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理事長室からの花だより
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理事長室からの花だより
vol.61 − 嘆(歎)惜 (たんせき) −
新年を迎えました。このところ、福島では雪のない正月が続いています。
年末、年始での心の処し方が、子供の頃とは勿論、以前とは異なってきてしまいました。
新たな年を迎えるに当たっての覚悟とか心機一転の気持ちを持つのが難しくなってきています。
日々の仕事の区切り毎に、抹茶を喫するのを平常心への回帰の儀式としてきたのですが、それも惰性に流されがちになっている情け無い今の己に気付き、愕然としています。
世の中もハレ(晴れ)とケ(褻)の区別がなくなりつつあるように思います。
敗戦による伝統や慣習の否定、そして高度成長による若年層だけの都市移動は、伝統の継承に癒し難い傷をもたらしてしまいました。
子供の頃、師走になると父と一緒に里山に入り、伐り取ってきた松の枝に紙垂(しで)をつけて玄関に、重ね餅を井戸、敷地の角、そして床の間らしきところに置き、神棚には注連縄を飾りました。正月三が日は雑煮で通し、掃き掃除もしませんでした。子供には鬱陶しいものでしたが、絶えてしまった今は懐かしく想い出されます。
敗戦からもたらされた様々な変化が、こんなところにも影を落としていることを実感します。ここにも失ったものでしか語れない歴史が潜んでいます。
世の中が豊かになり、衣食住、振る舞い、言葉遣いにもハレとケの境界がなくなってしまいました。
子供の頃、洗い立ての衣服を着せてもらい、除夜の鐘を聞きながら、家紋の入った提灯を提げて(わずか50年前位のこと!)暗闇の中を八幡神社へ参拝に出掛けました。このときの心持ちは、今の祭り気分の元旦参りとは随分異なっていたように感じます。
去年、実家を取り壊し、神棚と仏壇を引き取りました。それ以来、毎朝、起床後は先ず灯明を灯して、線香を焚き、水と茶を供えて祈るのが日課になりました。この時だけは無心になれます。
年末、都心で火の用心の拍子木(ひょうしぎ)の音が聞こえました。隣組(今もあるのでしょうか)が交代で、拍子木を打ちながら廻った小学生時代を思い出しました。
大晦日、除夜の鐘を聴こうと耳を澄ませましたが聴こえませんでした。昭和50年代は都心部でも確かに聞こえたのですが…。
年末、追悼講演に長州に行ってきました。この旅で一番心打たれたのは、中原中也記念館でみた結核で亡くなる直前の絶筆とされる「四行詩」です。
おまえはもう静かな部屋に帰るがよい。
煥発(かんぱつ)する都会の夜々の燈火を後に、
おまえはもう、郊外の道を辿るがよい。
そして心の呟きをゆっくりと聴くがよい。
享年が何歳であっても、後から振り返ると晩年は晩年らしい心境に至っているのをみるとき、不思議な感覚に抱かれます。これもその人の全生涯を俯瞰出来る後世の人間の勝手な想像でしょうか。
今週の花材は、執務室には苔梅です。色合い、姿勢、いずれも日本的美の典型で、歌舞伎役者が見栄を切ったような佇まいです。このような立ち姿の良い人間になりたいのですが、“日暮れて道遠し”です。
秘書室は彩りの少ないこの時期、新年に相応しい新鮮な輝きを訪れる人に提供してくれています。
花守に感謝!
(福島県立医科大学理事長 菊地臣一)
年末、年始での心の処し方が、子供の頃とは勿論、以前とは異なってきてしまいました。
新たな年を迎えるに当たっての覚悟とか心機一転の気持ちを持つのが難しくなってきています。
日々の仕事の区切り毎に、抹茶を喫するのを平常心への回帰の儀式としてきたのですが、それも惰性に流されがちになっている情け無い今の己に気付き、愕然としています。
世の中もハレ(晴れ)とケ(褻)の区別がなくなりつつあるように思います。
敗戦による伝統や慣習の否定、そして高度成長による若年層だけの都市移動は、伝統の継承に癒し難い傷をもたらしてしまいました。
子供の頃、師走になると父と一緒に里山に入り、伐り取ってきた松の枝に紙垂(しで)をつけて玄関に、重ね餅を井戸、敷地の角、そして床の間らしきところに置き、神棚には注連縄を飾りました。正月三が日は雑煮で通し、掃き掃除もしませんでした。子供には鬱陶しいものでしたが、絶えてしまった今は懐かしく想い出されます。
敗戦からもたらされた様々な変化が、こんなところにも影を落としていることを実感します。ここにも失ったものでしか語れない歴史が潜んでいます。
世の中が豊かになり、衣食住、振る舞い、言葉遣いにもハレとケの境界がなくなってしまいました。
子供の頃、洗い立ての衣服を着せてもらい、除夜の鐘を聞きながら、家紋の入った提灯を提げて(わずか50年前位のこと!)暗闇の中を八幡神社へ参拝に出掛けました。このときの心持ちは、今の祭り気分の元旦参りとは随分異なっていたように感じます。
去年、実家を取り壊し、神棚と仏壇を引き取りました。それ以来、毎朝、起床後は先ず灯明を灯して、線香を焚き、水と茶を供えて祈るのが日課になりました。この時だけは無心になれます。
年末、都心で火の用心の拍子木(ひょうしぎ)の音が聞こえました。隣組(今もあるのでしょうか)が交代で、拍子木を打ちながら廻った小学生時代を思い出しました。
大晦日、除夜の鐘を聴こうと耳を澄ませましたが聴こえませんでした。昭和50年代は都心部でも確かに聞こえたのですが…。
年末、追悼講演に長州に行ってきました。この旅で一番心打たれたのは、中原中也記念館でみた結核で亡くなる直前の絶筆とされる「四行詩」です。
おまえはもう静かな部屋に帰るがよい。
煥発(かんぱつ)する都会の夜々の燈火を後に、
おまえはもう、郊外の道を辿るがよい。
そして心の呟きをゆっくりと聴くがよい。
享年が何歳であっても、後から振り返ると晩年は晩年らしい心境に至っているのをみるとき、不思議な感覚に抱かれます。これもその人の全生涯を俯瞰出来る後世の人間の勝手な想像でしょうか。
今週の花材は、執務室には苔梅です。色合い、姿勢、いずれも日本的美の典型で、歌舞伎役者が見栄を切ったような佇まいです。このような立ち姿の良い人間になりたいのですが、“日暮れて道遠し”です。
秘書室は彩りの少ないこの時期、新年に相応しい新鮮な輝きを訪れる人に提供してくれています。
花守に感謝!
