠慮ください)


【秘書室】
■ピンポン菊(セイトリニティ)
キク科/多年草/原産:オランダ/ピンポン玉のように
まん丸に咲く菊。菊の中でも非常に花持ちが良く長く楽
しめる。菊=仏事のイメージを変え、お祝い用のアレン
ジメントやウェディングブーケなどにも利用される。
■カーネーション(ノビオバーガンディ)
ナデシコ科/多年草/母の日の花として長く親しまれ
る。ノビオシリーズは紫やボルドーを基調とした複輪が
綺麗な品種。カーネーションは菊・バラとならび世界的に
みても生産量の多い主要花。日本国内での生産は約1
00年になり、近年は生産量が減少。コロンビアや中国
からの輸入が多い。
■ムギ
イネ科/一年草/原産:西南アジア/コムギ・オオム
ギ・ライムギ・カラスムギの4種。切花として流通するの
は主にオオムギ。ドライフラワーとしても利用できる。
■コチア
アカザ科/常緑低木/原産:オーストラリア/クリスマ
スツリーに雪が降り積もったような木。多肉植物のよう
なプクッとした白銀色の葉が特徴。この季節だけ流通す
る花材。
※拡大写真
http://www.fmu.ac.jp/univ/hana_img/60_zoom2.jpg
(無断転載等はご遠慮ください)

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