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理事長室からの花だより
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理事長室からの花だより
vol.72 − 別離 −
今朝(執筆日:3月23日)、鶯(うぐいす)の声で眠れぬ夜が明けました。今年初めての鶯の来訪です。
約20年間、この時季、鶯が庭を訪れてくれています。鶯の寿命がどの位か分かりませんが、もし世代を繋いでいるとしたら、それはどう伝えられていくのか知りたいものです。
早朝での庭、鶯、
無人境うぐひす庭を歩りきけり (召波)
うれしくもわがものにして聞てけり このあかつきの鶯の声 (一葉)
彼岸の前後、鉄路からみえるあちこちの南向きの墓地に、彩り豊かな花が供えられているのをみることができます。彼岸は、あの世の死者と現世に残された者が出会うときでもあります。
この時季は、私にとっては、同世代の歌集を繙く時でもあります。松岡達宜(1948年生まれ)の「青空」は、我々の人生に深刻な影響を与えた大学紛争時代の1960年〜70年代の空気を伝えてくれます。その空気とは、“哀切”、“時代遅れ”、あるいは“虚しさ”のようなものです。
擦り切れしレコオド廻る夜の窓「左腕さみし」と告げゆくは風・風……
(著者注:マル・ウォルドロン「レフト・アローン」というジャズの名盤の迷釈を詩にした)
アメリカン・ブルーという名の煙草すう汝の指先に揺れる海波(さざなみ)
そして、福島泰樹(1943年生まれ)の戦没学生らへの「鎮魂」の評論集である「悲しみのエナジー −友よ、私が死んだからとて−」は、我々が失ってしまった「覚悟」、そして弱い人や貧しい人への「共感」を提示しています。
友よ
私がしんだからとて
悲しんだり哀れんだりすることは無用なのだ
私にひとかけらの友情らしいものでも
抱いてくれるのなら
それはただ 私を忘れて立ち去ることだ
(長澤延子 17歳で自殺)
将校室内に木蓮、椿、桃薫る。
薫風微々として来り山林の梢を揺す。
出撃近きを感ず。書簡を焼く。
(穴沢利夫 福島県出身 23歳で戦死)
彼の婚約者への手紙は、男の勁さと優しさ、そして覚悟の悟りとはどんなものかを教えてくれるとともに、私自身の生き方をも問われているようです。
都内の桜が一斉に咲き出しました。長谷川等伯展に行った折、
(vol.11に「松林図屏風」を提示 http://www.fmu.ac.jp/univ/cgi/hana_disp.php?seq=26)
庭に満開の寒緋桜、アパートの前では葉が先に出る白い花弁の山桜を目にしました。華やかさとともに儚さを感じさせる桜です。
桜は何故か、西行に始まり、以来、芭蕉、そして現代の梶井基次郎「桜の樹の下には」、あるいは坂口安吾の「桜の森の満開の下」まで、死と色濃く結びついています。散り際の潔さだけが理由とは思えません。文化史的に深いものが背景にあるような気がしますが…。
今週の花材は、執務室は春に相応しい薄緑でまとめてあります。
秘書室は、紫の競演です。白磁といい調和を奏でています。
(福島県立医科大学理事長 菊地臣一)
約20年間、この時季、鶯が庭を訪れてくれています。鶯の寿命がどの位か分かりませんが、もし世代を繋いでいるとしたら、それはどう伝えられていくのか知りたいものです。
早朝での庭、鶯、
無人境うぐひす庭を歩りきけり (召波)
うれしくもわがものにして聞てけり このあかつきの鶯の声 (一葉)
彼岸の前後、鉄路からみえるあちこちの南向きの墓地に、彩り豊かな花が供えられているのをみることができます。彼岸は、あの世の死者と現世に残された者が出会うときでもあります。
この時季は、私にとっては、同世代の歌集を繙く時でもあります。松岡達宜(1948年生まれ)の「青空」は、我々の人生に深刻な影響を与えた大学紛争時代の1960年〜70年代の空気を伝えてくれます。その空気とは、“哀切”、“時代遅れ”、あるいは“虚しさ”のようなものです。
擦り切れしレコオド廻る夜の窓「左腕さみし」と告げゆくは風・風……
(著者注:マル・ウォルドロン「レフト・アローン」というジャズの名盤の迷釈を詩にした)
アメリカン・ブルーという名の煙草すう汝の指先に揺れる海波(さざなみ)
そして、福島泰樹(1943年生まれ)の戦没学生らへの「鎮魂」の評論集である「悲しみのエナジー −友よ、私が死んだからとて−」は、我々が失ってしまった「覚悟」、そして弱い人や貧しい人への「共感」を提示しています。
友よ
私がしんだからとて
悲しんだり哀れんだりすることは無用なのだ
私にひとかけらの友情らしいものでも
抱いてくれるのなら
それはただ 私を忘れて立ち去ることだ