(福島県立医科大学理事長 菊地臣一)
今週の花
【理事長室】
■苔梅
バラ科/原産:中国/《名前の由来》苔の付いた梅/苔松は人の手を入れた“ハリ苔”が多いのに対し、苔梅は自然に苔がついたもの。ハウス栽培などの花に比べ、長い年月をかけて自然に育まれた魅力のある枝物。松、竹とならび長寿をあらわす縁起のよい木とされ、お正月にかかせない花。花が咲き始めると甘い香りも楽しめる。古来から親しまれ、万葉集では桜の花よりも梅の花を詠ったものが多い。
※拡大写真http://www.fmu.ac.jp/univ/hana_img/61_zoom1.jpg
(無断転載等はご遠慮ください)
■苔梅
バラ科/原産:中国/《名前の由来》苔の付いた梅/苔松は人の手を入れた“ハリ苔”が多いのに対し、苔梅は自然に苔がついたもの。ハウス栽培などの花に比べ、長い年月をかけて自然に育まれた魅力のある枝物。松、竹とならび長寿をあらわす縁起のよい木とされ、お正月にかかせない花。花が咲き始めると甘い香りも楽しめる。古来から親しまれ、万葉集では桜の花よりも梅の花を詠ったものが多い。
※拡大写真http://www.fmu.ac.jp/univ/hana_img/61_zoom1.jpg
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【秘書室】
■大王松
マツ科/原産:北アメリカ/《名前の由来》マツ属の中で、もっとも長い葉をもつことから/明治時代に渡来。原産地では樹高50mを超えるものもある。
■千両
センリョウ科/原産:インド・日本・マレーシア/不浄なものを清めるとされる赤い実を付け、また「千両」という名前が縁起が良いことから、お正月飾りにかかせない花(実)。黄色の実を付ける黄千両もある。
■葉ボタン
アブラナ科/《名前の由来》幾重にも重なった葉が牡丹のように美しいことから/キャベツのような観賞用の葉。大輪、小輪や紅葉、白葉、縮れ葉など多品種あり。寒さに強く、花の少ない時期に花壇を彩る貴重な植物。門松やお正月飾りに利用される。
■アンスリューム
サトイモ科/原産:中南米/エナメル質のような光沢と立体感のある形の花(苞)。花弁のように見えるのは花でなく苞なので、非常に長く楽しめる。今回は真っ赤なアンスリュームを使用。
※拡大写真http://www.fmu.ac.jp/univ/hana_img/61_zoom2.jpg
(無断転載等はご遠慮ください)
■大王松
マツ科/原産:北アメリカ/《名前の由来》マツ属の中で、もっとも長い葉をもつことから/明治時代に渡来。原産地では樹高50mを超えるものもある。
■千両
センリョウ科/原産:インド・日本・マレーシア/不浄なものを清めるとされる赤い実を付け、また「千両」という名前が縁起が良いことから、お正月飾りにかかせない花(実)。黄色の実を付ける黄千両もある。
■葉ボタン
アブラナ科/《名前の由来》幾重にも重なった葉が牡丹のように美しいことから/キャベツのような観賞用の葉。大輪、小輪や紅葉、白葉、縮れ葉など多品種あり。寒さに強く、花の少ない時期に花壇を彩る貴重な植物。門松やお正月飾りに利用される。
■アンスリューム
サトイモ科/原産:中南米/エナメル質のような光沢と立体感のある形の花(苞)。花弁のように見えるのは花でなく苞なので、非常に長く楽しめる。今回は真っ赤なアンスリュームを使用。
※拡大写真http://www.fmu.ac.jp/univ/hana_img/61_zoom2.jpg
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