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理事長室からの花だより

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理事長室からの花だより

2010.03.05

vol.68  − 春の訪れ −

夜明け前、庭の後ろの河原辺りから、せせらぎに交じって鳥の鳴き声を今年初めて聞きました。
鳥に関しては全く知識がないので何の鳥かは知りません。只、この鳥の鳴き声が聞こえると、福島の地にも春到来です。

この時季、手術室から部屋へ戻るとき、ライトコートに面した窓から抜けるような青空が見え、強烈な日差しをガラス越しに浴びます。快い疲労感と達成感を感じている身体は、シャワーを浴びている感覚に似ているものを感じます。
手術室から出たところに、このような設(しつら)いを整えたのは、設計者の意図的なものか、あるいは偶然に出来たものかは判りません。只、「偶然の一致というのは、医学の診断にはときにはあるが、大体において、それは頭だけの怠け者を慰めてくれる神様の思し召し」(「致死量」マイケル・パーマ−)だそうですから、設計者のプロとしてのセンスに脱帽です。

春近い冬の青空は、一時、自らを省みる時を与えてくれます。
この歳になると「自分が何者であり、何をしたいのか、まるでわかっていなくても、それでも生きていけることを否応なく知らされる」(「感情の法則」北上次郎)ことを、遅まきながら気付かされます。と同時に、取り戻せない昔のことが頻りに想い出されます。
自分で設計して作ってもらったレコード棚をみると、初めて自分でレコードを買ったのは、中学時代です。「エリーゼのために−ローゼン・ピアノ・アンコール−」というEP盤です。ピアニストはジョエル・ローゼンという名前でした。次がハンス・ホッターのシューベルト「冬の旅から」、そして島崎藤村の詩の朗読でした。値段をみると600円です。当時の感覚でいえば相当高い値段の筈です。

昔を懐かしむとき、必ず哀しみが入り交じります。
このかなしみには、「悲しみ」、「哀しみ」、あるいは「かなしみ」と様々な表現があります。私は、諦念(ていねん)を含んだ抑えた感情の表現には、「哀しみ」の方が「悲しみ」より相応しいように思っています。
我が国の詩歌や物語に通底している「哀しみ」の感情に以前から関心がありました。これに答えてくれる本が出ました。「『かなしみ』の哲学」(竹内整一)です。今まで抱いていた多くの疑問に得心がいきました。

今週の花材は、執務室が黒目柳で主役を張っています。美しく、そして勁い立ち姿です。
秘書室は、春を代表するチューリップにユーカリが脇を固めています。女性らしい美と、凛とした働きぶりを表現しているようです。

(福島県立医科大学理事長 菊地臣一)

今週の花


【理事長室】
■黒目柳   ヤナギ科/落葉低木/ネコヤナギの変種。ネコヤナギは猫の尻尾のような銀白色のフワフワした絹毛の花穂をつける。黒目柳は暗紅色〜黒色の花穂をつけ、枝も赤みを帯びている。
■アンスリューム(トロピカルナイト)   サトイモ科/原産 中南米/《名前の由来》ギリシャ語の花(anthos)と尾(oura)の2語から。肉穂花序が尾のように見えることに由来/花弁のように見えるハート型の部分は苞で、棒状の部分が花。光沢があり造花のような苞を主に観賞するので、非常に長く楽しめる。トロピカルナイトは大輪で赤茶系のシックな花色。
※拡大写真http://www.fmu.ac.jp/univ/hana_img/68_zoom1.jpg
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【秘書室】
■チューリップ(ダブルプリンセス)   ユリ科/球根植物/原産:中央アジア〜地中海沿岸/《名前の由来》ターバンを意味するトルコ語に由来。チューリップを見たローマの大使が名前を聞いたところ「ターバンに似た形」と間違って答えたことから/春を代表する誰もが知っている花。現在8000品種以上あり、開花時期や花形などによって15系統に分類されている。ダブルプリンセスは紫がかった明るいピンク色の八重咲き種。

■ユーカリ・テトラゴナ   フトモモ科/原産:オーストラリア/ユーカリの一種。枝先に1.5cmほどのベル型の実を多数つける。果実は木質で硬く、先端部に穴があく。非常に長く楽しめ、ドライフラワーにも適す。リースの材料にも利用される。
※拡大写真http://www.fmu.ac.jp/univ/hana_img/68_zoom2.jpg
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