(長澤延子 17歳で自殺)
将校室内に木蓮、椿、桃薫る。
薫風微々として来り山林の梢を揺す。
出撃近きを感ず。書簡を焼く。
(穴沢利夫 福島県出身 23歳で戦死)
彼の婚約者への手紙は、男の勁さと優しさ、そして覚悟の悟りとはどんなものかを教えてくれるとともに、私自身の生き方をも問われているようです。
都内の桜が一斉に咲き出しました。長谷川等伯展に行った折、
(vol.11に「松林図屏風」を提示 http://www.fmu.ac.jp/univ/cgi/hana_disp.php?seq=26)
庭に満開の寒緋桜、アパートの前では葉が先に出る白い花弁の山桜を目にしました。華やかさとともに儚さを感じさせる桜です。
桜は何故か、西行に始まり、以来、芭蕉、そして現代の梶井基次郎「桜の樹の下には」、あるいは坂口安吾の「桜の森の満開の下」まで、死と色濃く結びついています。散り際の潔さだけが理由とは思えません。文化史的に深いものが背景にあるような気がしますが…。
今週の花材は、執務室は春に相応しい薄緑でまとめてあります。
秘書室は、紫の競演です。白磁といい調和を奏でています。
(福島県立医科大学理事長 菊地臣一)
今週の花
【理事長室】
■カラー(グリーン) サトイモ科/原産:南アフリカ/別名「オランダカイウ」/《名前の由来》花(苞)が襟(カラー)に似ていることから/江戸時代にオランダから渡来。オランダから海を渡ってきた芋「阿蘭陀海芋」という別名を持つ。花弁のように見える部分は苞で、その中に棒状の花序がある。
■モルセラ シソ科/一年草/原産:シリア/《名前の由来》インドネシア・モルッカ諸島原産と間違えられたことから/別名「シェルフラワー」大きなガクが二枚貝のように見えることから/ミントのような芳香がある。春に白っぽい花が咲く。花を包むような大きな緑のガクを観賞し、グリーンとして利用する。爽やかなグリーン色と独特の茎のラインが特徴。
※拡大写真http://www.fmu.ac.jp/univ/hana_img/72_zoom1.jpg
(無断転載等はご遠慮ください)
■カラー(グリーン) サトイモ科/原産:南アフリカ/別名「オランダカイウ」/《名前の由来》花(苞)が襟(カラー)に似ていることから/江戸時代にオランダから渡来。オランダから海を渡ってきた芋「阿蘭陀海芋」という別名を持つ。花弁のように見える部分は苞で、その中に棒状の花序がある。
■モルセラ シソ科/一年草/原産:シリア/《名前の由来》インドネシア・モルッカ諸島原産と間違えられたことから/別名「シェルフラワー」大きなガクが二枚貝のように見えることから/ミントのような芳香がある。春に白っぽい花が咲く。花を包むような大きな緑のガクを観賞し、グリーンとして利用する。爽やかなグリーン色と独特の茎のラインが特徴。
※拡大写真http://www.fmu.ac.jp/univ/hana_img/72_zoom1.jpg
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【秘書室】
■グラジオラス(名もなき花) アヤメ科/球根植物/原産:南アフリカ/《名前の由来》ラテン語で「剣」を意味する「gladium」より、葉の鋭く尖った形に由来/園芸品種は1000種以上あり、春咲きと夏咲き種がある。花色が豊富でとても華やかな花。「名もなき花」は長崎の生産者・吉村氏のオリジナル品種。
■スカビオサ(プリティパープル) マツムシソウ科/原産:ヨーロッパ/別名「西洋マツムシソウ」/明治時代に渡来。日本に自生する松虫草に比べ、花が大きくこんもりとし、花色も豊富。「プリティパープル」は紫に白が混ざったシックな色合い。
※拡大写真http://www.fmu.ac.jp/univ/hana_img/72_zoom2.jpg
(無断転載等はご遠慮ください)
■グラジオラス(名もなき花) アヤメ科/球根植物/原産:南アフリカ/《名前の由来》ラテン語で「剣」を意味する「gladium」より、葉の鋭く尖った形に由来/園芸品種は1000種以上あり、春咲きと夏咲き種がある。花色が豊富でとても華やかな花。「名もなき花」は長崎の生産者・吉村氏のオリジナル品種。
■スカビオサ(プリティパープル) マツムシソウ科/原産:ヨーロッパ/別名「西洋マツムシソウ」/明治時代に渡来。日本に自生する松虫草に比べ、花が大きくこんもりとし、花色も豊富。「プリティパープル」は紫に白が混ざったシックな色合い。
※拡大写真http://www.fmu.ac.jp/univ/hana_img/72_zoom2.jpg
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